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通信の融合化からIPへの統合化に向けて
〜米国xDSLの進展〜

(1998.11)


米国ではインターネットの急速な普及に伴い様々な議論が生じているが、電気通信業界においては、インターネット・トラヒックの扱いと、それに伴う事業者間の料金精算が大きな問題になっている。ここでは、インターネットに関して議論となっている3つの料金問題を概観する。
  1. インターネット接続に対するアクセス・チャージ賦課問題
  2. インターネット接続に対する相互補償料金賦課問題
  3. インターネット電話に対するアクセス・チャージ賦課問題

1.インターネット接続に対するアクセス・チャージ賦課問題
 米国では規制上、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)は、『通信事業者』ではなく『エンドユーザー』と分類され、アクセス・チャージの支払義務を負わない。

図

 上図のようにダイヤル・アップのインターネット接続に際して地域電話会社(LEC)は、ユーザーに対し電話回線(1)を提供するとともに、ISPに対してユーザーからの接続通話を受ける電話回線(2)を提供する。
 電話回線(2)に関して、ISPは『エンドユーザー』と同じ扱いなので、LECに対して小売基本料金を支払う。この回線は、着信のみに利用され発信通話は生じないため、LECの収入は基本料金のみである。
 また、ユーザーが利用する電話回線(1)についてだが、米国では住宅用を中心として、市内通話料金の定額制(基本料金に含まれる)が広く利用されている。したがって、ISPのアクセス・ポイントが同一市内にある場合、LECの収入は基本料金のみとなる。
一方、インターネットの利用は年々増加しており、通話の保留時間の長さとあいまって、電話網に占める割合が大きくなってきている。パシフィック・ベルの調査によれば、インターネット・トラヒックが住宅用総トラヒックに占める割合は、1997年に27%、2001年には少なくとも50%程度になるという。LECは、増大するトラヒックに対応して、電話
網の品質を維持するために設備投資を行なっているが、前述した通り収入は固定的であり、投資を補う収入増を得られていない。

 このような背景を受けて、LECはISPへのダイヤル・アップ通話に対して何らかの従量料金(例えば州際アクセス・チャージ)を賦課すべきであると主張した。
 これに対しFCCは、1997年5月に公表したアクセス・チャージ命令等の中で、料金構造は変更せずに、競争によりインターネット・トラヒックを他のネットワーク(CATV網、xDSL等)に移行させることで解決を図るという結論を出した。

2.インターネット接続に対する相互補償料金賦課問題
 1996年2月に成立した新電気通信法の大きな目標の一つに、市内通信市場の競争環境整備がある。
 通信法が成立して2年以上経過した現在でも、「市内通信の競争は遅々として進んでいない」と批判されているが、大企業ユーザー等、一部の大口ユーザーに関しては激しい競争が繰り広げられている。そして、ISPは、競争的地域電話会社(CLEC)のターゲットの一つとなっている。
 米国では一般に、異なる地域電話会社の顧客間で行われる市内通話について、発信側のLECが着信側のLECに対し『相互補償料金』と呼ばれる料金を支払っている。前述した通りISPの回線は、発信はほとんどなく膨大な着信通話が生じる。従って、ISPを顧客として囲い込むと、既存の地域電話会社(ILEC)から相互補償料金の支払を受けられることとなる。
 CLECサイドから見ると、苦労して多くのユーザーを獲得しなくても、ISPを囲い込むだけでビジネスが成り立ってしまうのである。 こうした状況に対して、ILEC側は「競争上の歪みを生じている」として、「ISPへの通話に関しては相互補償の対象外とすべきである」との主張を展開している。
 現在のところ(98年10月末時点)、この件に関して全米で23州の公益事業委員会が判断を下しているが、いずれもILECの主張を退けている。ILEC側はこの結論を不服として、公益事業委員会の決定を裁判所に提訴したり、FCCに判断を委ねようとしている。
 この問題に関しては、近くFCCが何らかの判断を下す予定であるが、州/連邦の管轄権の問題も絡んでおり、結着までにはもうしばらく時間がかかりそうだ。

3.インターネット電話に対するアクセス・チャージ賦課問題
 以前のインターネット電話(以下IP電話)は、「通話品質が悪い」といった問題点や「パソコンが必要」などの制約から、一部のユーザーが限定的に利用するものであった。しかし、徐々に通話品質が改善され、電話機対電話機で利用できるようになり、昨年頃から国際通話を中心に商用利用が進んできている。さらに、今年に入ってからは、米国内の長距離通信市場においても、IP電話サービスが提供され始めている。
 このように、IP電話が実際に商用サービスとして通信市場を浸蝕し始めたことを受けて、ILECは「IP電話にアクセス・チャージを課すべきである」と主張し始めている。
 この問題に関連してFCCは、今年の4月に議会に提出した報告書の中で検討を行なった。しかしFCCが下した結論は、方向性としては電話機対電話機のIP電話に対するアクセス・チャージ課金の可能性を示唆しながら、結論は先送りするという、歯切れの悪いものであった。
 9月になると、ベルサウスが、「電話機対電話機」及び「コンピューター発信-電話着信」のIP電話に対してアクセス・チャージを課金することをIP電話事業者に通知し、USウェストもこれに追随した。FCCは、両社のアクセス・タリフ改正案を認可するかどうかの決定を迫られることとなり、4月に先送りしていた問題に対する結論を出さなければならなくなった。

 このように米国では、音声の伝送を前提に構築された料金の仕組が、特性の異なるインターネット・トラヒックの急増によって、見直しを余儀なくされてきている。しかしこれらの問題は、当事者であるILEC、CLEC、ISPはもちろん、ユーザー料金への影響を心配する消費者団体や、インターネットの普及を政策課題に掲げるクリントン政権の思惑などが絡み合い、簡単には結着しそうにない。

(海外調査部 清水 憲人)
e-mail:shimizu@icr.co.jp

(入稿:1998.11)

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