トレンド情報-シリーズ[1997年]


[第1回] CATVの普及を予測する

(1997.10)

 ここ数年間は、CATVの話題が新聞などマスコミを大いに賑わせている。全国で新設局ラッシュが続いており、加入数も大幅に増加している。また、インターネット接続やCATV電話サービスの開始など通信利用も事業化され、新たな事業展開の足がかりと期待されている。一方、衛星デジタル多チャンネル放送の開始とともに多チャンネル化とデジタル化の波が一気に押し寄せてきた。このような背景のもとで、CATV事業について、普及、業界再編成、デジタル化、インターネット接続、CATV電話をキーワードとして、CATV事業の現状や動向から将来を予測し、CATV事業の明と暗を探ることとする。
1.CATVの普及を予測する
 日本におけるCATVは、難視聴対策として発展してきた。その後、地上波の区域外再送信によって、地上波放送局数の少ない地方都市を中心に事業化の気運が盛り上がってきた。
 いずれも1都市1事業者でかつ地元資本の参画が免許の条件であったため、小規模で再放送中心の事業が中心であり、自主放送として地域情報化の担い手としての役割が高まり、第三セクターとして事業が中心となってきた。
 アナログCS放送の開始に伴い、地上波中心の再送信から一気に多チャンネル化やペイパービュー放送が開始され、全国で事業化の気運が盛り上がった。いわゆる都市型CATVの事業化である。
 一方、日本のCATV事業は、経営規模が小さくかつ非効率でコスト高な経営を行ってきた。このため、エリア拡大をせず小規模な経営のままの事業を続ける事業者や事業開始できない事業者も増えてきた。
 このような状況の中で、外資規制の緩和や1都市複数事業、広域エリア化などの法改正とCATV網を利用したフルサービス化による通信サービスへの気運が大きく盛り上がってきた。

2.CATV普及への追い風
 外資規制の緩和やフルサービスの期待から、米国大手のCATV会社と日本の商事会社が中心となって、統括運営会社(MSO)が設立された。MSOとしては、住友商事とテレコミュニケーションズ(T.C.I)が中心となっているジュピターテレコムと伊藤忠とタイムワーナー(T.W)のタイタス・コミュニケーションズ、トーメンとコンチネンタルケーブルビジョン(C.C.I)のシーティーテレコムが設立され、いずれも全国展開を始めている。さらに、CATV網の情報通信サービスの提供の期待から、機器メーカーや通信事業者さらには大手企業がそれぞれCATV事業に参入してきた。いずれも、大都市及びその周辺地域さらには地方の大都市を中心に新規開局の陣取り合戦が続いた。このため、一気にCATV局の施設設置の免許取得局数に大きく弾みがつき、新規開局ラッシュが続くこととなった。昨年は27局、今年は18局の開局が予定されている。
 また、1都市1事業者の規制が緩和されたことから、既存CATV会社の周辺地域へのエリア拡大が容易に可能となり、経営状態の上向いたCATV局を中心に隣接市町村へのエリア拡大が続いている。

 通信サービスの提供としては、インターネット接続やCATV電話サービスも事業化され、大きなインパクトを与えた。マスコミにも毎日のようにCATVの話題や多チャンネル化の話題が乗り、CATV普及にも大きな後押しとなった。
 普及率も一気に増加して、1,263万加入を突破し、自主放送を行っているCATV局の視聴契約数も500万加入と11%の普及率を超えてきた。昨年が50万加入の純増、今年が140万の純増と一気に契約加入数を伸ばしている。
 このため、今後も新規開局と既存事業者のエリア拡大により更に普及率は向上すると見てよい。

3.CATV事業経営の好転
 小規模経営で、赤字のCATV局が多い事業であったが、ここ数年間のCATVの開局ラッシュや多チャンネル化や各種サービスの期待などから、加入数が急激に増加してきた。この加入者増の傾向は、ここ数年間は続くと見て良い。また、加入規模の大きい事業者が増えてきた。このことにより、経営状況も赤字局と黒字局の比率が5割となってきた。収入規模も、1,126億円から2,131億円と一気に90%も増加した。

  営業費用は大幅に増加したものの、営業損益の赤字が着実に減少してきた。このため、CATV事業の経営状況は、ここ数年間で大きく好転すると見て良い。加入数が増加し、経営も好転し、周辺エリアへの拡大やインターネットなど各種サービスへチャレンジする局とあまり加入数が増加せず赤字経営で現状維持をする局の2極化がより鮮明になってくる。

4.普及促進の課題

 CATVの加入世帯数の多くは、難視聴対策と電波障害対策が占めている現状がある。これらの世帯は、大きな潜在加入世帯数であると同時に地上波TVの再送信のみの利用で有料放送には無関心な世帯でもある。CATV会社の加入数の約7割がこのような加入者ともいわれている。これら加入世帯をいかに有料加入世帯に誘うかが課題の一つである。

