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米国における市内通信競争と
長距離通信事業者の市内事業戦略

(1998.4)


米国における市内通信競争と
長距離通信事業者の市内事業戦略

(1998.3)


  1. 遅々として進まない市内通信競争
  2. 長距離通信事業者の市内通信市場への参入の現状
  3. AT&TとMCIによる、市内リセール事業見直し
  4. 大手IXCが相次いで市内リセール事業を中断した理由

1.遅々として進まない市内通信競争
 米国では1996年電気通信法(以下、新通信法)の成立にともない、市内通信市場における競争が飛躍的に発展するものと期待された。しかし、新通信法が成立してちょうど2年が経過した現時点において、競争的市内交換事業者(CLEC)が市内通信市場全体で獲得したプレゼンスは、FCCの発表した「Two years after the act fact sheet」によれば、下記のようにまだまだ微々たるものである。

CLECの活動状況(FCC資料による)

  • CLECが1997年末で提供している顧客回線数は150万回線。
    (注:米国全体の電話加入回線数は約1.6億回線)
  • CLECが獲得した市内通信市場の収入に占めるシェアは2.6%。
  • CLECは全米の33州132都市に交換機を設置している。

 既存の市内交換事業者(ILEC)の強固な独占を打破する役割は、AT&T、MCIなどの大手長距離通信事業者(IXC)に期待されている。しかしながら、1998年1月29日の日本経済新聞において、「米長距離通信事業者、地域電話から相次ぎ撤退」と報じられたように、大手IXCの市内参入戦略は順調とは言い難い状況にある。しかし、後述するように、この両社は再販売方式による住宅顧客向けの市内通信サービスの提供を中断しただけであり、決して市内通信市場への参入を全面的に撤廃したわけではない。本レポートにおいては、IXCの今までの市内市場への参入状況はどのようなものであり、何故、再販売による市内サービスの提供中止という判断をせざるを得なかったのかについて解説してみたい。

2.長距離通信事業者の市内通信市場への参入の現状
(1)AT&T
 AT&Tは市内通信市場への参入に現在までに約30億ドルを投じてきた。1997年7月の時点において、同社は44州とDCにおいてCLECとしての認可を既に取得している(現時点ではほぼ全州で取得済みと思われる)。しかし、ライバルのMCIの市内戦略とは大きく異なり、AT&Tの市内通信市場への参入は、ILECから購入した市内通信サービスを再販売するという「リセール」方式を中心とするものであった。また、対象としてきた顧客層も住宅ユーザーが中心であった。AT&Tは現在では全米6州において、約50万の市内顧客を擁している。また、同社の市内通信市場事業の収入規模は、1997年第1四半期で4.59億ドル、第2四半期で5.24億ドル、第3四半期で5.6億ドルとなっている。

(2)MCI
 MCIは大手のIXC3社の中では、市内通信事業への参入に最も積極的な会社として知られている。同社は1995年に市内通信子会社のMCIメトロ社を設立し、AT&Tとは対照的に設備設置ベースで、ビジネス顧客中心に市内サービスを提供する戦略を取ってきた。しかし、いくつかの大規模な州では、住宅顧客向けにILECのサービスをリセールすることも行なっている(リセールによる市内通信事業は、MCIメトロではなく、MCI本体が提供)。同社が過去3年間に市内通信事業に投じた金額は17億ドルにのぼる。また、1997年半ばまでには35州でCLECとしての認可を取得し、さらに10州で申請中であった。サービスの提供状況は下記の通りである。

全米の36市場に27台のCLASS5交換機(市内交換機)を設置し、69の市内通信網を所有している。(1997年7月現在)
[対ビジネス顧客]1997年末時点で31都市で市内交換サービスを提供中。
[対住宅顧客]カリフォルニア、イリノイ、ミシガン、ニューヨークの4州で市内交換サービスをリセールにより提供中。
 しかし、MCIの市内事業も収支的には苦しい状況にある。同社は昨年後半に1997年度で8億ドルにのぼる市内事業による損失見込みを発表した。これが、BTによるMCI買収条件の見直し(210億ドルから170億ドルへの引下げ)につながり、両社の合併が御和算となる引き金になったことは、記憶に新しい。

(3)スプリント
 スプリントはもともと、19州で約700万の加入者を持つ、全米第9位の市内電話部門を有している会社である。市内市場の拡大戦略については、当初はケーブルTV会社3社(TCI、コックス、コムキャスト)との合弁事業により、ケーブルTV網を通じた市内電話サービスの提供を行おうとしたが、これが頓挫し、現在は同連合で26.45億ドルを投じて取得したPCS周波数を利用して、スプリントPCSという会社を通じてPCSサービスを提供している。

3.AT&TとMCIによる、市内リセール事業見直し
 上述したように、AT&TとMCIは取り組みの熱意に違いはあるものの、いずれも住宅顧客を対象に、ILECから購入した市内電話サービスをリセールにより提供してきた。しかし、両社は最近になり、相次いでリセール事業からの撤退を表明している。

