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第一種電気通信事業の99年3月期決算が出揃った。総じて言えることは、固定通信の収入の停滞と移動体通信事業の躍進、「電話」の頭打ちと「データ伝送」需要の急増である。固定網による「電話」サービス(特に、長距離および国際)をビジネス・ドメインとしている通信事業者は、軒並み減収減益になった。「電話」収入のウエイトが圧倒的に高く、「データ伝送」の収入が伸びても、「電話」の減収を補うには到底及ばない。苦闘は今後も続くだろう。 これに対して、携帯電話事業者は全グループが増収増益で、新規参入組もほぼ単年度黒字の達成にメドをつけたようだ。しかし、PHSやポケットベル事業の不振が続いており、事業再建の展望は依然として開けない。そんななかで、東京テレメッセージの会社更生法申請が行われて話題を呼んだ。移動体通信の中でも世代交代が進んでいる。 今回の決算で注目すべき第3のポイントは連結決算である。NTTでは本体の1.7 倍もの経常利益を子会社のNTTドコモが計上している。DDIは本体の3.2 倍の電気通信事業収入を子会社が稼いでいる。グループ経営に移行する企業が増加し、単体の決算では企業グループ全体の動きが分からない状況になってきた。通信事業も連結決算重視の時代に入ったというべきだろう。
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1.コスト削減が課題のNTT NTT本体の問題点は、本業である電気通信営業収益が、昨年の2月に実施した長距離料金の値下げなどで3.7%も減少したのに対し、費用の減少が0.8%に止まったことにある。NTTの電気通信営業費用は約5 兆5000億円だから営業利益は1,700 億円の減少となった。人件費、減価償却費、租税公課などの減少にもかかわらず、事業費が増加(特に物件費が2,380 億円、11.3% 増加したのが目立つ)している。最近の料金値下げは、ほとんど通話量の増加に結びつかないことが分かっているのだから、費用の節減がポイントになる。 98年度に加入電話の契約数が191 万回線(3.2%)減少して、5,847 万回線になった。一方、ISDNの契約数は181 万回線(69.1% 、INS ネット64換算)増加し、443 万回線になった。ISDNは1契約で電話とインターネット接続の2回線を利用する場合が多いことを考えると、電話の減少はISDNの増加で補われていると考えてよい。 NTTの説明資料によると、ISDNを含めた「情報流通系ネットワークサービス」は、前年比40.0% 増加し8694億円となったが、音声系サービスの売上の減少(値下げなど)がこれを上回った、ということのようだ。 この点を除く、経営改善に関するNTTの経営指標はかなり順調に見える。従業員は97年度末比で5.0%減少して138,200 人、98年度の設備投資額は8.4%減少し1兆7,280億円、期末有利子負債は3.4%減少して2 兆6,665億円になった。しかし、98年度の売上高経常利益率は3.9%、総資本経常利益率は2.1%まで低下しており、これ以上の低下は危険水域と考えられるが、NTT単体の99年度業績予想(事業計画)では、売上高経常利益率はさらに下がって3.5%となると予想している。 98年度決算では、NTTはNTTドコモに助けられた。ドコモの株式公開に伴って、NTTの保有するドコモ株式を売却(売出し価格、390 万円) して、8,239 億円の売却益を特別利益として計上できた。これを原資に関係会社(NTTパーソナル)の整理損失引当、研究開発用固定資産の臨時償却、記念配当(5,000 円/株)、株式の買入れ消却(1,200 億円)などを実施する。孝行息子と言われる所以である。それ以外にも、日本経済新聞社の集計した上場企業の有価証券含み損益ランキングによると(日経99年6 月3 日)、NTTは断然トップで8 兆9313億円の含み益を抱えている。その大部分はドコモ株によるものである。
