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米国の電気通信事業における外資規制の変遷と現状

(1998.4)


 米国における電気通信事業における外資規制は、連邦通信法の第214条と第310条において、下記のように規定されている。

連邦通信法214条(線路の延長)

  1. 通信事業者が線路設備の建設・運用及びサービスの廃止・縮小等を行うには、FCCから事前に認可を取得しなければならない。
  2. この認可の申請を受理した場合、FCCは国防や公共の利益等の配慮から、当事者に国防長官等の関係者へ通知をさせなければならず、これらの通知を受けた者は意見を述べる権利を有する。
  3. FCCは公衆通信事業者に対して適切な施設の設置、線路の延長、営業所の開設を許可し、または命令できる。

連邦通信法310条(免許の所有及び移転についての制限)

 外国政府、外国人、外国人が役員である会社および外資比率が20%を超える会社に対しては無線局免許が付与されず、またFCCの認定により外国人が役員である会社もしくは外資比率が25%を超える会社の子会社に対しては無線局免許が付与されない。
(注)上記のうち、「外国人が役員である会社」という部分は、1996年電気通信法により削除された。

 実際には、外資系の通信事業者による米国市場への参入の申請や、米国系通信事業者への投資に関する規制は、上記の2つの条項を施行する、さまざまなFCCの規則に従って行われてきた。また、それらとは別に、国際通信における精算料金の収支赤字の改善の観点から、FCCは国際精算料金を基準とする外資規制の制定を行ってきた。それらをまとめたのが下記の表である。

米国の電気通信事業における外資規制の規則制定の歴史
1987年1月「規則政策及び国際通信の調査及び規則制定提案」
(相互主義的規制の提案)
1988年12月「電気通信サービスの計算料金と収支赤字」報告書
1991年12月「国際再販売命令」(同等性の確認テスト)
1995年2月「外資関連事業体による参入及び規制に関する規則制定提案」
1995年11月「外資系通信事業者参入命令」(ECOテスト)
1996年11月「国際精算料金に柔軟性を認める規則」
(ECOテストをパスすれば、現行の精算方法の適用除外を行う)
1996年12月「国際精算料金のベンチマーク規則制定提案」
1997年2月 ※WTO基本テレコム交渉における合意の成立
1997年6月「米国通信市場に外国通信事業者が参入する際の規則および政策に関する命令及び規則制定提案」
(同等性の確認テスト、ECOテストの廃止-相互主義の転換)
1997年8月「国際精算料金のベンチマーク規則命令」
1997年11月「米国通信市場の外国通信事業者に対する自由化に関する報告及び命令」
1998年1月※WTO合意に基づく各国通信市場の自由化(当初予定)

1.第214条による参入申請の審査

 外国企業による第214条に基づく米国通信市場への参入申請(以下、214条申請)の認可は、同条に規定されている参入条件としての「公共の利益基準」によって審査されてきた。公共の利益基準は下記の4項目から構成されている。
〔公共の利益基準〕
  1. 参入に関する相互主義
  2. 米国市場の競争に関する一般的な重要性
  3. コストに基づく国際計算料金の存在
  4. 行政府からの要請
    • 安全保障-国防総省、FBI
    • 外交政策-国務省
    • 貿易問題-USTR 等
 このうち、1.の「参入に関する相互主義」を具体的に検証する手段として、FCCは「同等性の確認テスト」と「効果的な競争機会テスト(ECO:Effective Competitive Opportunity)」を、それぞれ1991年と1995年の命令において導入している(前述のFCC規則制定の表を参照)。これらのテストは、参入の形態により、下記のように適用されてきた。

参入形態適用されるテスト備考
国際単純再販売(公専公接続)相手国における参入機会の同等性の確認テストWTO基本テレコム交渉の合意を受けて、
FCCはWTO加盟国について、
左記の相互主義的なテストを除外することを決定した(1997年11月)。
設備設置ベース効果的な競争機会テスト(ECOテスト)
専-専-専
公衆網の再販売
無線局免許

(1)国際単純再販売による214条申請の審査
 上述したように、1991年の「国際再販売命令」において「同等性の確認テスト」が盛り込まれ、この分野における相互主義が明確に打ち出された。その後、FCCは1992年11月に「国際再販売命令の明確化命令」を発出し、このテストの適用対象を国際単純再販売に限定することを明確にした。しかし、このテストは外国市場に対して厳しい市場開放要件を課すものであったため、長らくテストに合格する国が出なかったが、1994年5月のカナダを皮切りに、現在までに、英国(1994年10月)、スウェーデン(1996年1月)、ニュージーランド(1996年12月)の4カ国が米国との間の国際単純再販売を認められている。

 同等性の確認テストは、母国市場においてドミナント・キャリアであるかどうかにかかわらず、当該ルートで最初に国際単純再販売の提供申請を行う事業者に適用されてきたため、米国-カナダ間、米国-英国間で認可を受けた事業者は、それぞれ、フォノローラ/EMI、ACC/アラナというノン・ドミナント・キャリアであった。

