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相次ぐ汎欧州網の構築

(1998.10)


 欧州委員会が、電気通信の全面自由化を行った1998年1月1日から9ヶ月がすでに経過した。ドイツ、フランスなどの主要国において新規参入事業者が次々とサービスの提供を開始し、また、欧州の既存通信事業者や鉄道会社、米国企業が汎欧州網の構築計画を続々と発表しており、欧州の通信市場は活気づいている。本稿では、近年の汎欧州網の構築計画についてまとめてみた。


 今年に入ってから、汎欧州網構築計画の発表が相次いでいる。欧州の既存通信事業者であるブリティッシュ・テレコム(BT)、フランス・テレコム(FT)、ドイツ・テレコム(DT)、テレコム・イタリア、テレノール(ノルウェー)が汎欧州網の構築計画を発表したほか、米国電話会社の欧州市場進出も急ピッチで行われている。本年9月には、米国の新興キャリアとして近年注目を集めているクエスト・コミュニケーションズ社、レベル3コミュニケーションズ社も、汎欧州網の構築を発表した(下表参照)。
 こうした汎欧州網の構築は、他の通信事業者への卸売り、あるいは多国籍企業への販売を目的としている。また、ネットワーク構築には、同期デジタル・ハイアラキー(SDH)技術や波長分割多重(WDM)技術を用いて大容量化・高速化を図っているほか、インターネット・プロトコル(IP)で音声ならびにデータを統合して高速に伝送することを計画している点が特徴である。

こうした背景には、次のような要因が考えられる。

  1. 欧州の既存通信事業者は、自由化された国内市場で奪われたシェアを海外市場において取り返すことが急務である。
    (例えば、早くから競争を導入しているBTは、とりわけ国際通話でのシェアの低下が顕著である: 97年度第3四半期の数値で見ると、通話収入シェアは、市内通話で85.4%、長距離通話では76.1%、国際通話では、52.4%(特に事務用国際通話:37.1%)である)
  2. 欧州市場の規模は、世界の電話サービス総売上げ高の3分の1以上(年間2,000億ドル以上)であり巨大である。かつ、欧州の電気通信料金はいまだ比較的高く、参入した際の利鞘(りざや)が大きいため、リセールの相手が見つけ出しやすい。
  3. 将来のデータ需要(*)に耐えうるネットワークの構築を先駆けて行う必要がある。IP網は、今後急速な成長が予測されるデータの伝送に適しているだけでなく、音声、映像など様々なアプリケーションを統合するのに適している。

    *米国調査会社ヤンキー・グループは、「2002年にはデータ・トラヒックが音声トラヒックを上回るようになる」と予測している

表:汎欧州電気通信網を構築中の事業者とその概要
企業名概要








BT欧州のパートナーと協力して、英国、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スイスの7ヶ国を接続する総延長3万2,000kmのSDH網を構築する予定。
当初は160 Gbit/秒だが、将来的には320 Gbit/秒に高速化を予定。
コンサートのトラヒックやIPベースの音声の伝送にも利用する。
欧州のパートナーは、セジェテル(仏)、ブイグ・テレコム(独)、アルバコム(伊)、テレフォート(蘭)、エアテル(西)、BTスペイン、テレノルディア(スウェーデン)、サンライズ(スイス)。
98年7月、AT&Tと提携し国際通信事業と多国籍企業向けアウトソーシング事業を統合することに合意するとともに、協力してIPベースの世界規模の高速データ交換網を構築する計画を発表。
FT/DT各国のローカル・パートナーのインフラを利用または新たに構築して、欧州16ヶ国に40ヶ所の接続ポイント(POP)、2万 kmの光ファイバー網を敷設する予定。ネットワークの構築は、SDH技術とWDM技術を採用し、帯域を巨大容量にするとともに、ルーチング上のセキュリティを高めるために最適化された網構成に基づく。
この欧州バックボーン・ネットワーク・プロジェクトにおけるパートナーとして明らかにしているのは、ウィンド(伊)、リンス(西)、MetroHoldings(英)、Mobilix(デンマーク)、ElTele(ノルウェー)、Mobistar(ベルギー)、Dutchtone(蘭)、Multilink(スイス)、Matav(ハンガリー)である。
欧州委員会と国内の規制当局の承認が得られれば、来年にもネットワークの一部の運用を開始し、2000年にはフル・サービスを開始する予定。投資額は25億フラン。
テレコム・イタリアMondoNet IP仮想専用網(VPN)を各国事業者と提携して、今年末までに世界300都市以上を結ぶグローバルIP網として拡大することを計画。(MondoNetは、97年11月に欧州50都市とニューヨーク、香港で提供を開始したサービスで、現在では、欧州、北米、カナダ、東南アジアに100ヶ所のPOPを有する)。
ネットワークのインフラは、シスコ・システム(米)が提供する。
音声電話やビデオ会議も提供する予定である。
テレノールEuron(米国の電気通信事業者IXCとのジョイント・ベンチャー)が汎欧州網構築を計画。98年4月から英国でサービスを開始。欧州を中心に10ヶ国での提供を予定しているが、詳細は公表していない。
主として、電気通信事業者にネットワーク容量を販売するが、汎欧州で事業を展開している大手企業もターゲットとする。