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2.絶好調だったNTTドコモ NTTドコモは絶好調の決算となった。98年度のドコモ・グループ9 社の収入の単純合計は約 3兆2600億円、対前年度18.3% の増加で、売上高経常利益率は12.4% であった。連結決算による電気通信事業営業収益は2 兆5,259億円で、本業である電気通信事業収益に対する営業利益率は、19.7% であった。極めて高い水準を達成している。 ドコモ・グループの携帯電話加入数は33% 増加し、99年3 月末には2,390 万台となった。ドコモの高収益は、何といってもこの高い顧客ベースの伸びにある。98年度の純増の約60% を獲得したことになる。一人勝ちといっても過言ではない。新株発行費、投資損失負担(NTTパーソナルの清算にともなうもの)をカバーして、なお親会社のNTTをはるかに上回る連結経常利益を計上(NTTが2,374億円に対し、ドコモ・グループ3,504億円)した。この他、株式公開にともなう増資などによって、8167億円の連結資本剰余(98年度純増)を計上し、多額の投資(1 兆円)を要すると見られる第3世代の携帯電話システムの構築に備えることが出来た。 しかし、問題も残されている。無線呼び出し収入が47.1% 減少して683 億円に急落した。大赤字に陥ったこの事業の再建が急務だし、救済合併したPHSの再建も課題だ。モバイル・コンピューティングも緒についたばかりで、事業として軌道に乗せるのはこれからだ。それに、一人勝ちがいつまでも続くはずもない。99年4 月以降のドコモ・グループの携帯電話の純増数は50% を切っている。 本業の収益力を示す電気通信事業営業利益率が19.7% と高く(しかもポケットベルや98年12月以降のPHSの赤字をカバーしたうえで)、利用者に対する還元を考えるべき時にきている。ドコモも6 月および7 月から料金値下げおよび新料金プランの導入を予定しているが、好業績を背景に思い切った、利用し易い料金を考えて欲しい。特に、外国に比べて割高な基本料や加入電話発信携帯電話着信の料金の値下げを期待したい。また、一定時間までの定額料金制なども、定額料金で利用できる通話時間をもっと伸ばして欲しい。さらに、リーディング企業として事業のセグメント情報を積極的に開示して貰いたい。 |
3.携帯電話に軸足が移るDDI 連結決算でしかDDIという企業を理解出来ない、という思いを深くした。DDIは事業会社であるが、持株会社的色合いを一段と強めている。99年3 月期の連結売上高は1 兆2466億円(5.5%増)であるが、DDI単体の売上高は6,056 億円(13.0% 減)、そのなかで本業である電気通信事業営業収益は2,284 億円(11.2% 減) に過ぎず、グループ内取引が 3,690 億円(36.8% )を占める。(セルラー会社に対する業務受託による回線提供および携帯端末の販売と思われるが詳細は未開示)これに対し,セルラー電話グループの売上高は6,906 億円(15.6% 増)で、DDI単体の売上を抜いた。しかし、経常利益では、227 億円(-48.8%)でDDI本体の336 億円(23.3% 減)に及ばなかった。 DDI本体が利益を減らしたのは料金値下げによるものだ。一方、セルラー電話グループが利益を減らしたのは新方式の携帯電話システム「cdmaOne 」の開始にともなう営業費や設備関連コストが増加したことによる。ポケット電話(PHS)の売上高は3,313 億円(3.3%増)で、僅かながら増収を確保し、経常収支で初めて10億円の黒字を達成した。 99年度の予想業績は、DDI本体は相互接続料節約のため推進してきた、NTTの市内電話局との接続工事が一段落して設備投資額が減少する一方、相互接続料の節約効果によって若干の増益を見込んでいる。しかし、セルラー電話、ポケット電話各社ともサービス改善のための投資が増加するため、連結経常利益は290 億円(43.0% 減)とさらに悪化する(ポケット電話の99年度業績予想は経常損失が150 億円となる見込み)。DDIのいう2000年のV字型業績回復が実現するか、注目したい。 |
4.業績悪化を予想する日本テレコム 日本テレコムでも音声伝送収入が大きく落ち込んだ。ITJとの合併にともなう増加分を含めても4.4%の減収になった。実質的には10%以上の減収だった、と思われる。データ伝送収入が120%も伸びたが、98年度の収入が124 億円と事業全体の収入規模に占める比率は、たかだか4%程度に過ぎない。音声伝送収入の減収を埋め合わせるには程遠い。 結局、日本テレコムは98年度に売上高が1.7%減収になったのに対して、費用は3.0%伸びた。具体的には、施設保全費や減価償却費が増加した。ITJの合併やデータ伝送に対する投資拡充に伴う費用の増加であるが、経常利益は32.7% 減少して、233 億円になった。付帯事業営業利益を除いた電気通信事業営業利益は42.2% 減少して、176 億円になった。ITJの合併は当面の収益改善には寄与しなかったようだ。 日本テレコムの連結と単独の差は、携帯電話会社を子会社に持つNTTやDDIの場合と異なって、余り大きくない。単独の売上高に対して連結の売上高は1.1 倍程度に過ぎない。また、連結経常利益は単独経常利益を下回った。関連会社の携帯電話会社(デジタルホンやデジタルツーカー)が未だ収益に寄与するまでに至っていないからだ。日本テレコムは99年度の業績を、新通信網「PRISM」などの戦略的投資の増大と競争の激化によって、さらに悪化すると予想している。 |