(2)その他の形態(設備設置ベース、専専専、公衆網再販売、無線局)による214条申請の審査
 FCCは1995年11月に「外資系通信事業者参入命令」を発出し、国際単純再販売以外のサービスにも相互主義の適用を行うことを目的として、「効果的な競争機会(ECO)」テストの導入を決定した。

ECOテスト

  • 214条認可の「公共の利益」基準の新たな判断基準として、米国系事業者が相手国において実態的に参入・競争し得るかどうかを判定するテストを導入する。
  • ECOテストが適用されるのは、母国市場において支配力を有する外資系の通信事業者もしくはその関連会社であり、この点が、ドミナントであるかないかにかかわらず、最初に申請を行ったものに適用される、国際単純再販売における「同等性の確認テスト」と大きく異なっている。

 ECOテストの基準とされたのは以下の4点である。

  1. 法的かつ実態的に、米国の通信事業者が設備ベースで相手国の国際交換電話サービス市場に参入可能であること。
  2. 相手国の国内において、公正かつ透明な相互接続が実現されていること。
  3. 相手国において、反競争的な行為を防止するためのセーフガードが存在すること。
  4. 相手国において有効かつ透明な規制の枠組が存在すること(独立した規制機関の存在など)。

2.第310条による参入申請の審査

 通信法第310条は米国の(無線免許を有する)通信事業者に対する外資の上限を直接投資の場合20%、間接投資の場合は25%としているが、間接投資の場合はBTによるMCIの100%取得が認められたように、相手国の市場開放度に応じて、また、公共の利益に合致すると判断した場合、FCCは上限を上回る投資を認める裁量権が与えられている。

(参考)MCIに対するBTの出資上限の推移(FCCによる310条の適用除外)

  • 25%の上限を28%まで増加(1994年7月)
  • 上限を35%まで拡大(1995年8月)
  • BTによるMCIの完全取得を認可(1997年8月)
 FCCは1995年11月の「外資系通信事業者参入命令」において、第214条申請に対するECOテストの適用とあわせて、第310条申請の審査の場合においても、相手国の同様のサービス市場(例えば、米国のセルラー事業者の買収の時には、相手国のセルラー・サービス市場)において同等の投資機会が開かれているかを考慮に入れるという相互主義的な手続を導入した。

*BTによるMCI完全買収をFCCが認めた条件の1つに、英国政府が所有しているBTの黄 金株を手放すという、BTに対する外資規制の完全撤廃があったのは記憶に新しいところである。

3. 相互主義的な外資規制の見直し

 FCCは1995年11月の「外資系通信事業者参入命令」の中において、WTO基本テレコム交渉の進捗に応じて、同命令の再考を行うことを明言していた。

 その後、WTO基本テレコム交渉の合意(1997年2月)により、市場アクセスと競争セーフガードが実現する見込みが立ったことから、FCCは1997年11月の「米国通信市場の外国通信事業者に対する自由化に関する報告及び命令」により、「WTO基本電気通信合意とWTO加盟国における市場開放努力に鑑み、外国事業者の参入を規制する従来の政策を、WTO加盟国の事業者に関しては自由参入政策(Open market policy)」に置き換えることが可能である」として、WTO加盟国について、米国市場への参入条件に相互主義(同等性の確認テスト、ECOテスト)を課すことを取り下げる決定を行った。ただし、その他の公共の利益テストは引続き適用される。

今回の決定により、WTO加盟国の事業者は、

  1. 施設設置ベース、公衆網の再販売、専-専-専による国際通信の提供に関する通信法第214条に基づく認可申請
  2. 無線局免許を所有する米国事業者に対する間接投資制限である25%を超える投資の認可
  3. 海底ケーブルの引き上げ免許の取得
の場合について、従来は課されてきたECOテストの適用が免除される。また、国際専用線の単純再販売による米国市場への参入に対して課されてきた「同等性の確認テスト」についても、同時に廃止されることが決定された。

 FCCは上記の(1)〜(3)の申請について、今後は下記のような簡素化された手続を適用するとしながらも、報告義務については継続し、反競争的行為を監視していく姿勢を明らかにしている。

〔改定された基本的なセーフガード〕

  • タリフ届出の義務を14日前から1日前に置き換える。
  • 支配的ルートにおける線路延長及び廃止に関する事前認可を廃止した。
  • 支配的ルートにおける、トラヒック、収入、サービス提供状況、メンテナンス及び回線状況について、四半期ごとの報告を義務づける。

相互主義の破棄の背景
相互主義における判断基準米国政府の認識
相手国の「法規制上の参入可能性」 WTO合意(約束表)により、世界の通信市場の95%が開放された。
相手国の「実態的な参入可能性」 WTO合意の約束表に添付された「参照ペーパー」の内容により、達成されたと見なせる。

(海外調査部 神野 新)
e-mail:kamino@icr.co.jp

(入稿:1998.4)

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