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拡大するドイツのインターネット事情(2)

(1999.6)




インターネットの利用目的は真面目
 ドイツで、インターネットユーザが急速に拡大しつつあることは、このシリーズの第1回目でお伝えしたとおりだが、ではいったい、ドイツ人はどのような目的でインターネットを利用しているのだろうか。
 利用目的を尋ねた調査によると、表1にあるように、ニュースや各種情報、さらに検索機能を利用した特定のテーマの調べものが最も多くを占める。 

表1:インターネット/オンラインサービスの利用目的(複数回答)

出所:GfK Gruppe社の資料(1999.2)を元に作成

利用目的 推定利用者数 伸び率(99/98)
調べもの、DB利用 170万人 35%
ソフトのダウンロード 150万人 28 %
ニュース 120万人 ▲3%
経済情報の入手 120万人 16%
政治・政策情報の入手 90万人 38%
企業サイトの情報入手 90万人 5%
最新の地域情報 80万人 59%
他ユーザと知り合うため 80万人 ▲2%
地域のショッピング情報 70万人 50%
就職情報 70万人 48%
スポーツニュース 70万人 10%
気象情報 60万人 32%
イベントのスケジュール 60万人 12%
商品情報 50万人 ▲9%
予約/申し込み 30万人 67%
エンターテインメント情報/サービス 30万人 61%
交通情報 30万人 17%
健康に関する情報 20万人 54%
自治体のサービス 20万人 ▲36%
地域の旅行観光情報 20万人 ▲53%

 これは、ドイツにおいては日本以上に、出版社などの従来のメディアがインターネット上での情報提供に積極的であるという印象が強く、雑誌などの記事をケチることなくフルテキストで提供するケースが多いこともその理由の一つだと考えられる。一般的にインターネットのユーザ数が拡大していくためには、各国の自国語のコンテンツの充実が欠かせないが、ドイツの場合、ここ2〜3年で急激にドイツ語の情報が豊富になってきている。 

 各分野の伸び率でみると、一般的なニュースが頭打ちとなってきている一方、政治・経済など、専門的なテーマに対する利用は拡大しつづけている。さらに、前回もご報告したように、ホテル、列車やチケット等の予約・申し込みが急増してきていることも、ドイツの非常に特徴的な点だ。さらにドイツならでは現象としては、地域に関する情報や、地域でのショッピング情報などの利用も昨年より急増しており(約1.5倍)、インターネットの底辺の拡大と、自治体主導でない民間による地域情報化に、インターネットが大きな役割を果たしつつあることがうかがえる。御参考までに言えば、自治体が提供するサービスの利用者数は、36%も減少している。 


豊富なオンライン雑誌・新聞
 かつて、インターネットの成長で、もっと危機感を感じたのは、既存の出版メディアだったのは、各国共通の現象だった。だが最終的には、各国の出版メディアはいずれも、インターネット上でそのコンテンツを無料で提供するという選択肢を選ばざるを得なかった。結果的に出版メディアは、インターネット上で情報提供することで、ユーザに対するサービスを高めるとともに、十分ではないがインターネット広告で将来収入を確保する戦略に転換した。また、広告クライアントにとっては、クロスメディア戦略と呼ばれる、インターネットや従来の紙の出版物など、複数媒体を組み合わせた広告の露出によって、相乗効果を高めるという期待があった。そして現在、インターネット広告クラアントから好まれるサイトは、多くのアクセスを集めているオンライン雑誌、新聞とサーチエンジン(ポータルサイトとも呼ばれる)が中心になっている。 

 ドイツの主要な新聞と雑誌の多くは、インターネットに積極的であり、新聞では、主力紙のディ・ヴェルト(ベルリン)、ズュード・ドイチェ・ツァイトゥンク(ミュンヘン)の他、ベルリン、ハンブルク、マンハイム、ザールブリュッケン、ニュルンベルクといった諸都市の地方紙もインターネット上で読むことが可能になっている。主力紙の中では、特にディ・ヴェルトが、情報量豊富なサイトの一つだ。また主力紙の一つであるフランクフルター・アルゲマイネ紙(フランクフルト)は、日本からでは、パソコン通信のニフティサーブからコンピュサーブを経由して読むことが可能である(但し、かなり料金がかかる)。 

 現在、インターネット上で良く読まれているオンライン雑誌としては、男性ユーザが多いためか、ニュース雑誌を始め、ビジネス向け経済専門誌、PC雑誌、スポーツ・TV情報誌が上位を占めている。ニュース雑誌では、デア・シュピーゲル、シュテルン、フォーカスといったドイツを代表する非常に堅くて真面目な雑誌が、日刊紙やビルトのようなタブロイド紙よりもずっと人気が高く、上位にずらっと顔を連ねている(グラフ1)。ドイツのメディアの提供するインターネットサイトの多くが、必ずしも真面目なサイトという訳ではないが、ドイツ人のメンタリティを反映したためなのだろうか、各国で人気の高いエンターテインメント系の情報は伸びつつあるが、いまのところまだ上位に顔を出してきていない。 