(1)AT&T
 AT&Tがリセール・ベースでの市内通信市場への参入について、今後は新規のマーケティングを行わないことを発表してきた経緯は、下記の通りである。

  • 1997年11月中旬:ゼグリス社長がリセールで市内交換サービスを提供している6州について、今後は新たな住宅顧客の開拓を行わないことを発表。
  • 1997年12月:アームストロング新会長が今後の方針案を発表し、コア・ビジネスに集中することを明らかにする。コア・ビジネスは「市内通信」、「ワイヤレス」、「インターネット」、「国際通信市場」の4つであるが、市内通信については、再販売にかかる費用(年間20億ドル)を直接投資に振り向けることとし、市内再販事業は「棚上げとする」ことにした。
  • 1998年1月8日:最大手のCLECのテレポート社を113億ドルで買収することを発表。
  • 1998年1月26日:アームストロング会長が経営改革方針を発表。
1月26日にアームストロング会長が発表した経営改革方針における、今後の市内事業戦略の骨子は下記の通りである。


  • 消費者とビジネスに対する市内サービスは、エンド・エンドの通信サービスを提供するための鍵として、今後もAT&Tの優先課題として残る。
  • 「トータル・サービス・リセール(TSR)」による市内サービス参入は中止したが、既存の市内顧客に対するサポートは継続する。
  • TSRの割引率は経済的に成り立つほど十分大きなものではない。TSRの平均の割引率の22%と比べて、長距離通信事業者はリセラーに50-60%の割引を提供している。
  • 住宅顧客に対して市内サービスを提供する有効なオプションは、ベル電話会社のネットワーク要素のアンバンドリングである。ベル電話会社がそのネットワーク要素の料金を妥当な水準に設定するならば、AT&Tはその方法を推進することを約束する。
  • 長期的には、AT&Tは市内サービスを提供するための代替的な技術を積極的に追求していく。それらは、移動無線、固定無線、広帯域ケーブルTV、電力線などである。

(2)MCI
 MCIのティモシー・プライス社長(COO)は、1月22日に全米記者クラブで行ったスピーチの中で、今後は設備設置ベースでの市内通信事業に資源・投資を集中することを発表した。

プライス社長のスピーチ内容

  • 今後は経済的(収支的)に意味の有る事業だけを推進していく。
  • 現在のような規制環境が続くならば、MCIは新規の住宅顧客にリセール・サービスを提供することはしない。ただし、既存の住宅顧客へのサービスは継続する。
  • 「リセールや過大な料金の(ILECの)ネットワーク要素に金をつぎこむことは、投資ではなく、どぶに金を捨てるようなものである」
  • 今後は、まず、ビジネス・ユーザー向けに市内設備を構築していき、その後、それらの交換機を使って、加入回線が手頃な料金であれば、住宅ユーザーにもサービスを展開していく。
  • 市内サービスが不採算な事業というわけではない。ILECは40%以上というマージンを得ており、彼らにとっては非常に高収益の事業である。
  • MCIワールドコムの合併こそが全米の国民に市内電話会社を選択するための機会を与える最良の方法である。
  • 「MCIがワールドコムと合併することに合意した最も重要な理由は、市内電話市場に対する参入を拡大できるからである」
  • 合併が完了すると、設備ベースで市内サービスを提供できる市場の数が、31ヵ所から100ヵ所へと3倍に拡大する。

4.大手IXCが相次いで市内リセール事業を中断した理由
 最後に、上記のスピーチにおいても部分的に明らかにされているが、AT&TとMCIという資金力も巨大で、CLECの切り札として期待される会社が、なぜ住宅顧客向けの市内リセール事業だけとはいえ、市内通信市場への参入戦略を変更するに至ったのか、その理由を考察してみると、次の4点に集約される。
  1. 再販売による市内通信サービスの提供は、ILECから受ける割引率が20%程度では事業が採算に乗らない。

    *AT&T「市内再販事業は1加入あたり1.5〜2ドル/月の赤字を生み出している」

  2. 住宅用顧客ではなく、収益性の高いビジネス顧客に対する設備ベースでのサービス提供に集中する。
    • AT&T−ディジタル・リンク・サービス
    • MCI−MCIメトロの基本戦略は設備ベースでの参入

  3. 既存の大手のCLECを買収して、その設備を最大限に活用する。
    • AT&T−テレポート
    • MCI−合併予定のワールドコムは、1997年1月にテレポートとならぶ大手のCLECのMFSを140億ドルで買収している。

    〔MFSの収入規模〕 1994年(2.29億ドル)  1995年(4.98億ドル)

  4. ベル電話会社の域内LATA間市場への参入に対する嫌がらせ?
    ベル電話会社は新通信法の規定により、自社の市内交換市場において、住宅顧客とビジネス顧客の双方に競争的市内サービスを提供する事業者(CLEC)が存在しない限り、域内発信の長距離通信サービス(LATA間通信サービス)の提供を認められない。

(海外調査部 神野 新)
e-mail:kamino@icr.co.jp

(入稿:1998.2)

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