5.厳しい決算になったKDD KDDの主力サービスである国際電話が振るわなかった。98年12月に日本高速通信(テレウェイ)を合併し、自らも001 国内長距離通信サービスを開始した。また、携帯電話の普及による国際通話の利用増があったものの、国際電話トラヒックの減少、料金値下げ、割引サービスの浸透、国際計算料金の値下げなどのため、98年度の電気通信営業収益は対前年度比2.2%減少して3,062 億円(電話収入は5.9%減少して2,366 億円)となった。 費用は、全面的な経費削減に努めたにもかかわらず、新サービスの導入に伴うキャンペーン経費などの増加によって、僅かではあるが増加(0.3%増)した。減価償却費の償却方法の変更(海底線、空中線、線路設備および建物などを定額法に変更)による費用の減少(39億円)がなければ、電気通信事業営業利益(28億円、73.3% 減)は赤字に転ずるところだった。 しかし、付帯事業営業利益や回線使用権譲渡差益などによる営業外収支差などの増益によって、3 期連続減収減益ではあるが94億円の経常収支(43.8% 減)を確保した。このほか、特別利益として土地や投資有価証券の売却益を122 億円(97年度20億円)計上して、関係会社支援損や特別退職金などを特別損失として処理している。税引き前当期純利益78億円(25.6% 減)に対して見込んでいる法人税等が5 億円ということから考えると、98年度の実質利益はさらに小さいのではないだろうか。 一方、KDDは99年3 月期連結決算で19億円の当期純損失(97年度は49億円の純利益)を計上した。KDDの単独に対する連結の比率は1.3 倍で、本体以外の大部分は付帯業務(海底ケーブルシステムの建設・保守などの通信設備工事と不動産事業)であるが,最終赤字になったのは連結決算を91年度に導入して以来初めてである。なお、99年度は黒字に戻る見込みである。 KDDは99年度の業績を、98年12月に合併したテレウエィの事業が通年で稼働することなどから、売上高は3,660 億円(16.9% 増)、経常利益は50億円(46.9%減)と予想しており、依然として厳しい経営状態が続くことを明らかにしている。 それ以降は、98年3 月期以降2 期連続で1,000 億円超の投資を続けている、日本列島周回光海底ケーブル(JIH )への投資が一段落することから、来期の設備投資は630 億円(-46.7%)に減少する。さらに、99年4 月に発表した、2003年末までの5 年間でKDDグループの従業員5,800 人を3,800 人に絞り込むリストラ策に取組み、マルチメディア関連収入や国内通信事業の増収などで業績向上を目指す計画である。 |
6.収支改善が軌道に乗ってきた携帯電話事業 携帯電話ブームに乗って日本移動通信(IDO)、デジタルホン・グループ3 社、ツーカー・グループ3 社、デジタルツーカー6 社などが軒並み業績を向上させた。 IDOは、主力のデジタル方式PDCシステムの加入容量が上限に近づいていたことと、99年4 月からcdmaOne の全域での販売を控え、98年度は販売のコントロールを実施した。このため、98年度の純増加入50万台(18.0% 増)に止まり、サービス提供地域における99年3 月末加入数シェアは1.8 ポイント減の15.6% となった。 しかし, 稼働数の増加、「量販」から「質販」への転換などで、料金値下げの影響があったものの、前期比21.2% 増の3,385 億円の売上高を達成した。営業費用の伸びも2.1%に抑えて、97年度の経常損失386 億円から、一転して98年度は経常利益269 億円を計上した。この利益で稼働を停止したアナログ方式ハイキャップシステムの特別損失を吸収し、75億円の当期純利益を出した。 それでも、IDOは98年度末累積損失489 億円を抱えている。デジタル2 方式を運用する非効率に加えcdmaOne への投資の増加が、携帯電話市場の明るい展望にもかかわらず、IDOの将来を不透明にしている。同社の99年度の業績は、売上高で4,500 億円(9.6% 増) を見込んでいるが、経常利益では50億円まで落ち込むと予想している。 デジタルホン3 社も、98年度は関西デジタタルホンが単年度黒字に転じ、全社黒字を達成した。音質の良さと通話が「切れない」ことを強調した販売戦略が功を奏して、391 万台(64.6% 増)に加入数を増やした。売上高も4,172 億円(41.9%増)と急成長し、3 社合計の経常利益は200 億円となった。デジタルホン・グループの99年度業績予想も強気で、経常利益502 億円を見込んでいる。東京デジタルホンは99年度に累積損失の一掃を目指す。 ツーカー・グループ3 社は、シェア拡大より累積損失一掃を重視する、堅実な経営方針を維持している。98年度の加入増は24.4% (99年3 月末289 万台)に、売上高は11.7% の増加に止まった(3,548億円)が、経常利益はデジタルホン・グループを上回る266 億円(15.8% 増)を計上した。99年度は、ほぼ前期と同水準の経常利益の確保を目指している。 デジタルツーカー・グループ6 社も携帯電話ブームに乗って、加入数と収入を増やしているが、単年度黒字達成には未だ時間が必要のようだ。 |
