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混迷の度を増す
ベル地域電話会社の長距離通信参入問題

(1998.2)


 12月24日にFCCは、ベルサウスのサウスカロライナ州における営業地域内発信の長距離通信(LATA間通信)参入申請を却下した。FCCによる申請却下は、これで3件目ということになる。なかなか実現しないベル地域電話会社(RBOC)による長距離通信参入申請について、これまでの経緯を振返っておきたい。

 1996年2月8日に成立した新電気通信法は、RBOCに対し、市内通信市場の開放を条件として長距離通信に参入することを認めた。具体的には、施設ベースでの競争の存在を示す(トラックA)か、あるいは、新規参入者から相互接続協定交渉の請求がない場合には、市内網を競争に開放する条件を満たしていることを示す(トラックB)ことが必要とされ、その上で14項目に及ぶ「競争的チェックリスト」に適合していることを証明しなければならない。

 RBOCの中で最初にFCCに対してこの申請を行ったのは、アメリテック(ミシガン州)であった(97年1月)が、同社のこの申請は2月11日に一旦取り下げられている。FCCが正式に判断を下した最初の申請は、SBC(オクラホマ州)の申請であった。SBCは、実際に施設ベースでの競争が存在するとして、トラックAで申請を行った。

 しかし、FCCは同州の住宅用サービスについては、ブルックス・ファイバー社が、4件について無料の試験サービスを提供しているのみ(しかも、その4件はブルックス・ファイバーの社員宅)であることから、「住宅用市場に関して競争が存在するとはいえない」と判断した。FCCは同州の事務用市場に競争が存在するかどうか、あるいはSBCが14項目のチェック・リストの要件を満たしているかどうかの判断は行わないまま、SBCの申請を却下した(97年6月)。

 FCCが下した2つ目の判断は、アメリテック(ミシガン州)の申請であった。ほとんど門前払いのような形で却下されたSBCの申請と比べると、アメリテックの申請は格段の差があった。FCCは同社がブルックス・ファイバー社との相互接続によりトラックAの要件を満たしているとした上で、14項目のチェック・リストについて適合しているかどうかの判断を下した。その結果、「運用サポート・システム(OSS)への非差別的アクセス提供」「非差別的な相互接続提供」「911、高度911に対する被差別的アクセス提供」の3点を満たしていないとして、FCCは同社の申請を却下した(97年8月)。しかし、FCCはアメリテックの市内通信市場開放努力を評価し、この却下が他のRBOCの申請に対するガイドラインとなるであろうと語った。

 しかし、次のベルサウスの申請内容は、「奇襲」と呼ばれるような内容であった。同社はサウス・カロライナ州、ルイジアナ州について相次いで申請を行っているが、前者は競争事業者が参入しておらずトラックBでの申請であり、また後者はトラックAの申請であるが、施設ベースでの競争相手としてPCS事業者を引合いに出すというものであった。いずれも早い時期から却下されるであろうと予想されていた。同社は、営業エリアの他の各州でも申請の準備を進めており、「FCCに数多くの申請を却下させ、RBOCが不当に差別を受けているとの世論形成が目的なのではないか」との憶測を呼んでいる。

 FCCがサウスカロライナ州のベルサウスの申請を却下したのは、同社が14項目のチェックリストの内「OSSへの非差別的アクセス提供」「アンバンドル網要素の提供方法」「すべての小売サービスの卸売料金での提供」の3点を満たしていないと判断するとともに、同社の申請がトラックBに該当していないからであるという。

 このように、3件続けて却下されてきたRBOCの長距離参入申請であるが、12月31日に状況は一転した。オクラホマ州における申請却下の後、「長距離市場参入などについてRBOCのみに厳しい条件を課している1996年通信法の条項(271条〜275条)は違憲である」として、テキサス州北部にある連邦地裁に訴訟を起こしていたSBCの主張が、同連邦地裁によって認められたのである。これには、FCC、司法省を初めとする米国政府や長距離通信事業者などから一斉に反対の声があがり、この判決を上級審に提訴することが表明された。

 しかし、このような反対の声にはお構いなしに、SBCは年明けの5日、SNET(サザン・ニューイングランド電話会社)の買収を発表した。SNETはコネチカット州に拠点を置く地域電話会社であるが、独立電話会社であるため、既にエリア内で長距離(LATA間)通信サービスを提供しており、買収が完了すれば、SBCは自動的に長距離サービスを提供することとなる。また、サウスカロライナ州の申請を却下されたベルサウスは、FCCの判断をワシントンDC連邦控訴裁に提訴するとともに、通信法の271条〜273条は違憲であるとの提訴を行っている。このような動きを受けてFCC側も、「ベル電話会社の長距離参入に関する協調的アプローチ」を提案するなど、妥協点を模索し始めている。

 新電気通信法の違憲判決に関しては上級審で覆るとの見方が多いものの、FCCは、2月4日までにベルサウスのルイジアナ州における申請の判断を行うことになっている。判断をするためのモノサシが違憲と判断されている状況で、FCCがどのような判断を下すのかが注目される。

(海外調査部 清水 憲人)
e-mail:simizu@icr.co.jp

(入稿:1998.2)

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