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拡大するドイツのインターネット事情(2)

(1999.5)


 東西統一後、ドイツは欧州の経済大国としてその地位を高めてきたばかりではなく、コンピューターや通信、インターネットなどの情報ネットワークビジネスの分野においても欧州内でその中心国となりつつある。ドイツのインターネット市場の実態をお伝えしている当レポートの第2回目は、長年の殻をやぶって、ついに大きく成長しつつあるエレクトロニック・コマースの動向にフォーカスしてご報告する。

ECがついにブーム
 長年にわたって日米に限らず、ドイツにおいてもエレクトロニック・コマース時代の到来が予測されつづけてきた。今年はまさにドイツのビジネス界において、エレクトロニック・コマースが重要なキーワードとして定着してきている。昨年まで、多くの企業は、インターネット上のワールド・ワイド・ウェッブを自社の広告宣伝手段として、その重要性を理解してきた。だが、ドイツにおいてインターネットユーザが840 万人にも達してきたことから、企業各社はワールド・ワイド・ウェッブに対して商品やサービスを直接顧客に提供する手段としての認識が高まってきた。

 ドイツの調査会社 GfKグルッペ社が今年の2月に発表したところによると、ドイツでは、すでに220 万人ものインターネット・ユーザが、過去12ヶ月のうちに、インターネット上で商品を購入または注文を行ったと報告している。さらにインターネット上での、ホームバンキングやチケット予約などの各種サービスの利用者は、全インターネットユーザ数の約1/3に相当する280万人に達したと伝えている。

グラフ1:ドイツのEC利用者数(単位;万人)
fig1
出所:gfk gruppe社の発表資料(1999.2)を元に作成

 今後ドイツにおけるエレクトロニック・コマース市場とは、一体どの程度の規模になるのだろうか。ルフトハンザ・エアプラス・サービスカルテ社によると、2000年におけるドイツのエレクトロニック・コマース市場規模(B-to-BおよびB-toC)は 690億マルク(約 4,554億円)と推定されており、英国(680 億マルク)、スカンジナビア諸国(360億マルク)、フランス(320億マルク)といった他の諸国を引き離していくだろう予想している。また、ある別の予測では、ドイツのエレクトロニック・コマース市場は、2002 年に160 億ドル(約1兆9,200 億円)にも拡大すると推定している。いずれにしろ、これらはかなり楽観的すぎる予測だと考えてもいいが、現実にこのような予測がなされてしまうほど、いまドイツがエレクトロニック・コマースのブームにあると言っていいだろう。

競争が激化するインターネット上の書籍販売
 ドイツのインターネット・ショッピングで売れている商品は、現在、書籍、ソフトウェア、CD、衣料等が中心であるが、中でも日米などの他のインターネット先進国と同様、書籍やCDといったウェッブ上のキーワード検索機能を有効に活用した商品の売り上げが急増してきている(表1)。

表1:インターネット・ショッピングによる商品別購入者数*
商品推定購入者数対前年伸び率
書籍40万人66%
ソフトウェア30万人▲ 1%
CD20万人78%
衣料20万人25%
家庭用品10万人▲ 44%
スポーツ用品10万人5%

*過去12ヶ月間に当該商品を購入したユーザ
出所:gfk gruppe社の資料(1999.2)を元に作成

 ドイツにおけるインターネット上の書籍販売の大手は、アメリカで大きな成功を収めているアマゾン・ドット・コム社のドイツ版であるアマゾン・ドット・デーエー(Amazon.de)と、世界第3位のメディアコンツェルン、ベルテルスマン社が提供するベルテルスマン・オンライン(BOL)、さらに、400万冊の提供を誇るブッフ・ドット・デーエー(Buch.de)らである。

 アマゾン社は、ドイツのインターネット・ブックストアのパイオニアであったフィルマABCビュッヒャー・ディーンストを1998年4月に買収し、アマゾン・ドット・デーエー(Amazon.de)を開始した。一方、ドイツのメディアコンツェルンであるベルテルスマン社は、アメリカでアマゾンと競合していた書籍販売の大手バーンズ&ノブル社を買収し、1999年2月、インターネット上の書店であるBOLを開始している。いずれも、低価格でドイツ語あるいは英語の書籍を販売しているが、このように、アメリカで成功を収めているインターネット上の書籍販売競争の戦場は、アメリカ国内だけでなく、ドイツにも飛び火して、激しい競争が繰り広げられている。

