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日本における電子マネー利用実験の動向

(1998.12)


 「未来のお金」と脚光を浴びて久しい「電子マネー」だが、現状、日本ではどのような取り組みがなされているのだろうか?
 今回は電子マネーの定義、そして日本における電子マネー利用実験の動向の整理を試みる。
●電子マネーとは?(定義、バックグラウンドの整理)
 現在、「電子マネー」という言葉は新聞を始め、様々なメディアで多く取り扱われているが、その使われ方は一様でなく、定義も「これだ!」というものは特に定まっていないように思われる。ここで敢えて、出来るだけ客観的に「電子マネー」という言葉の定義を試みると、次の様になると考えられる。
◆ユーザから見た決済方法の電子化(広義の電子マネー)
今まで、ユーザーが現金を使って行なっていた決済(支払い)を、何らかの電子的な指示を行なうことによって現金を使わずかつ安全に実現するシステムで、以下の3つに大別できる。
(1)クレジットカード型
(2)デビットカード型
(3)その他の決済サービス
何れも最終的には、銀行間の口座振替など既存の決済システムに依ることになる。

◆貨幣価値の電子化(狭義の電子マネー)
貨幣価値そのものをディジタル・データとして電子化し、流通させるシステムで、以下の2つに大別できる。
(1)ICカード型
(2)ネットワーク型
データ自体に貨幣価値があるので、ユーザが何かしらの方法でそれを入手した後は、そのやり取りで支払いは完結し、既存の決済システムの介在は必ずしも必要ではなくなる。
 以上の定義をもとに現存の電子マネーを分類すると図1の様になる。


●日本における電子マネー利用実験の動向

 このところ(昨年後半辺りからか?)、日本でも大小様々な電子マネー利用実験や電子決済実験が行なわれ、新聞紙上を賑わせており、なかには「実験ではなく、既に実用化を開始している!」というスタンスの事業者も出てくるようになってきた。
 しかし、どれをとっても利用者の生活に密着しているとは言えず、概して見れば、未だ黎明期であるという感は否めない。  ここでは、これらの試みの中でも特に市場の注目度が高いと思われる「ICカード型電子マネー利用実験」と「デビットカードサービス」について、現在行われているもの、そして今後行われる予定のものの概要を簡単に整理してみる。なお、詳細については各ホームページをご参照いただきたい。

(1)SCJ(Smart Commerce Japan)
 実証実験(http://www.scj.or.jp/news/980511.html)
【目的】
  • EMV仕様ICカードによる多目的電子決済の実証実験(ICクレジット、SVC、磁気クレジット)
  • インターネット上のクレジット決済「SET」の日本市場適用実験
  • 電子マネーのリアル/バーチャル相互適用性の実証実験
【電子マネーの方式】
Visa Cash(クローズド・ループ型、リローダブル型)
【実験期間】
'97年10月〜'98年4月(カードは’98年末まで利用可能)
【場所】
  • 神戸 三宮・ハーバーランド地区(リアル)
  • 「Click & Shop」(インターネット上:SET)
  • 「毎日デイリークリック」など(インターネット上:Visa Cash)
【規模】
  • 参加企業(SCJ):32社(主幹事会社:東芝、VISAインターナショナル)
  • 加盟店端末:650台
  • リロード端末:24台
  • ICカード発行枚数:約30,000枚(リアル25,000枚+バーチャル5,000枚)
【利用状況】
 Visa CashのリロードVisa Cashの利用ICクレジットの利用
合計件数7,419件30,098件7,880件
合計金額79,137,448円56,177,961円64,851,558円
平均10,667円/件1,876円/件8,230円/件
*期間は’97年10月〜 ’98年4月
*SCJ ホームページ(http://www.scj.or.jp/news/980511.html)参照
【その他】
本実験は通産省電子商取引推進事業の一環として実施されている。

