トレンド情報-シリーズ[1997年]

[米国インターネットの内側]
[第3回]エレクトロニック・コマースの行方(2)

(1997.9)
B-to-B市場への期待
 米国の各調査機関は、昨年あたりから、エレクトロニック・コマースの成功は、対消費者ではなく、ビジネス間の取引にあると指摘しはじめた。例えば、フォレスターリサーチ社は、エレクトロニックコマースの対消費者市場は2000年までに70億ドル程度にしかならないが、ビジネス間の市場は、660億ドルになるという。また、IDC社は、ビジネス間の市場は1996年で2億1000万ドルだが、2000年には300倍の630億ドルになると予測している。

 前回、このシリーズで述べたように、今年、6月にアメックスとフォーチュン500のラウンドテーブルが、ビジネス間のエレクトロニック・コマースの標準となるフォーマットであるOBI(Open Buying on the Internet)を定めた。これはエレクトロニック・コマースのB-to-B市場拡大に非常に重要視されている。
 すでに、オープンマーケット、エレコム、ネットスケープとGEISとのジョイントヴェンチャーであるアクトラといったベンダーがOBIをサポートしている。
 すでにOBIを利用している顧客もいる。例えば、研究用設備の流通業者であるVWRサイエンティック・プロダクツ社では、すでにOBIを利用して10万の顧客に対してオンライン上の取引を提供している。同社は12万の製品情報を700メガバイトのウェッブベースのカタログに掲載しており、日々40-50の製品情報を更新している。このような会社にとっては、日々カタログ情報のメンテナンスと顧客側での購入情報に関するメンテナンスが必要であるが、今まではこれらに関する標準フォーマットすら存在しなかった。しかしOBIによってこれらの作業は効率化された。
 ソフトウェアベンダーのエレコム社は、6月にフォーチュン1000を対象としたOBI対応のオーダー処理を行うエレコム・プロキュアメントという製品を出荷した。インタラクティブウィーク誌によるとこのシステムによって、企業のオーダー処理に伴うコストが半減されるという。

B-to-Bは本当に拡大するのか
 エレクトロニック・コマースの利用環境は整備されつつあるが、本当にここ2〜3年で米国調査機関の予測どおりに市場が爆発的に拡大するのだろうか。もし彼らの予測が常に正しければ、本来ならば1997年の段階の企業通信ネットワークは、イントラネットやエクストラネットではなく、フレームリレーやセルリレーが専用線にとって代り、その大半を占めているはずだった。しかしその答は現実が示しているとおりである。

 だが、彼らの予測の根拠となっているのは、ビジネス間でのエレクトロニック・コマースの成功事例が最近になっていくつも存在しているからだ。
 デルコンピューター社は今年3月にPCを1日で100万ドルも販売したと発表している。また、シスコ社は、全売上の13%をインターネット上で販売しており、現在の勢いが続けば、今年1年でインターネット上の売上は65億ドルになると期待している。さらにシスコ社によれば、インターネット上の顧客サポートによって年間2億5000万ドルも節約しており、1億ドルのペーパーコストも削減したと発表している。
 Tシャツのメーカーであるリー・プリントウェア社は、かつて大口顧客とだけEDIを利用していたが、インターネットベースのシステムに変更したところ、90%の卸店が活用しはじめたと述べている。また、良く知られているようにGEは、800のサプライヤーと電子部品、金属部品、プラスティック部品、化学製品、パッケージ等の調達を行い、さらに電子カタログ、ネットワーク上でのネゴシエーション、電子クレジットカードを利用した販売等も実施している。
 ボーイング社はスペア用のパーツに関するデータをウェッブ上で提供したことにより、世界で700社ある航空会社のうち150社の顧客が、24時間いつでもオンライン上でスペア用パーツの注文を行うようになった。これは、EDIを利用してきた顧客の数が過去18年間でわずか30社であったのに対し、大きくユーザが拡大した結果となった。
 このスペア用パーツに関するデータベースは本来IBMのメインフレーム上で構築されたものであった。そこで技術スタッフは4ヶ月でHTTPベースのコマンドをIBMメインフレーム用のプロトコルに変換するミドルウェアを作成し、現在のウェッブベースのサービス提供を可能にした。ボーイング社によると、インターネットにビジネスを移行しようとしている多くの企業にとって重要なことは、既に持っているインフラを利用する点にあると指摘している。
 その他、フォード、クライスラーといった自動車業界など、エレクトロニック・コマース、あるいはエクストラネットを利用した大手企業の事例が、製造業を中心に米国で数々紹介されつつある。

 インターネット関連のベンダーの発表には多少の誇張があるとしても、このようにビジネス間のエレクトロニック・コマースが始まりつつあり、米国で爆発的な拡大が期待されているは事実だ。だが、これには、米国のビジネス文化が深く根差していることも忘れてはならない。地方分散と広大な国土事情により、ヒト、モノの移動に莫大な時間とコストを要する環境下にあっては、通信手段をできる限りビジネスに使いたいというニーズはもともと非常に高い。
 しかしこの国でさえも、大企業によるビジネス間のエレクトロニック・コマースの進捗ペースは遅いだろうという見方もされている。多くの企業は、長年レガシーシステムに膨大な投資をしてきており、それを新システムに乗り換えるにはあまりにも多くのコストを必要とする。ボーイング社でさえも、VAN上のEDIが短期間にインターネットEDIに置き換えられることはないと認めている。さらに、今絶頂を極めている米国景気も間もなく下り坂になることが予想され、企業の情報化投資熱も必然的に冷めてくる。
 果たして日本でどれほどビジネス間のエレクトロニック・コマースが早急に成長するかについてもまったく不透明だ。IT技術の活用と国際競争力の強化がさけばれているが、商習慣の問題、日本的系列化(日本的ネットワーク型組織?)、プロキュアメントホームページの失敗、離陸しない消費者向けEC、閉鎖的企業体質、低いPC-LANの普及率、狭い国土などハードルとなる要因は多々ある。企業間のエレクトロニック・コマースと聞けば夢のある物語ではあるが、今日の現実から、何をどう進めてよいのか戸惑う企業が多いだろう。エレクトロニック・コマースの利用で競争優位に立つ企業が現れ、それが普及拡大の起爆剤となることが期待されるが、特に企業間のビジネスでは、伝統的な営業販売手法があまりにも根強いのが現実ではないか。

(産業システム研究部 吉沢 寛保)
e-mail:yosizawa@icr.co.jp

(入稿:1997.9)

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