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今年に入り、ドイツは欧州通貨統合の中心国となるなど、東西統一後、欧州の経済大国としてその地位を高めてきた。また、3月には、欧州最大のメッセであるCeBITが開催されたが、日本からも多くの人々が訪れたことだろう。 ドイツは現在、コンピューターや通信、インターネットなどにおいて欧州内で高い地位を固めつつある。3月、ドイツの経済専門誌ヴィルトシャフツヴォッヘは、「壁は動いた」と題して、ドイツにおけるインターネットの爆発的拡大、仮想ショップの出現による小売価格の低下を報じている。 それにもかかわらず、従来、ドイツのインターネット市場の実態について、日本ではまとまった形で紹介されたことが少なく、その実態はベールの下に隠されていた。今回のレポートでは、ドイツ事情に詳しい筆者が、最近収集した現地情報をもとに、ECやオンライン広告、企業のインターネット利用なども含め、ドイツのインターネット事情について数回にわたり紹介していく予定である。 |
ドイツのインターネットユーザ数 |
発表時期 | インターネットユーザ数 |
---|---|
1999年2月 | 840万人 |
1998年9月 | 730万人 |
1998年2月 | 560万人 |
ドイツのインターネットユーザ数は、すでにドイツの全人口の約10%を越えているが、今後もさらに大きな成長が予想される。政治経済誌のフォーカスによると、ドイツで今後インターネットを利用したいと考えている人は、310万人にも達すると推定されている。またISPのUUnetドイチェラント社は、インターネットユーザ数が数年後には現在の2倍に相当する1,500万人になるだろうと期待している。これは、ドイツの家庭におけるパソコン普及率が日本よりも高く、約30%に達している点、さらに1998年から始まった電話サービスの自由化で通信事業者間の競争が激化したことにより、通信料金がドイツテレコム独占の時代から比べて急速に劇的に低下しているといった点も、今後、インターネットの大きな拡大が期待できる要因である。
料金面に関しては、例えば、ドイツ最大のプロバイダーであるドイツテレコムのT-オンラインをダイヤルアップで利用すると、利用料金は4月1日から接続に要する電話料を含めて2時間で月額8マルク、2時間の利用を越えると1分あたり6ペニッヒ(約4円)となった。この1分あたり6ペニッヒのうち、電話料が3ペニッヒ(約2円)、T-オンラインのアクセス料が3ペニッヒ(約2円)に相当する。この料金は、3月までの1分あたり13ペニッヒ(約8円)から劇的に値下げされたもので、おそらく、これ以上は下げれないだろうといった水準にまで下がっている。
ドイツのインターネットアクセスサービス市場とISP |
国名 | 市場規模 |
---|---|
ドイツ | 948 |
イギリス | 519 |
オランダ | 196 |
ドイツ国内のISP・OSP各社の規模については、ドイツテレコム系列のT-オンラインが、数年来ドイツ国内および欧州全体の最大勢力となってきた。T-オンラインは、かつてはビルドシルム・テクストと呼ばれる、1980年代から提供されていたさえないビデオテックスサービスが前身だった。フランスのミニテルとは異なり、日本同様、ビデオテックスサービスとしては成功しなかったが、インターネットの普及に合わせ、インターネットアクセス機能を付け加え、GUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)のパソコン用の専用アクセスソフトの開発を重ね、さらに、コンテンツのユーザ・インターフェースを改良するなど、ドイツテレコムが非常に力を入れてきた結果、今日の成功に至っている。
このT-オンラインを追撃するのが、ドイツの大手メディア会社ベルテルスマンとのベンチャーを組んだアメリカのAOLである。T-オンラインが長い時間をかけて、280万人の会員数を獲得したのに対して、AOLはわずかの期間で80万人の会員数を獲得しており、T-オンラインは、AOLを最大のライバルとみなしている。両社間の競争はますます激化しており、今年4月のT-オンラインの料金値下げに対しても、AOLは、T-オンラインが計画していた電話料金とT-オンラインのアクセス料金のバンドリングを分離するようハンブルク地方裁判所に訴えた。今年3月、このAOL側の訴えが認められており、その結果、4月1日からのT-オンラインの料金は、先に述べたように電話料金と接続料が分離されて示されるようになった。
この2社に続くのは、インターネット・アクセス料無料を最大のセールスポイントにしているgermany.netである。日本やアメリカにおいても、登録ユーザに対して広告を見せることで、インターネットアクセス料を無料にするサービスが提供されていたが、いずれも失敗に終わった。germany.netは登場してすでに数年が経過しているが、このビジネスモデルで成功を収めている、世界でも数少ないユニークな例である。だが、GfK社が昨年9月に発表したサンプリング調査によると、同社が発表する登録ユーザ数はドイツで第3位のポジションにあるが、実際に利用しているユーザの比率では、6番目のポジションに低下している。これは、germany.netでは、公表されている登録ユーザ数よりも、実際に利用しているユーザ数がかなり少なくなっていることを意味している。
ドイツのインターネットアクセス市場で第4位の座にあるのは、AOLに買収されたコンピュサーブである。同サービスは欧州で最も古いオンラインサービスであり、根強い支持はあるものの、会員数は伸び悩んでいる。
コンピュサーブに続くのは、正確なユーザ数が発表されていないが、マイクロソフト社の提供するMSNだと考えられる。具体的なユーザ数は不明だが、コンピュサーブとほぼ同じぐらいのユーザ数だと推定される。
プロバイダー名 | ユーザ数 |
---|---|
T-オンライン | 280万人 |
AOL | 80万人 |
germany.net | 56.6万人 |
コンピュサーブ | 25万人 |
MSN | 未公表 |
ユーザが利用しているISP・OSP
プロバイダー名 | 比率(%) |
---|---|
T-オンライン | 55 |
AOL | 33 |
コンピュサーブ | 22 |
MSN | 11 |
Netsurf/IS | 10 |
germany.net | 8 |
1&1 | 8 |
UUnet | 5 |
Primus Online | 4 |
今後の展開としては、T-オンラインとAOLの2社によるユーザ獲得競争が当分続くと考えられるが、T-オンラインの優位はしばらく続くだろう。T-オンラインは、ビデオテックス時代以来から保有している豊富な独自コンテンツに加え、価格面においても攻撃的であり、さらにインターネット放送を通じてニュースを流す衛星放送のプロジーベンといったプロバイダーと積極的に提携する他、自ら24時間ライブのインターネット放送“n-TV”を立ちあげるなど、ドイツにおけるインターネットのリーダーとしてその活動は積極的である。これは、電話会社をバックに、採算面を度外視した戦略を通じて、インターネット普及拡大の使命を担っているためである。
T-オンラインはまた、積極的なネットワークの拡張を計画している。同社は、3月のCeBITの記者会見の席上で、現在増大を続けているトラヒックの拡大に対応するため、バックボーンの拡張計画を明らかにした。その計画によると、現在、155Mbpsの伝送容量を、1999年7月に622Mbps、さらに今年末には2.5Gbpsに拡大する予定である。
一方、AOLは、海外では日本と同様、アメリカほどの大成功を収めるのは難しいようだ。AOLの強みは、使いやすさと英語のコンテンツの豊富さにあるが、ドイツ人とて、英語のコンテンツはあまり好まれない。ドイツにおいても、AOLは自国語の独自コンテンツを集めるのには苦戦を強いられている。(続く)
(入稿:1999.4)
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