(2)郵便貯金磁気カードのICカード移行のための実証実験
 (http://www.mpt.go.jp/)
【目的】
国民・利用者がICカードを安心して活用できるようにするため、その利用動向、技術条件等を把握。(磁気カードのIC化、電子財布サービスが主眼)
【電子マネーの方式】
自動払込による独自方式(クローズド・ループ型、リローダブル型、換金も可能)
*郵政省では電子マネーではなく、「郵便貯金の電子財布サービス」と呼んでいる。
【実験期間】
'8年2月〜 '99年3月(来年度以降も数年間は継続予定)
【場所】
大宮市内及びJR大宮駅周辺(リアルのみ)
【規模】
  • 参加企業:33社
  • 実験参加店舗数:102店舗(公衆電話、駅の券売機なども含む)
  • 取扱郵便局:47局のATM・CD(65台)及びCTM(窓口端末)でICカード対応
  • 移替端末機:1,000台(モニターに配布、自宅から公衆回線経由でICカードの利用が出来る)
  • ICカード発行枚数:70,000枚(予定)
【利用状況】
 電子財布
サービスの保留
('98年2月9日〜5月)
電子財布
サービスの利用
('98年2月9日〜4月末)
電子財布
サービスの利用
('98年2月9日〜8月末)
ICカードの
発行枚数
('98年9月末日現在)
合計件数5,619件11,666件32,032件49,715件
合計金額97,511,077円15,586,624円45,514,590円
平均17,354円/件1,336円/件1,421円/件
*郵政省ホームページ(http://www.mpt.go.jp/)参照
【その他】
郵政省は、郵貯カードの更なる機能充実を図るために、来年3月より、一枚のカードで複数の機能(ICクレジットカード、ICキャッシュカード、デビットカード)を国内外で利用できるようにすることを発表している。

(3)渋谷スマートカードソサエティー実験(http://www.visa.co.jp/digital/sss.htm)
【目的】
ICカード本格導入に先立つ首都圏エリア実験
【電子マネーの方式】
Visa Cash(クローズド・ループ型、リローダブル型/ディスポーザブル型)
【実験期間】
'98年7月16日(カード会社実用化実験開始)〜 ' 99年10月(予定)
【場所】
東京 渋谷地区(リアルのみ)
【規模】
  • 参加企業(SSS):46社('98年9月7日現在)
    (金融機関20社、メーカー25社、VISAインターナショナル)
  • 利用拠点数:約2,000ヶ所(予定)
  • ICカード発行枚数:130,000枚(予定)
【利用状況】
 Visa Cashの
リロード
Visa Cashの
利用
ICカードの
発行枚数
加盟点数/端末台数
合計
件数
約5,800件20,098件86,529枚
リロータブル型:
35,053枚
ディスポーザブル型:
51,476枚
約850店
約1,200台(拠点)
合計
金額
約44,000,000円28,767,000円
平均約7,600円/件1,431円/件
*期間は'98年7月16日〜 '98年9月末
*報道発表資料等を参照

(4)サイバービジネス協議会実験(http://www.icash.gr.jp/)
【目的】
  • ソフトウェアやコンテンツなど、ネットワーク上で配送し得る商品の決済手段として電子マネーが適しているかの検証
  • 電子マネーが消費者に及ぼすメリット/デメリットの検証
  • サービス運用面のノウハウの蓄積
  • インターネットでの電子マネーの安全・確実な伝送技術の確立
【電子マネーの方式】
Internet Cash (クローズド・ループ型/オープン・ループ型、リローダブル型、換金も可能)
【実験期間】
:'98年9月21日〜 '99年2月末
: '99年4月〜 2000年3月末(予定)
【場所】
インターネット上のバーチャルショップ(バーチャルのみ)
【規模】
  • 参加金融機関数:3社
  • 参加加盟店数(バーチャルショップ):15社(確定分、順次拡大予定)
    ではディジタルコンテンツ販売のみ、物販はから実施予定)
  • ICカード発行枚数
    1,000枚(予定、参加企業の従業員対象)
    10,000枚(予定、一般利用者対象)
【利用状況】
利用状況に関する報道発表なし、関係者によるとICカード発行枚数は11月の段階で500枚強程度?
【その他】
  • Internet Cashでは、NTT開発の電子マネー方式を一部改良して利用されている。
  • '99年夏頃を目処に、海外のバーチャルショップを含めた国際実験を実施することを発表している。

