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1998年1月1日の欧州における電気通信全面自由化がスタートしてから約半年が経過した。フランスにおいても、これまで長らく基本電話を独占していたフランス・テレコム(FT)に挑むべく、セジェテルを筆頭とする新規参入者達が徐々にではあるが、活動を開始した。
こうした中、自由化に伴う新しい競争的環境の下で幾つかの問題点が生じている。ここ数ヶ月の間に新聞紙上をにぎわせたトピックスを拾ってみると、1)長距離通信事業者に割当てられた1桁の識別番号が一時凍結される、2)フランス・テレコムの提案した学校への割安なインターネット接続料金が反競争的であるとして修正される、3)ユニバーサル・サービス・コスト問題で新規参入者が提訴する、等、様々な問題が持ち上がっている。 以下に、これらの問題の要点をまとめてみる。 |
I. 1桁の事業者識別番号をめぐる問題 98年1月からの自由化により、FT以外の競争事業者を選択する際に割当てられた1桁の事業者識別番号をめぐって、最後の割当てにはずれた新規参入者が割当ての無効を行政裁判所に訴えたことから、その成行きが注目されていた問題は、6月末に割当ての有効性が確認されたため、一応の結着を見た。 ことの発端は、フランスが他のEU加盟国とは異なり、通常の4桁の識別番号以外に、1桁で利用できる数少ない7つのプレフィックス番号(現用されている「0」、「1」、「3」を除く)を、全国的ネットワーク展開の義務づけと見返りに長距離通信事業者に割当てる方法を採用したことから生じた。欧州委員会はフランスの2種類の番号付与方式に対して、事業者間の公正な取り扱いを求める観点から疑問を呈していたが、これが現実の訴訟問題となってしまったのであった。
最高行政裁判所の機能を持つ行政・諮問機関の「コンセイユ・デタ」は、落選した新規参入者側の言い分を認めて、最後に割当てられた1桁番号の一時的な凍結を命令したことから、すべての1桁の識別番号の割当てが無効となる最悪の事態も想定された。この場合、既に2月から1桁番号による固定サービスを開始していたセジェテル等の主要な競争事業者に与える損害はかりしれないものがあった。 しかし、新規参入事業者に割当てられた1桁の識別番号の希少性から見ると、FTが現状において2つの1桁番号を保有している点が、新たな論争の火種となっている。フランスの電話加入者が従来どおりの方法で「0」以下の10桁の加入番号をダイヤルすると、通常は市内網事業者としてほぼ唯一の事業者であるFTに接続される。しかし、今後、FT以外の事業者が市内網事業者となる場合に備えて、FTもARTの割当てによって1桁の長距離通信事業者番号「8」を獲得している。つまり、FTは、現在2つの識別番号を確保していることになる。FTは、1桁番号の割当て問題が表面化して以来、この「8」を手中に残すため、第3者の再販事業者に委託することを検討しているが、これについてはARTが割当ての趣旨に反するとして反対しており、「8」の取扱いを巡る新たな論争に焦点が移りつつある。 ただし、コンセイユ・デタの見解では、FTも新規参入事業者も同等に1桁の識別番号を利用できる「イコール・アクセス」である点は評価している(この点に関してはEU委員会も同様)。フランスにおける長距離通信事業者の事前登録制は、2000年1月に開始される予定であることから、なんらかの紆余曲折はあるにせよ、フランスの採用した1桁番号の割当て自体が改めて問題となる可能性は少ないように思われる。
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II.フランス・テレコムの学校へのインターネット接続料金 フランス・テレコム(FT)は、98年3月、フランス政府の承認を得て、学校への割安なインターネット接続料金を発表した。しかし、これに対する各方面からの強い批判が相次いでサービス停止に追い込まれたため、FTは料金設定を練り直しの上、6月末に新たな料金を発表したことで事態が解決した。 当初、FTの発表した料金は、教育省が1997年11月に明らかにした、2000年度までに全国の学校をインターネットで接続する計画を早急に実現させるため、ユニバーサル・サービスの一環として都市部と地方の学校との料金格差をできるだけ抑えた料金(下表 参照)であった。 