グラフ1:ドイツのオンライン雑誌人気ランキング(利用率;%)
fig1
N=1124 出所:ACTA98


自国ベンチャーのサーチエンジンが勢力拡大
 サーチエンジンは、インターネット先進各国で最もアクセス数を集め、インターネット広告では最も収入をあげているが、ドイツではどようなサーチエンジンが利用されているのだろうか。 

 日本と似ているが、ドイツでも、アメリカ系のサーチエンジンが人気の上位を占めている(表3)。なかでもヤフーは他を圧倒的に引き離しており、日米と同様、その強さを発揮している。推定ユーザ数の昨年からの伸びでは、スタートが遅れたアメリカ系のエキサイトを除くと、ドイツの新興ベンチャー企業によって運営されるファイヤーボールとWeb.deが、トップのヤフーと2位のアルタビスタを追かける形になっている。おそらく、来年には両者がアルタビスタを追い越し、人気検索サイトの2位3位を占め、ドイツ系のサービスが巻き返しをはかると予測される。 

表2:最もよく利用する検索サイトベスト8

出所:GfK Gruppe社の資料(1999.2)を元に作成

サイト名 推定ユーザ数 伸び率(99/98)
ヤフー 240万人 53%
アルタビスタ 80万人 16%
AOLネットファインド 60万人 24%
ファイヤーボール 60万人 86%
Web.de 60万人 85%
ライコス 30万人 40%
エキサイト 20万人 143%
アラジン 20万人 40%


インターネット広告収入はアテになるのか
 では、以上のサーチエンジンやオンライン雑誌、新聞が、その収入源として奪い合っているドイツのインターネット広告市場とは一体どれぐらいの市場規模なのか。
 1998年の欧州全体におけるインターネット広告市場は127億円だが、そのうちドイツはその約1/4に相当する32億円(5000万マルク)を占めている。今年、1999年末には、インターネット広告は、3倍に拡大し約100億円(1億5000万マルク)市場になるだろうと予測され、ドイツのマスコミはインターネット広告の急拡大を報じている。しかしながら、現在の32億円という規模は、広告市場としては、お話しにならないほど小さいものだ。昨年の日本のインターネット広告市場(140億円:日本の人口はドイツの約1.5倍)と比較しても、ドイツのインターネット広告市場は、出遅れている。また、インターネット広告市場が3倍に拡大したとしても、1999年末のドイツの広告市場全体(1999年推定623億マルク)に、インターネット広告市場が占める比率は、たったの0.24%にすぎない。 

グラフ2:インターネット広告市場1998(単位:億円)
fig2
出所:Der Spiegel Forrester Research(1ドル=121円 1マルク=64円で換算)

 現在、アメリカでヤフーなどのインターネット関連株が急落を始めているが、これは、コンテンツの有料化が成功せず、収入源をインターネット広告収入に頼らざるを得ないインターネットコンテンツビジネスの収入基盤の脆弱さを、端的に物語っているものだ。つまり結局のところは、紙の出版物の内容をそのまま横流しできる既存の出版メディアでなければ、インターネットコンテンツは、とても商売としてやっていけないということだ。これは、アメリカでインターネット上だけで提供されるベンチャーのオンライン雑誌がいくつか出現したが、いずれもビジネス的に失敗し、サービスの中止か資本力のある他社に買収されるという結果に終わった例にも現れている。
 こう考えていくと、結局は、インターネットコンテンツの担い手も、多数の媒体を保有する既存のメディアが中心となっていかざるを得ないということだ。当初、多様な情報提供主体が乱立し、情報化による多様化された情報の担い手として登場したかに言われたインターネットだったが、その人気コンテンツは、最終的には既存メディアの提供する情報へと収斂されつつあるようだ。 


ドイツのニュース
 出版メディアと同様、ドイツの既存のマスメディアである放送局もインターネットへの取り組みに積極的である。ビデオストリーミングソフトを利用したインターネット放送は、日本でも娯楽系のコンテンツを中心に以前から提供されているが、日本のテレビ局がその番組の一部をインターネット上で常時提供している例はまだ少ない。
 例えば、現在、リアルネットワーク社(http://www.real.com/)のリアルプレイヤーを利用して、ニュース番組を提供している日本のテレビ局は、TBSが午前11:30からの「ニュースの森」をインターネットで放送しているにすぎない。アメリカの場合、CNNやABC、FOXなどほとんどの大手テレビ局が、インターネット経由でニュース番組を流しており、ドイツでも、数局がニュース番組のインターネット放送を実施している(表3)。この中には民間だけではなく、公共放送のARD(ドイツ第一テレビ)やバイエルン放送協会なども含まれている。また、民間放送局がスポーツ(RANオンライン)や娯楽番組(プロジーベンスイッチ;http://www.pro7.de/switch/)なども流している。 

表3:日本からもリアルプレイヤーで見られるドイツのニュース番組

ニュース番組名 放送局 お勧め度 コメント
n-TV live n-TV ベルリンのニュース専門局。通常のテレビ放送を24時間同時中継。CM入り。
Die ProSieben Nachrichten プロジーベン 民間の放送局。フジTVのニュース番組のようなノリ。
tagesschau ARD(ドイツ第1テレビ) 受信料によるドイツの公共放送。昔のNHKのように堅い。
RUNDSCAU バイエルン放送協会 バイエルン州の公共放送。内容は全国ニュース中心でまずまず。

