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米国の市内通信競争の現状と新規参入の構図
5年後には新規参入事業者が20%のシェアを獲得

(1999.1)


 米国では1996年電気通信法の成立により、市内通信市場を含めた州内電気通信市場を競争に完全に開放することが州に義務づけられた(1996年法第253条)。それを受けて、既存の市内交換事業者(ILEC:Incumbent Local Exchange Carrier)に対抗して、代替的な市内通信サービスを提供する競争的市内交換事業者(CLEC:Competitive LEC)と呼ばれる新規参入者の数が急増した。本稿においては、1996年法の成立から約3年経過した現在、このようなCLECが市内通信市場においてどのようなプレゼンスを獲得しており、さらに、彼らが市内通信市場に参入する際に取りうる方法に、どのようなものがあるのかについて解説してみたい。
  1. 市内通信市場におけるCLECのプレゼンス
  2. CLECによる市内通信市場参入の構図

1. 市内通信市場におけるCLECのプレゼンス
 米国には、従来から約1,400社のILECが存在していたが、FCCが98年12月に公表した「市内競争レポート」によれば、CLECの数は1995年の57社から1997年には439社へと激増している。CLECという言葉からは、小規模なベンチャー企業を想像するかもしれないが、彼らの中心的な存在は、AT&TやMCIワールドコムといった、巨大な長距離通信キャリアである。CLECは参入する地域ごとに、その州の規制当局からCLEC免許を取得しなければならないが、この数が下表にあるように98年の7月時点で2年前の10倍の2,832件に達した。
 
  1996年7月 1997年7月 1998年8月
発行済CLEC免許数 286件 985件 2,832件

 この数字だけを見ると、米国では市内競争が非常に進展しているように思われるかもしれない。しかし、先のFCCレポートによれば、1997年の市内通信市場の規模が974.26億ドルであるのに対して、その中でCLECが得た収入は30.79億ドルであり、シェアはわずか3.16%に過ぎない。このギャップとしては、以下のいくつかの理由が考えられる。
  1. 取得されたCLEC免許のうち、実際に顧客にサービスを提供開始しているのは5_10%程度に過ぎない。
  2. 州のみで認可を受けている零細なCLECが全体の9割に達している。
  3. サービス提供が始まっている地域においても、そのターゲットは大規模ビジネス顧客であり、一般の住宅顧客はほとんど競争の恩恵を受けていない。
 しかし、ここ数年、AT&TとMCIワールドコムは独立系最大手のCLECである、テレポート社とMFS社をそれぞれ買収しており、また、AT&Tは1,300万加入者を擁するケーブルTV業界第1位のTCIとの合併(買収額は480億ドル)により、ケーブルTV網を通じた市内通信市場への本格参入を計画しており、市内通信競争はこれから本格化するとの見方が有力である。米国の多くの調査会社やアナリストは、5年後のCLECの収入ベースの市場シェアが20%前後に達すると予測している。
2. CLECによる市内通信市場参入の構図
 ILECのベル・アトランティックが、CLEC向けに市内通信市場への参入方法を解説した「CLECハンドブック」によれば、CLECの取りうる参入方法には下表の5つのケースがある。

 
  CLECの設備利用状況 CLECによる参入の形態
交換機 加入回線
ILEC CLEC ILEC CLEC
ケース(1) × × 設備ベースCLEC
ILECのネットワークと相互接続し、ネットワーク間でトラヒック交換を行う。
ケース(2) × × 部分的設備CLEC
CLECは自社の交換設備を利用し、ILECのアンバンドルされた加入回線を購入して、市内通信サービスを提供。
ケース(3) × × 部分的設備CLEC
CLECは自社の加入回線を利用し、ILECのアンバンドルされた交換サービスを購入して、市内通信サービスを提供。
ケース(4) × × 設備なしCLEC
ILECのアンバンドルされた加入回線と交換サービスを購入して、市内通信サービスを提供。
ケース(5) × × 設備なしCLEC
ILECの小売サービスを卸売料金で購入して、エンドユーザに再販売を行う。

 ILECの小売サービスを卸売料金で購入して、エンドユーザに再販売を行う。
FCCはCLECが提供している加入回線の数を400-500万回線と推計しているが、そのうち、自社で敷設した加入回線を提供している(1)のケースは4分の1程度であり、残りの回線はILECからアンバンドルされた加入回線を購入している(2)、(4)のケース、及び、リセールで加入回線を提供している(5)のケースである。現状では、アンバンドルとリセールの比率を見ると、1:10で圧倒的にリセールが利用されている。具体的な数字をあげると、全米で1.65億回線の加入回線が存在するうち、CLECがアンバンドル加入回線を購入して提供しているのが24万回線、リセールで提供しているものが240万回線である。しかし、CLECは市内市場への参入戦略の中心を利益率の低いリセールからアンバンドル加入回線の利用に転換しつつあり、今後はその利用が大幅に増えていくものと思われる。

(海外調査部 神野 新)
e-mail:kamino@icr.co.jp

(入稿:1999.1)

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