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通信キャリアのポータル戦略 | |
本年春以降、各国通信キャリアとYahoo、Exciteなどのポータル事業者との提携が相次いでいる。通信キャリアに限らず、最近はAOLがネットスケープの買収で合意するなど、ポータル事業者を取巻く情況は激変していると言えよう。 「通信キャリアのポータル戦略」として業界関係者の中で一般的に認識されているものに、ポータル・サイトの集客力を利用したマーケティング上の狙い(もしくはマーケティング・コストの削減)がある。つまり、1ヶ月間に数千万人以上のユーザーがアクセスするポータル・サイト(米国)で、長距離通信サービスなどを販売しようとする動きである。 確かにマーケティング上の狙いが1つの要因であることは疑う余地がないが、他にも幾つかの要因が考えられる。最も重要と思われる新しい視点は、ポータルを「インフラ」と捉えるものである。本論では、通信キャリアのポータル戦略の背景について探ってみたい。
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1.通信キャリアとポータルとの提携案件 通信キャリアがポータルと提携する第1の戦略的要因としては、ポータルの集客力を利用して従来のサービス(電話サービスだけでなく、インターネット・サービスも含む)のプロモーションを行うことが挙げられるだろう。また、もう1つの要因としては、新しいIPアプリケーションの提供に見られるように、ポータルの場を利用して様々なコミュニケーション手段の融合を図ろうとしていると見ることもできるだろう(表参照)。 |
2.ポータルへのネットワーク・インフラの提供−ポータルの囲い込み? 一方、ポータルサイトを「インフラ」として捉えた新しい視点が、通信キャリアのポータル戦略を考える上で重要なように思われる。 ポータルの人気サイトの多くは、驚異的なスピードで回線増強やシステムのアップグレードを行う必要に迫られている。フォレスター・リサーチによれば、現在のインターネット・トラヒック全体の約15%をポータル・サイトが占めている。また、この割合が2002年には20%に達すると推定している。 そこで注目されているのが、サーバーのホスティングやセキュリティ、ネットワーク構築などを外部に委託するアウトソーシングである。この中でも、大規模情報サービス向けのホスティングとしては、Exodusやスプリント、フロンティア(FrontierGlobal Center)、GTE internetworking、TCG CERFnet(現在はAT&Tの傘下)などが分散型のホスティング・サービスの展開を行っている。
この中でのトップ企業であるExodusは、全米6ヶ所の7つのデータセンターを保有し、それぞれが最寄りの商業コネクション(IXP)にレンタル回線で接続されている。また、ワールドコムやGTE Internetworkingなどのバックボーン事業者(Tier1)を含む120社のISPとピアリング接続が行われている(注:ピアリング接続とは、対等な立場での相互接続のことで、現在は無料で行われている)。専用線と公衆網(IXP)を重複するピアリングを組み、コンテンツがユーザーに届くまでの距離をできるだけ小さくして(データセンターの分散)、巨大なトラヒックの処理を可能としている。 また、「Tier1」プロバイダーとは、米国のISPのうち、(1)OC-12(622Mbps)の全米バックボーンを保有し、(2)3ヶ所以上の相互接続点(IPX)に接続し、(3)他のISPとピアリング接続を行っている大手ISPのことである。Tier1とは、物理的な伝送路のことを指す。また、これらのTier1は、現在そのほとんどが通信キャリアの傘下に入っている。 これまで相互依存の関係で無料で行われてきたピアリング接続であるが、最近大手のバックボーン事業者の間でピアリングの有料化を検討するところが出てきた。その理由は、データーセンターとTier1プロバイダーの間でパケットのアンバランスが生じたことである。 電話業界では発着信を相互に計算して、差額分を発信側が着信側に支払うことは一般的である。現在は無料のピアリングが、将来はパケットの出入りの度合いに応じて事業者間で料金を支払う相互補償のようなものへ移行するという見方も出てきている。 このように見てくると、インターネット・バックボーン事業者(Tier1)にとってデータセンター事業に参入しようとするのは当然といえよう。つまり、ポータルを含めたコンテンツを囲い込むことが、将来のピアリング有料化も見据えたバックボーン事業戦略の布石となる。 バックボーン事業者は、自前の回線を保有しプロバイダーのサーバーからユーザーのネットワークまですべてを結ぶことができる点で、既存のデータセンター事業者(Exodusなど)がレンタル回線を中心にネットワーク構築を行っていることに対して、大きな競争優位を得ることができるだろう。 |
3.通信キャリアのデータセンター事業への参入 通信キャリアとポータルの提携内容を子細に検討すると、通信キャリアがポータルに対してネットワーク・インフラを提供する合意が含まれている場合がある。例えば、Qwestとネットスケープの提携では、OC-12(622Mbps)に上る回線提供で合意している。ネットスケープのポータルである「ネットセンター」は、高速・大容量でのインターネット接続を確保し、ユーザーは快適なアクセスが可能となる。 Qwestは、ネットスケープとの提携発表の直前に、Icon CMTというISPを買収した(98年9月)。Icon CMTというISPは、フォーチュン1000の企業向けに包括的なインターネット・ソリューションを提供してきた。Qwestは同社の買収により、アプリケーション開発力の獲得やIcon CMTの既存の顧客を獲得しただけでなく、データセンターの基盤を獲得し、99年までに全米規模のホスティングを提供するデータセンターを10ヶ所建設すると発表した。 ちなみに、Qwestなどの新興企業は、「キャリアズ・キャリア」と呼ばれ、大容量光ファイバー網をキャリア向けに卸売することを中核業務としてきた。しかし、データセンター事業への参入を明確にしてきた現在、その新しいビジネス・モデルは、Tier1プロバイダーと同様の戦略となるだろう(キャリアズ・キャリアもTier1プロバイダーも、ファシリティ・ベースのバックボーン事業者である点では、既に同様である)。 参照:図表-競合の構図 このように見てくると、通信キャリアのポータル戦略には、しきりと言われてきたマーケティング上の要因のほかに、ポータルをインフラとして捉え、データセンター事業として囲い込むという背景があると言えるだろう。自社でバックボーンを保有するファシリティ・ベースの事業者が、当面はポータルなどのコンテンツを囲い込みむことによって他のネットワークから入ってくるトラヒックを増大させ、最終的には有料ピアリングによってネットワーク収入を上げていくことを狙っているのかもしれない。これは、事業構造が不透明なバックボーン事業における新しいビジネス・モデルとも言えるだろう。ポータルをめぐる通信キャリアの動向は、今後も目が離せない。 |
(海外調査部 杉本幸太郎) e-mail:sugimoto@icr.co.jp (入稿:1998.12) |
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