コルト(英)/エルメス(欧州鉄道会社)97年9月、ローカル網を保有しているコルト・テレコム(英)は、長距離・国際のSDH網を保有するエルメス(鉄道会社)と相互接続協定を締結。
ロンドン、パリ、フランクフルト、ミュンヘン、ベルリン、ハンブルグ、チューリッヒ、ブリュッセル、マドリード、ミラノ、アムステルダムの各都市を結ぶSDH網を構築する。すでに98年6月にロンドン、パリ、フランクフルトでサービス開始、ミュンヘンなどは98年末以降の予定。
ターゲットは、企業ユーザーというよりは、他の通信事業者。




エスプリ・テレコム英国、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、スペインなど域内8ヶ国の19都市を接続する3,500kmの広帯域網を構築。すでに98年4月、ロンドン-ライム-パリ-カレーでサービス開始。ロンドン-パリ-ブリュッセル-アムステルダムは99年末開始予定。
ワールドコム98年7月、ロンドン、アムステルダム、パリ、フランクフルトの金融センターを結ぶ3,200kmのネットワークが完成し、運用開始を発表。上記4都市には自社のローカル網を保有している。この欧州網は、C&Wとの合弁会社が敷設した太平洋横断のジェミニー海底ケーブルに接続される。企業ユーザーをターゲットにサービスを提供する。
ファシリコムアムステルダム、ミラノ、フランクフルト、チューリッヒ、オスロ、パリ、ロンドン、コペンハーゲン、ストックホルムに自前の交換機を設置。伝送路は他社回線をリースしてサービスを提供。
レベル3欧州網構築に約10億ドルを投資。独自にネットワークを構築できないISP向けに提供する。すでにドイツのISP、Miknet を買収し、欧州での基盤を築きつつある。
クエスト98年3月末、EUネット(欧州13ヶ国で主に6万の企業顧客を対象にインターネット・サービスを提供する大手ISP)を1億5,400万ドルで買収して、欧州市場に参入。
98年1月、カナダのテレグローブ社と事業提携し、テレグローブの所有するロンドンまでのGlobalsystem Atlantic海底ケーブルを利用することで合意、C&WともGemini大西洋横断海底ケーブルへアクセスできることで合意、4月初めにはグローバル・クロッシング社のAtlantic Crossing大西洋横断海底ケーブルの利用でも合意を交わしており、大西洋横断ケーブルの利用可能な回線容量の拡大を図ってきた。
英国の事業者免許も取得済み。ロンドン-ニューヨーク間に155Mbit/秒の伝送路を2本敷設し、国際データ/音声トラヒックを伝送。

(海外調査部 横山 邦江)
e-mail:yokoyama@icr.co.jp

(入稿:1998.10)

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