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1. はじめに 1998年はコンピュータ専門誌以外でもLinuxという名前が目にされたという意味で画期的な年であった。幾つかの新聞記事を見ると次のように書かれている。「次世代のOSとして注目されるLinux」「LinuxはウィンドウズNTに代わるOSとしてビジネスソフトのメーカーが採用を進めており、注目を集めている」。しかしながら、Linux自体には次世代らしさはどこにもない1。冷静に考えるならば、LinuxはUNIXのクローンであり、あまたあるPC-UNIXの一つに過ぎない。Linuxが注目されるということ自体、大きな謎なのである。この謎を解く鍵はLinuxという製品それ自体にはない。 |
2. Microsoft社とHalloween文書 98年11月、インターネットにある怪文書が流された。Halloween文書と呼ばれるこのメモはMicrosoft社がOpen Source Software(OSS)という潮流に対していかに対抗すべきかを検討した内部文書であると言われている2。Halloween文書は開発プロセスとしてのOSSの脅威について語り、その3つの類型{ (a)BSDスタイル、(b)Apacheスタイル、(c)Copy Left(Linux)スタイル{を論じ、最後にLinuxおよびその他のOSSプロジェクトを撃破する戦略を検討している。この文書はMicrosoft社らしい精神が随所に見られ、コンピュータ・ユーザーの神経を逆撫でする。しかし、重要な点はLinuxの「次世代らしさ」はOSSという開発プロセスにあるという指 摘であろう。 この点に注意しておけば、以下のようなBill Gatesの見解と、それに対するLinus Torvaldsの反論の意味がはじめて理解できるようになる(日本経済新聞1998年12月8日3)。
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3. OSSとビジネス Linux市場を支える哲学 LinuxはOSSとビジネスをうまく結び付けることに成功した。この点がFree BSDなど他のPC-UNIXと一線を画す特徴となっている。狭義でLinuxと呼ばれるべき部分はカーネルだけである。これは完全にOSSのやり方で開発されている。つまり、ソースは公開されており、誰でも改変することが出来る。改変された成果は再び公開される(し、またそうしなければならない)4新たなハードウェアへの対応もこのようにして行われる。 カーネル以外のソフトウェアを含めたパッケージ全体はディストリビューション又は配布パッケージと呼ばれる。ディストリビューションに含まれるソフトウェアには、X-windowやコンパイラなどインフラに近いものもあれば、表計算ソフトのようなビジネス・アプリケーションもある。ディストリビューションを構成し、流通させ、サポートを行うことは十分ビジネスになる。非商用のディストリビューションとしてはSlackware、DebianGNU/Linux、Plamo Linux、Vine Linuxなどがあり、商用のものとしてRed Hat Linux、Caldera Open Linux、Turbo Linux、Linux MLD、S.u.S.E.などがある。これらは組み合わせるべきソフトウェアの選定、サポート体制、価格、日本語対応やノートパソコン対応などの特色により、互いに競争し、市場を棲み分けている。この仕組みがユーザーの多様性をうまく吸収しているのである。 ディストリビューションに含まれない単体のアプリケーションも存在する。例えば最近、大手データベース会社が相次いでLinux市場に参入した。 |
4. Linuxの支持者 市場の広さと深さ Linuxのユーザー数は800万人に達したと言われている5。どういった人たちがLinuxを使っているのか。Mark Andreessen等の表現では「テクノロジスト」だということになる6。彼らは単なるコンピュータ研究者・技術者のことではない。テクノロジーに関心を持っているという点では、エコロジストに似ていると言って良いであろう。彼らはLinuxの上でMicrosoft Officeが使えないことをあまり残念に思わない。LILOで複数のOSを使い分けることに慣れているし、sambaを使ってWindowsマシンをLinuxサーバに繋げたり、WINEでMS Windowsをエミュレートできるからである。また、必要があれば平気でWindowsマシンを使う。つまり、目的を実現するための最良の手段を選びとることを心掛けており、その手段がたまたまLinuxであったというに過ぎない。 Linuxのユーザー層の裾野は驚くほど広い。ディストリビューションに付属するインストーラが優秀であるので、コンピュータに詳しくなくてもすぐに使えるようになる。使用頻度の高いソフトウェアは最初からバイナリ形式でインストールされるので、makeコマンドなど知らないかもしれない。この段階のユーザーは「タコ」と呼ばれ、大切にされる7。 そのうちLinuxの上でサウンドボードを鳴らしてみたり、ネットワークに接続させるためにカーネルの再構築を行う。また、フリーソフトのソースコードをAnonymous FTPサイトから取り寄せて自分でmakeするようになる8。この過程で、自分のマシンとプログラム言語に関する知識を豊富にさせてゆく。やがて、必要に応じてソフトウェアの改良を行い、あるいは自作するようになる。 このように、Linuxコミュニティにおいては「タコ」から「テクノロジスト」に至る一貫した生産ラインが常に意識されている。 |
5. OS間競争の経済学 さて、Linuxコミュニティが自己増殖する仕組みを内包し、ディストリビュータ間で競争が行われ、カーネル自体はインフラとして「公共的に」開発されることはこれまでの説明で明らかになったと思う。では、LinuxがOS間競争に与えるインパクトはどのようなものであろうか。幾つかの点を指摘したい。
5.1 価格の問題
5.2 信頼性の問題
5.3 ネットワーク外部性もしくはFUD
5.4 キラー・アプリケーション
5.5 Linuxコミュニティの分裂
5.6 代替性の問題{市場の分類 |
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