これに対し、FTのユニバーサル・サービス料金に関する諮問を行うARTは、政府が承認したFTの料金では、通常のインターネット接続事業者が提供する料金の4分の1程度と安く、他の接続事業者との公正な競争が図れないと批判する意見を提出した。ARTの試算によれば、FTが市内網をほぼ独占している現状において、他の接続事業者が各学校にインターネット接続サービスを提供するためにFTに支払う、FTの市内網との相互接続料金だけで、政府の承認したFTの料金を上回っていたため、他の接続事業者が参入する余地がないことは明らかであった。 ARTの反対意見に続いて、セジェテル等が加盟する民間事業者団体がFTの料金は反競争的であるとして「不正競争防止委員会」に訴えた結果、同委員会はFTに対して、学校向けインターネット接続サービスの中止を命じた。これに対してFTはケーブルTV事業者が同様なサービスを提供している事例を挙げて反論していたが、結局、6月末、1日2時間のパソコン接続をベースとした、新たな料金とすることで関係者と合意した。また、FTはインターネット接続事業者に対して、学校向けのインターネット接続に限定された特別な相互接続料金を適用することを受け入れた。これにより、一時は政府の特別措置の導入も検討されたインターネット料金問題は、民間事業者側の勝利によって沈静化した。
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III.ユニバーサル・サービス資金への拠出問題 前述した2件は一応の解決を見たが、新規参入者がユニバーサル・サービス資金への負担を不服として欧州委員会に提訴した事件は、今後の展開を見守る必要がある。 1996年7月に成立したフランスの新電気通信規制法では、FTの競争事業者に対して、料金リバランス・コスト(2001年までに終了予定)、全国統一料金制維持のためのコスト、並びに公衆電話や緊急電話に要するコスト等を分担するよう義務づけている。 ARTは98年度のユニバーサル・サービス資金総額を60億フランと推定し、当該年度の競争事業者の負担総額はそのうちの1億フラン程度であると発表している。これに対し、セジェテル、ブイグ、シリス等、主要な競争事業者が加盟している「AFOPT」と「AOST」の2つの民間事業者団体は、98年5月、ユニバーサル・サービス資金総額並びに競争事業者に対する負担額の推定根拠が不十分であるとして、フランス政府とFTを相手取り、欧州委員会に正式に提訴した。 EU法上では、新規参入者に対するユニバーサル・サービス資金の拠出は認められているが、実際に加盟国の中で新規参入者に対する負担を義務づけているのは、今のところフランスだけである。一方、英国では、伝統的事業者であるBTはユニバーサル・サービスの提供に伴うメリットを得ているとして、競争事業者に対する負担は義務づけられていない。フランスの競争事業者がユニバーサル・サービス資金への拠出を不服とする理由は、この点にある。
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IV.まとめ 以上、98年前半における3つのトピックスを取上げてみた。自由化直後に、フランスの新しい規制環境や、FTの従来の独占的事業者としての性格に異議を唱える新規参入者からの問題提起が相次いだことは、ある意味で当然のことであろう。 98年後半には、FTが現状においてほぼ独占している市内網への競争導入を目指す動きが広がりつつある。大都市を除くと地方への競争拡大は当面望めないため、幾つかの自治体では、FTの競争事業者を誘致して共同で電気通信インフラを整備しようとする計画があり、これを阻止しようとする中央政府やFTとの摩擦が新聞紙上で報じられている。また、ARTも今後の優先課題として、市内加入回線の開放を求めるレポートを最近発表した。 こうしたことから、自由化されたフランスの電気通信市場は緩やかではあるが確実に、本格的な競争時代に向けて歩き出したようだ。 |
(海外調査部 水谷さゆり) e-mail:mizutani@icr.co.jp (入稿:1998.7) |
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