 インターネット上にショップを開店して成功を収めているのは、このような既存の大手企業や外資系企業だけではない。興味深い例としては、ドイツ語による最大のディレクトリーサービスを提供するウェッブ・ドット・デーエー(Web.de)や格安航空チケットを販売するフルーグチケッツ(www.flug.de)、ライゼン(www.lastminute.de)などを運営する、カールスルーエに本社を置くシネティック・メディーエンテフニーク社がある。同社は、現在34歳と32歳の兄弟が12年前に設立したドイツのベンチャー企業である。当時はソフトウェア開発の会社としてスタートしたが、インターネットの普及が始まりつつあった 1995年に、ディレクトリーサービスである Web.deを開始し、その後、チケット販売などのビジネス拡大に大きく成功した例である。

人気のホームバンキング、列車予約
 インターネット上で提供されている各種サービスの利用の中でも、ホームバンキングが多くを占めているのが、ドイツ独自の最も特徴的な点である(表2)。

表2:インターネット上の各種サービス利用者数*
サービス推定利用者数対前年伸び率
ホームバンキング190万人38%
列車・航空機の予約30万人383%
ホテルの予約10万人251%
旅行の申し込み10万人78%
その他の銀行サービス10万人▲44%
保険10万人以下▲72%

*過去12ヶ月間に当該サービスを利用したユーザ
出所:gfk gruppe社の資料(1999.2)を元に作成

 これは、現在ドイツテレコムが提供しているT-オンラインの前身であるビデオテックスサービスの時代から、ホームバンキングサービスがキラーアプリケーションとして、ユーザに広く受け入れられていたためである。現在、ドイツのいくつかの銀行は、インターネットによって提供するホームバンキングサービスの利用料を無料にしているところもある。しかし、通常、他の銀行は、ホームバンキングサービスの利用料を有料にしており、基本料金としておよそ15 マルク以下の月額利用料か、1回の利用毎に25ペニッヒの利用料を請求するケースもある。  また、ドイツ連邦鉄道の列車の予約にインターネットが使われている点も、他国から一歩進んだドイツのインターネット利用のユニークな点である。さらに、ホテル予約などを含め、旅行関連サービスにおけるインターネット利用が急成長していることなども、日本がドイツのインターネットビジネスから学ぶべき、注目すべき点だと言えるだろう。

 ドイツは欧州の中でもエレクトロニック・コマースの成長が大きく期待されている国であるが、この理由には、他のインターネット利用先進国でも成功している本やCDの販売以外にも、ホームバンキング、さらには鉄道やホテルの予約などといった独自のアプリケーションに成功していることもあげられるからだ。

高いユーザの満足度
 インターネット・ショッピングに対するドイツのユーザの満足度は高い。ドイツの政治・経済誌のフォーカスによると、インターネット・ショッピングの利用者に対する調査において、全体の75%以上が将来においても、今以上にインターネットを使った購入や注文を行いたいと回答している。この満足度の高さが、今後エレクトロニック・コマースが大きく成長するだろうという理由の根拠にもなっている。インターネットショッピングを行った場合の支払方法については、日米などと同様、クレジット・カード、配送後の代金引換、銀行口座からの引き落としなどが利用されている。

企業のインターネット利用とEC
 今日、ドイツ企業の多くが、企業内ネットワークにイントラネットを利用している。調査によると従業員数1,000 人以上といった大企業において、その44%がインターネットに接続していると回答しているが、現在のところ、その主な利用方法はもっぱら電子メールの利用が中心になっている。

表3:企業規模別のインターネット利用比率
従業員数インターネット利用比率
1000人以上の企業44%
200〜999人の企業10%
50〜199人の企業11%
10〜49人の企業14%
10人以下の企業13%

出所:Infratest Burke Incom/NoP(1998.9)

 だが、ビジネス分野においても、インターネットを利用した企業間のエレクトロニック・コマースが、大きく発展することが期待されている。具体的な事例としてはダイムラーベンツ社が企業間のエレクトロニック・コマースを導入したり、ユニークな例としては、ルフトハンザドイツ航空社が、出発直前に残った航空券をインターネット上で格安で販売したり、ノルトラインヴェストファーレン州警察が、古くなった車両をインターネット上で競売にかけるといった使われ方もなされている。

 フォーカス誌によると、3年後には、企業間における商取引の半分以上が、電子的な取引に移行するだろうという予測もなされている。企業間のエレクトロニック・コマースを利用した場合、流通や物流に関わる時間が25%も短縮され、将来はドイツにおける企業間取引の60%がエクストラネット上で実施されるだろうと、同誌は伝えている。今年、EUは通貨統合を実現したこともあり、EU内で国境を越えた企業間のエレクトロニック・コマース実現にかける期待は、このようにますます大きなものになりつつある。(続く)

(情報流通研究グループ チーフリサーチャー 吉澤寛保)
e-mail:yosizawa@icr.co.jp

(入稿:1999.5)

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