(5)スーパーキャッシュ共同実験(http://www.ntt-ad.co.jp/s-cash/)
【目的】
  • 電子マネーのフィージビリティー(実行可能性)を検証する実証実験
  • ネットワーク上での安全・確実な決済を目指す実証実験
【電子マネーの方式】
Super Cash (クローズド・ループ型、リローダブル型、個別銀行発行型)
【実験期間】
'99年2月〜(パイロット実験開始)
'99年4月〜2000年5月(予定)(一般参加者による実験)
【場所】
  • 新宿区など(リアル実験)
  • インターネット上のバーチャルモール(バーチャル実験)
【規模】
  • 参加銀行数:24行
  • 参加加盟店数:約1,000店舗(リアル実験)、約10モール(バーチャル実験)
  • ICカード発行枚数: 約10万枚(リアル実験、内1万枚はバーチャル実験を兼ねる)
【その他】
一部公衆電話で利用可能、自販機や券売機での利用や加盟店ポイントカードとの連動も検討中。

(6)デビットカードサービス(日本デビットカード推進協議会)
 (http://www.debit.or.jp/)で情報提供サイトを開設予定
【方式】
J-Debit(デビットカードサービス)
【開始時期】
'99年1月4日〜(限定的な運用を開始)
'99年10月1日〜(クリアリングセンターを開設し、本格的な運用を開始)
【場所】
全国
【規模】
協議会への参加企業数 ('98年11月24日現在) :金融機関 915行、企業等 124社そのうち、'99年1月4日〜からは金融機関 8行(郵政省、富士銀行、三和銀行、第一勧業銀行、大垣共立銀行、東和銀行、東京相和銀行、城南信用金庫)と企業等 8社(西武百貨店、きょうと情報カードシステム、ローソン、コスモ石油、日本交通公社、近畿日本ツーリスト、ビックカメラ、大和證券)が運用を開始する。
【その他】
  • 関係者によると、「クリアリングセンター」とは決済情報を集中管理し、加盟店−金融機関間の処理を一括で仲介する機関で、'99年10月1日に開設され、加盟店、金融機関双方が同センターを利用することによって、個別の加盟店契約等が不要になるとのこと。
  • 同協議会は11月4日に5年後と10年後の目標設定を発表した。それによると加盟店側に設置する接続端末数は5年後に75万台、10年後には120万台を目標にしており、年間の利用件数は5年後で11億〜22億件、10年後で25億〜50億件を目指すとのこと。


●さいごに

 さいごにこれらの電子マネーが普及するためには、何が重要なのか?筆者なりに考えたことを少し書きたいと思う。
 今までの実験や取り組みを1人のユーザとして見てきて一番感じることは、「電子マネーって何となく便利そうだけど、具体的にはどこでどういう風に使えば便利/トクなのか?」というのがよく分からないということだ。これは加盟店という立場に立っても同じことが言えるのかもしれない。

 そもそも現金も含めて、図1にあるような様々なサービスは、その性質上、必ず「強みと弱み」、「適する市場と適さない市場」があるはずで、その「適した市場」で使われてはじめて、その強みを発揮し、ユーザーにそして加盟店に便利/トクと思わせることができるのではなかろうか?もしそうだとすると、

  • 最適な市場を明確化する、若しくは最適な市場を創出する
  • ユーザー、加盟店、サービス提供者(電子マネー発行者)の3者でメリットを共有できるようなビジネススキームを構築する
  • ユーザー、加盟店がどのような便利/トクを得ることが可能なのか、出来るだけ明確に提示する
という3つの項目が非常に重要であると筆者は考えるのである。

 サービス提供者(電子マネー発行者)側からすると「そんなの当たり前、今まさに、実験でこれらを探っているのだ!」と思われるかもしれないが、筆者はそのスピードに物足りなさを感じているのかもしれない。

(システム応用研究部 楢崎兼司)
e-mail:narazaki@icr.co.jp

(入稿:1998.12)

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