 無論、リアルプレイヤーをダウンロードすれば、日本からでもこれらの番組をパソコンのデスクトップ上で見ることができる(但し、プロキシサーバーを利用している企業内のネットワークからは、接続できないことが多い。この場合、モデムを使ってダイヤルアップで直接プロバイダーに接続するしかない)。なお、NHK-BSでも放映されているZDF(ドイツ第2テレビ)は、マイクロソフト社と提携しており、同社のストリーミングソフトであるメディア・プレイヤーを利用して、インターネット上でZDFのニュースの一部を見ることが可能である。 

インターネット上のドイツのニュース番組
image

 アメリカや日本の放送局が提供しているインターネット放送と比較すれば、ドイツの場合、いずれも画面が小さく、その画質は、ドイツとのインターネットの回線状況にもよるが、ニュースキャスターの口の動きが伝わる程度の状態である。ネットの混雑時には、画面のフリーズもよく起こる。よほどの物好きでない限り、毎日見ようという気の起こらないレベルだと言っていいだろう。なお、回線の状態は日本側で午前中が空いているため、試される場合は午前中のアクセスをお勧めする。 

n-TVのニュース
image各ニュース番組は約15分で、毎日更新される。最も画質が良好なのはプロジーベンのニュース番組である。また、以下に紹介した中でもっとも興味深いものの1つとしては、通常の放送をインターネット上で同時に流しつづけているケーブルテレビ局のn-TVがあげられる。これは、ドイツテレコムのインターネットサービスであるT-オンラインのサイト上で提供され、T-オンラインのユーザには、通常のダイヤルアップだけでなくISDNやADSLを利用したアクセスで、安定した品質を提供できるように工夫されている。
 従来、インターネット放送は、個別の番組をユーザに選択させて見せる場合が多かったが、今後、n-TVのように、インターネットを新たなチャンネルとして、通常の放送と同じようにネット上で流しつづけるようになるケースが増えると予想される。特に有料放送のケーブル局やCS放送局などは、画質の落ちるインターネット放送を、あらたな顧客開拓のプロモーション手段として、利用することが考えられるだろう。 



ADSLやケーブルモデムで
インターネット放送は既存のテレビを脅かすか
 今後、このようなインターネット放送が普及していくためには、従来の電話線を利用して高速通信を実現するADSLや、CATVケーブルに接続するケーブルモデムを利用した高速アクセスの普及拡大が欠かせなくなっている。日本では今年末にNTTが主要都市でのサービス提供開始を発表しているが、既にドイツでは4月1日よりドイツテレコムが、人口密度の高い地域のビジネスユーザにADSLサービスの提供を開始した。また、7月からはT-オンラインを利用する一般ユーザにも提供され、通信速度は768kbps 、50時間の利用で月額99マルク(約6,500円)である。同社はADSLの全国展開を強化すると表明しており、今年末までに人口密度の高い43都市にサービスを提供し、約10万ユーザの獲得を目指している。 

表4:個人向けADSLとケーブルモデム料金比較
  ADSL ケーブルモデム接続
提供事業者(サービス名) DT 7/1より開始 ケーブルシティ・ミュンヘン 
通信速度 768kbps 550kbps
料金 2つの料金プランあり
T-Online Speed50
99マルク(50時間まで)
50時間を越えると6ペニッヒ/分
T-Online Speed100
149マルク(100時間まで)
100時間を越えると6ペニッヒ/分
ともに、T-オンラインのアクセス料6ペニッヒ/1アクセスが別途必要
月額85マルク定額
通信端末費用 初期導入費用229マルク〜299マルク ケーブルモデムカード等395マルク、またはレンタルを利用すると17.9マルク/月

 また、ドイツでは、CATVが約2000万世帯と大きく普及しており、ケーブルシティ・ミュンヘン社は、ケーブルモデムによる550kbpsのアクセスを月定額85マルク(約5400円)で提供している。さらに、旧東ドイツ地域のケーテンでは月定額55マルク(約3500円)で提供する事業者もいる。ドイツは世界で最もISDNを利用するユーザ数が多く、その数は250万を越えており、高速インターネットアクセスに対する、潜在的な需要は高いと考えられる。特に、ケーブルモデムは、コストと品質面から、インターネット高速アクセス市場において、ADSLよりも本命ではないかと考えられる。 

 しかしながら、アメリカやヨーロッパにおける今後5年後のADSLやケーブルモデムの普及は、インターネット利用世帯のわずか約7%程度とも予測されている。現在ADSLなどの高速インターネットアクセスが話題となっているが、これらを利用したインターネット放送が既存のテレビ放送を脅かす日の到来は、まだ当分時間がかかるかも知れない。 

(産業システム調査部主任研究員 吉澤寛保)
e-mail:yosizawa@icr.co.jp

(入稿:1999.4)

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