トップページ > トピックス[1999年] >

トピックス
海外情報

韓国の電気通信の現状

(1999.3)


 97年末の通貨危機をきっかけに経済危機に陥った韓国は、 IMFの緊急融資を受け、その後発足した金大中新政権の下で経済の再建に取り組んでいる。政府が優先課題にあげる経済再建策の中には、財閥改革と規制緩和や外資の積極的導入等があるが、これらは韓国の経済を牽引する有力なホープの1つである情報通信市場にも大きな影響を与えている。

規制緩和と競争導入の状況
 韓国では国内通信事業者を保護する目的で97年12月31日まで、有線基幹通信事業者に対する外資の参入は禁止されてきた。しかし、 97 年8 月に電気通信事業法が改正され、98年1 月1日からは、KTに対する外資規制は20%、KT以外の有線基幹通信事業者に対する外資規制は33% に緩和された。さらに政府は2001年に、外資規制の上限をKTは33%、その他の基幹通信事業者は49%まで緩和する予定であったが、この予定を2年早め、99年からとする計画を発表した(98年9月)。

 韓国では91年11 月に、それまでKTの独占市場であった国際通信市場にDACOMが新規通信事業者として参入した。その後、92 年8月には無線呼出サービス市場に競争が導入され、94年7 月にはそれまで韓国移動通信(現在SKテレコム)の独占であった移動電話市場にも新世紀通信が新規参入者として選定された。そして95 年3月には国内長距離市場にもDACOMが参入することにより競争が導入された。翌96年6月には新たに27の新規通信事業者がPCSやCT2など7つの分野で免許を受け、さらに97年6月には市内通信や国内長距離を含む5つの分野で新たに10の事業免許が交付された。そして98年1月からは音声再販売やインターネット電話、国際コールバック電話などが別定通信として規定され、提供されるようになった。

韓国通信(KT)のリストラと株式上場
 韓国のナショナル・キャリアである韓国通信(KT) は、91年1月にそれまでの公社から株式会社化されたが、前述のように97年末までは外国人による株式保有は禁止されていた。また、政府の持分も70%を超えていた。政府は、98 年12月、KTの競争力を高めるため、KTの構造改革を迫り、2000年までに現在の従業員5万9,000人のうち1万5,000人の要員を削減し、1人当りの管理回線数を97年の297回線から371回線にするとともに、費用に占める人件費の割合を現在の30%から25%へ削減するよう求めた。また、同年12月23日には同社の株式を国内の株式市場に上場し、99年には海外で政府持分の相当部分を売却する予定である。なお、KTは98年中に8100人が退職し5万1,700人体制となり、97年当初の6 万2,000人体制からみると、2年間で18%もの要員が削減されたことになる。

国営企業の民営化
 韓国では財閥の放漫経営や負債比率の高さが批判され、政府主導の構造調整が「ビッグディール」の名の下に実行されている。自動車産業や半導体産業におけるビッグディールが新聞の紙面をにぎわせているが、これと平行して行われている国営企業の民営化と公務員の大幅削減も韓国経済の再生を握る重要な鍵といわれている。政府は手始めに26の公営企業のうち11社を売却する方針である。中でもKTの最大のライバルと見られていた韓国電力 (KEPCO)が、同社が所有する国内の有力キャリアの株式を売却し、同社は電気通信事業から撤退することを決めたことは、今後の韓国の情報通信産業のランドスケープを大きく変える要因となりそうである。 KEPCOは国際及び長距離通信事業者であるオンセ通信の4.3% 、99年4月にサービス開始を予定している市内通信事業者のハナロ通信の7%、それに回線賃貸事業者であるスルーネットの9.9%の株式を保有している。また、KT に対抗してケーブルTV事業も行っている。さらに国内第2の移動通信事業者である新世紀の株式も3.3%保有している。韓国の移動通信市場は通貨危機が勃発した直前の97 年秋に新たに3社のPCS事業者がサービスを開始し、わずか1年後には加入数が1200万に達し、国民100人当りの普及率が25%になるなど、最有望分野の1つである。新世紀は98年6月末で顧客が153万加入を数え、SKテレコムに続く第2移動通信事業者である。新世紀の株式は浦項製鉄が16%、コーロン・グループが15.5%を保有しており、どちらもKEPCOの株式の購入を希望すると思われるが、今後、外国企業も加わり、主導権争いが行われるものと思われる。

外資の参入状況
 98年8 月、英国の事業者、ブリティッシュ・テレコム(BT)は、LGビジネス・グループへの資本参加を発表した。BTはLGグループへ5億ドルの資本参加を計画し、PCS事業者であるLGテレコムの株式の23.49%を保有することで合意した。また、カナダの通信事業者であるベルカナダ・インターナショナル(BCI)は、米国の投資会社であるAIGとともにハンソルPCSに3 億800万ドルの資本参加をすることを決めた。また、KTフリーテルはある米国のファンドから推定 3.8億ドルの資本注入を受ける同意書を受取っていることを明らかにしている。このような動きに、韓国の有力企業が外資に乗っ取られてしまうのではないかという危機感を募らす事業者や政治家も現れ、98 年9月の事業法の改正では、基幹通信者に対する外資規制を99年1月から49%に引き上げることについては特に強い反対意見が出され、結局、この法案は否決された。

 韓国の電気通信市場の規制緩和と競争導入はこれまで政府主導で段階的に行われてきた。そしてそのペースは97 年末から始まった経済危機とIMF体制のもとでむしろ早まっている。本格的な外資の参入が始まった現在、ナショナル・キャリアのKTですら生き残りをかけて構造改革を断行し、強力な外国キャリアとの提携も視野に入れた経営戦略をとらざるを得なくなっている。

図表1 韓国における移動通信事業者の市場シェア
fig1
 1. 加入数は1998年6月30日現在
 2. 1998年10月1日現在、5社の合計は1200万加入を突破、
   うち50%の600万加入はSKテレコム

図表2 韓国におけるサービス別加入数
fig2
 1. 加入数は1998年6月30日現在
 2. 総加入数5,690万加入

(海外調査部主任研究員 鈴木泰次)
e-mail:suzuki-t@icr.co.jp

(入稿:1999.3)

このページの最初へ
トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トピックス[1999年]