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欧州の通信事業者がADSLアクセス・サ−ビスに進出

(1999.9)


 通信白書(99年) によると、98年の日本のインタ−ネット利用人口は1,700 万人に達した。しかし、総人口に占める利用人口の比率からみると、米国の3分の1にとどまっていて、わが国の情報通信産業発展の当面の課題は、インタ−ネットの利用人口の増加だが、電子商取引(EC)時代の幕開けを迎えて、快適なインタ−ネットの接続環境を提供することも、同様に重要な課題となってきた。

 大口のビジネス・ユ−ザ−には、光ファイバ−によるアクセスが提供されている(価格の問題は別にして)し、通信事業者も重要顧客の囲い込みのために、積極的に投資をする。問題はインタ−ネットの利用が、小規模事業所や家庭にまで広がってきたことだ。それに、アクセスする情報の内容も、電子カタログのような、カラ−のグラフィックや動画なども使われるようになってきた。
 ダイヤルアップでは時間がかかり、通信料金も負担となる。そこで、「高速アクセス、常時コネクション、経済的な定額制料金」の実現が課題となってきた。(もちろん、当面インタネット利用者の大部分を占めるダイヤルアップ接続の定額料金制〜一定時間までの定額料金制なども含め〜も同様に検討課題である)

 インタ−ネットの高速、常時接続のニ−ズに、米国ではケ−ブルテレビを伝送する同軸ケ−ブルを利用する、ケ−ブル・モデム接続が先行した。最近の調査によれば、利用者が100 万件を超えたという。これに危機感を抱いた通信事業者が、インタ−ネット・サ−ビス大手のAOLなどと提携して、既設市内電話ケ−ブルの銅線を利用した、ADSL(Asymmetric Degital Subscriber Line)サービスを開始した。現時点での利用者は20万程度とみられている。利用料金は双方とも40〜50ドル/月である。このほか、固定無線による高速アクセス(FWA:Fixed Wireless Access)や通信衛星を利用した高速アクセス・サ−ビスも提供されている。
(注)わが国のケ−ブル・モデム接続は、99年6 月現在で 6.1万件(急伸するCATVインタ−ネット、日経コミュニケ−ションズ 99.8.16)

 欧州では、ドイツを除きケ−ブルテレビの普及が米国ほど進んでいないこともあって、小規模事業所や家庭向けのインタ−ネットの高速アクセスのニ−ズには、当面ADSLの利用が中心になりそうだ。以下に、英国、フランス、ドイツにおけるADSLアクセス・サービスの提供計画と規制当局の考え方を紹介する。
(注)欧州でも、インタ−ネットのダイヤルアップ(ISDNを含む)接続に要する電話料金の負担に対する不満は強い。しかし、定額料金制は実現していない。むしろ、英国を中心にインターネット接続料の無料化(広告掲載料や電子商取引の手数料見合いでカバ−、例えばフリ−サブ、BTクリック、AOL)の動きが最近のトレンドのようだ。


BTのADSLアクセス・サービスの展開計画
 BTは去る 7月末にADSLアクセス・サービスの展開計画を発表した。今回のADSLサービスはインターネット接続事業者(ISP )と通信事業者への卸売サ−ビスとし、エンドユーザーに対する小売りは行わない。ただし、BTはこのサービスをインターネット接続サービスとしてパッケージ化して小売りする計画を持っている。

 BTは2000年3 月までに約600 万の家庭および小規模事業所を対象に、400 の交換局(英国の全交換局数は約6000局)をグレードアップして、サービスを開始する。対象地域は、ロンドン、バーミンガム、マンチェスター、エディンバラなどの10大都市を予定している。その後の拡大計画は未定だが、BTの顧客の 75%は2,000 足らずの交換局でカバーされるという。  BTのADSLサービスは、下りの伝送速度は512Mbps 〜2Mbps の間、上り256kbps
 料金は1 カ月40〜150 ポンド(7,200 〜27,000円:1£= 180 円)

英国の規制機関のオフテルは、住宅用ユ−ザーや小規模ビジネス・ユーザー向けの広帯域接続サービスを早期に開始するための最善の規制手段として、去る 6月に2 つのオプションに絞って再提案を行った。(諮問の期限は10月15日)

オプションの1 つは、「BTの部分的なベ−スバンドの専用線」で、BTが他事業者にMDF (本配線盤)接続によって「銅線ループ」を顧客と市内交換局間「専用線サービス」として提供する、またBTはこのサービスの提供を義務づけられる、という案である。しかし、BTの市内交換局に他事業者の設備を設置する「コロケーション」、ISDNなどとの干渉を解消するための「スペクトラム・マネージメント」などの解決に時間が必要であり(標準化は2000年までに終了)、サービスの開始予定を2001年7 月からとしている。

2 番目のオプションは、「恒久的バーチャル回線アクセス」で、BTが「銅線ループ」による広帯域サービスを提供できるよう、自社のネットワークのグレードアップを行ない、POI (相互接続点)で他の ISPに接続するADSLアクセス・サービスである。BTは、自社のサービス・プロバイダー(SP)部門に提供するのと同等の条件(提供時期を含む)で、他の競争的SPにアクセス・サービスを提供しなければならない。