 さらに、大都市並びにその周辺地域では空白地域がなくなり、地方の中小都市で事業展開がなされるかが大きな課題である。CATV事業は、地方の地上波TV放送局数の少ないエリアで多数のTVチャンネルをうたい文句に発展してきたが、事業開始時多くの設備投資が必要であり経営状態の芳しくないCATV会社が大部分を占めていたため、地方中小都市ではほとんど事業化が進まなかった。
 地域情報化の担い手としての期待もあり、自治体主導での事業化や農村型多元情報システム(MIPS)などが発展してきた。これらの事業化は、テレトピア構想や農村情報化など国の施策にたよるケースが多く、毎年の開局数も自ずと絞られてきた。一方、郵政省は、地上波TVについて1県4局化を推進していたため地元資本を地上波に集中させたことも、地方中小都市でのCATV事業化の阻害要因の一つになったともいえる。

日本において,CATV事業が真に普及するためには、

  1. 地方中小都市におけるCATV局の事業展開
  2. 有料加入者数の増加と経営コストの低減
  3. 衛星デジタル放送との連携とペイパービューの普及
 などが課題といえる。

 現状を見ると、ここ数年間の新規開局が予定されているCATV会社の営業エリアは,その大部分が,大都市およびその周辺都市と県庁所在地都市に集中している。このようなエリアでは,MSOや大手資本などによる開局ラッシュでほぼ空白地域はないと見てよい。今後、中小都市への事業展開がいかになされるかが,今後の普及に大きく影響することとなる。

 ここ数年間のCATV事業への大手資本の参入や多チャンネル放送への期待などから多くの既存CATV局では加入契約者が増加しており、規模の拡大が続いている。経営上の黒字化する局が一気に増加してきた。このため、既存CATV会社の隣接市町村へのエリア拡大や広域エリア化が更に進むことが予想できる。エリアの拡大は、加入者の増加と効率的な経営に貢献できる。また、各種サービスの事業化にも事業化のしやすい環境が整うこととなる。

 衛星デジタル多チャンネル放送の普及が、CATV普及の阻害要因との見方がある。現在までは、衛星デジタル放送が伸び悩んでいることからその影響は、ほとんどないといって良い。一般的にはCATV空白地域が衛星デジタル放送が普及するエリアとの楽観的に考えるとCATVと衛星デジタル放送の競合はないと見える。しかし、CATVと衛星デジタル放送のもっとも大きな違いは、CATVが地上波の再送信があること、地域に密着した情報提供サービスを実施していること、さらには双方向機能を持つことである。

 CATV空白地域での衛星デジタル多チャンネル放送の普及動向がもっとも気にかかる要素であるが、CATVの特徴である地域情報提供や地上波・衛星放送の再送信さらには各種通信サービスなど総合的な地域情報ネットワークとして機能する限り、衛星デジタル放送は、競争相手でなくCATV事業をサポートする多チャンネル番組提供事業とみて良い。

 更に米国では、CATV普及の大きな原動力としてペイパービューの普及がある。ペイパービューの普及とCATVの普及が両輪となってともに大きく発展した。その結果、CATV空白地域への多チャンネル放送の浸透のため衛星デジタル放送が事業化された。
 したがって、衛星デジタル放送の普及が、CATV普及の牽引車の役割を果たしているとの見方もできる。また、CATV事業の多チャンネル化への指示薬ともいえる。

5.CATVの定着が、普及を加速
 特に、経営規模が小さく、赤字経営で悩んでいた事業者が、ここ数年間の加入数の増加により著しく黒字化する局が増加してきた。つまり、既存局においては、今まではCATV普及のための揺籃期であったため、非常に苦しい経営を余儀なくされていたが、ここ数年の盛り上がりにより、将来に明るい展望が見えてきたといっても良い。

 CATVの普及は、経営の好転したCATV局が中心となって、隣接市町村への事業拡大がもっとも効果的である。普及促進の大きな要因としては、大規模資本の参入や資本投下による開局に支えられていた。しかしこの動きもほぼ終息されてきたが、今後は、既存CATV局の隣接エリア拡大がCATVの普及の大きな要因となってきた。
 つまり、日本においてもCATV事業が定着してきた兆しと見て良い。一般的に20%の普及を超えると、一気に普及するといわれている。
 CATVもここ数年間で20%の普及率に達成できると見て良い。このことから、将来的には大幅な普及が期待できる。(次号へつづく)

(システム応用研究部 遠山  廣)
e-mail:tohyama@icr.co.jp

(入稿:1997.10)

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