7.総合情報通信企業を目指すTTNet TTNetの98年度の売上高が遂に1,000 億円を超えた。売上高は前期比54.6% 増の1,167 億円、経常利益も32億円(前期5 億円)となった。増収には、98年1 月にサービスを開始した「東京電話」の寄与が大きい。99年3 月末の契約回線数は190 万に達している。同社は2000年3 月末300 万回線を目標に、「東京電話」の黒字化を達成する計画だ。その他、専用(13.8% )、データ伝送(521.1%)、移動体通信の業務受託回線の増加による付帯業務(8.5%)の各収入の伸びも順調だった。 しかし、PHSのアステル東京を事実上救済合併したため、8 億円の特別損失を計上するなど、当期利益は僅か2 億円に止まった。TTNetは、8 年連続で単年度黒字を計上したとはいっても、当期未処分利益は32億円(資本金は300 億円)に過ぎない。99年度は、売上高1800億円(54.2% 増)を見込むものの、減価償却費の増加やアステル東京の赤字などで、80億円の経常損失を予想している。 当初TTNetは、地域通信事業者として主として専用線サービスでスタートしたが、規制緩和の流れに沿って、長距離電話事業、NTTの市内交換局に直接接続する市内電話サービスの「東京電話」、フレームリレーなどの高速デジタル伝送サービス、インターネット接続サービス、東京アステルによるPHS事業に進出し、99年7 月には国際電話サービスに進出する予定である。「東京電話」と「アステル東京」のセット割引料金「東京セット」などのユニークなサービスを提供している。TTNetの「総合情報通信企業」を目指す戦略が成功するか、今後に注目したい。 |
8.斑模様の決算は今後も続く 日本経済の全体的な不振のなかで、携帯電話事業の好調は際立っていた。3 年連続1,000 万台突破の勢いは続かないにしても、99年度も数百万台の需要増が見込まれる。携帯電話事業者の好業績は今期も続くが、利用者の通話品質やモバイル・コンピューティング重視の傾向も強くなる。また普及の浸透は料金値下げへの圧力を高めることにもなる。競争の進展で、従来の業界秩序が大きく変わる可能性もある。 その一方で、PHSの不振、ポケットベルの急減少が続いていて、今後の展望が開けない状況だ。この打開策をどうするかも今後の課題である。 固定通信、とりわけ「電話」の売上高でみた市場が縮小に向かっている。料金値下げによる通話の利用拡大がほとんど期待できない中で、音声通信は携帯電話に移行している。その一方で、インターネットやそれを利用した電子商取引(EC)が急増している。企業も、内外の情報通信網をインターネットの技術であるインターネット・プロトコル(IP)で構築している。 通信トラヒック自体は今も急増しているし、その傾向は今後も続くことは間違いない。問題は技術革新と競争による値下がりのテンポが早く、経営の仕組みがそれに追いつけず、業績を悪化させていることだ。経営の仕組みを「電話」型から「データ」型に如何に早く変えられるかが、企業の競争力に決定的な影響を及ぼす。 「データ」型では、通信サービスそれ自体もさることながら、ソフト、ソリューション、サービスなどの非通信サービスの比率が高くなる。しかしこの分野は、現状ではコンピュータ業界が強く、通信事業者が必ずしも優位とはいえない。需要が急増する市場で優位に立てなければ、将来は開けない。この競争に勝てたものだけが生き残るのではないか。しかも、市場は開放されているのだから、生き残るのが日本の事業者である保証もない。 このように考えると、これからの通信事業者の業績は、市場全体の動向に左右されるよりは、個々の企業が新しい情報通信のトレンドにうまく乗れるかどうか、によって決まるだろう。ユーザーの事業者選別は益々厳しくなり、勢い業績は斑模様とならざるを得ない。そのなかで、業界再編は外資企業が絡んでさらに進むのではないか。 |
(取締役相談役 本間雅雄) e-mail:編集部宛 nl@icr.co.jp (入稿:1999.6) |
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