先に紹介したBTのADSLによるアクセス・サービスは、オフテルの再提案した後者のオプションに沿ったものである(BTによれば、研究開発と実験の成果を前提にオフテルに働きかけた成果)。従って、オフテルの許可が得られれば、早期(2000年春)にサービスの展開が可能だ。オフテルも前者のオプション(ローカル・ループ(加入者回線)・アンバンドリングに近い)がより望ましい方法だという認識を示しつつも、ISP との公正な競争条件が確保できれば、早期展開が可能なBTのADSLアクセス・サービスを先行させて、インターネット利用者の広帯域アクセスの期待に応えよう、と考えている。

図 

フランス・テレコムがADSLの商用サービスを11月に開始
 フランス・テレコムは Netissimo 1と2 というエンド・ユ−ザ−向けADSLアクセス・サービスを、パリ市内および周辺の特定地域に限って11月から開始する許可を、 7月に規制機関のARTから取得した。
Netissimo 1
下り500Kbps 、上り128Kbps
顧客はモデムの購入、レンタルを選択可能
モデム購入の場合の月額使用料 265フラン(4,800 円:1FF=18 円)
Netissimo 2
下り 1Mbps、上り 256Kbps
モデム・レンタル料込みのアクセス・サービス
月額使用料 844フラン(15,200円)
 ARTは、ISP 間の公正な取扱を期するため、フランス・テレコムのアクセス・サービスを利用する顧客は、ISP を自由に選択できるようにする、などの条件の遵守を求めている。ARTは、ADSLサービスを早期に利用できるようにするため、フランス・テレコムのサービスを承認したが、ローカル・ループのアンバンドルは必要であり、別途ARTの見解を明らかにする、と表明している。

ドイツ・テレコムはADSLサービスを全国的に拡大
 ドイツは欧州のほかの国々に先駆けて、昨年(98年)ドイツ・テレコムの加入者回線のアンバンドル化を実施した。99年 2月にそれまでの暫定料金を改訂して、月額25.4マルク(1,520 円:1マルク=60 円)に引き上げた。この金額は、ドイツ・テレコムの電話の基本料金24.6マルクより高く、規制当局のRegTP は批判を受けた。RegTP は 6月現在36件の契約が締結済みであることを明らかにしたが、利用が進んだとは言えない状況である。 ドイツ・テレコムは、7 月から住宅用ユーザー向けにADSLサービスを全国規模で展開する計画を明らかにした。

 ドイツ・テレコムのADSLアクセス・サービスは、"DSL over ISDN" といわれ、ISDNの契約が前提になっている。下り 768Kbps、上り128Kbp(上りはISDNを使う)で月額98マルク(5,900 円)である。また、利用者がドイツ・テレコムのインタ−ネット・サ−ビスのT−オンラインに接続すると、月50時間まで99マルク(5,900 円)、月100 時間まで149 マルク(8,900 円)が別に必要となる。もちろん、独立のISP などもドイツ・テレコムのADSLアクセス・サービスを利用して、顧客に自社のインターネット・サービスを提供できる。  ドイツ・テレコムは、まず 8大都市でADSLサービスを開始するが、99年末までに50都市、2000年末には150 都市に拡大する計画である。

今後はケーブルテレビ利用の高速アクセスなども競争に参加
 英国では、ケーブルテレビ事業 1位のCWC(C&Wが53% を出資)のケーブルテレビ部門を 3位のNTLが買収し、1 位に躍り出た。フランス・テレコムはNTLに追加出資して筆頭株主(25% )になった。NTLと業界 2位のテレウエストの両方に、マイクロソフトが出資しており、ケーブル・モデムを使って高速アクセス市場に参入する計画を明らかにしている。
(注)英国のケーブルテレビ有料契約端末数は約380 万(99.4 現在)
このほかに、英国では”BiB”(British interactive Broadcasting,BT、ニュ−ズ・コ−ポレ−ション、松下が出資)が衛星経由の "Open interactive television"を今秋から提供する予定である。

 ドイツでは欧州委員会の指令により、ドイツ・テレコムの所有する 9つの地域ケーブルテレビ子会社(加入数の総数は約1,800 万)の経営の完全分離と株式の第 3者への譲渡(ドイツ・テレコムは25% を今後も保有したい意向)が進められている。ケーブルテレビ子会社の株式の譲渡に応札した企業はマイクロソフト、ドイツ銀行、ドイツ大手メディアのベルテルスマン、通信 2位のマンネスマンなどで、年内に売却先が決まる予定である。売却が確定すれば、ケーブル・モデムを使って高速アクセス市場に参入するものとみられる。なお、売却総額は200 億マルク(1 兆2,000 億円) とみられている。

(取締役相談役 本間 雅雄)
e-mail:編集部宛 nl@icr.co.jp

(入稿:1999.9)

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