トレンド情報-シリーズ[1997年]


[第2回] 業界再編成の鍵は、通信業界

(1997.11)

 CATV局の多くは、当初MSOなど大規模事業者への合併などにより業界再編成の大きな波に巻き込まれると見られていた。一部の経営の破綻した局では、経営権の譲渡や投資を受けて系列化されたが、大幅な業界再編はおきなかった。多くのCATV局が第三セクターであったことと大資本が大都市やその周辺地域のCATV空白地域でのCATV局の新設に力を注いだことが大きな要因である。しかし、CATV網の広域化や通信利用を考えると業界再編は、避けてとおることのできない課題といっても良い。
1)CATV業界の課題
 CATV業界の課題としては、
  1. 経営の効率化と低コスト経営
  2. エリア広域化
  3. 多チャンネル化の対応
  4. HFC化とデジタル化の対応
などである。また、各CATV局が期待している新たな提供サービスとして
  1. インターネット接続・高速データ伝送などの通信サービスの展開
  2. 各種情報提供サービス
である。これらを個々のCATV局で実施するには、現行の小規模エリアや少ない加入世帯数では新たな事業化を目指しても採算性や市場性の面から事業化は不可能である。さらに、赤字経営のため設備の再投資にも余裕がないのが現状である。

2)CATV局のパターンと業界再編のターゲット
 現状のCATV局の動向を大別すると、次の4つのパターンに分類できる。
  1. 通信事業など新たな事業分野への展開を模索する局
    大資本の系列のCATV局やMSO傘下のCATV局と経営規模が比較的大きく赤字経営から黒字経営へと転換したCATV局と今後開局を予定している局である。(MSO、製造メーカー、通信事業者などの系列の会社)
  2. 経営規模の拡大や広域エリア化を目指している局
    経営基盤の安定や経営規模拡大のため、周辺市町村へエリア拡大を進めることにより、加入契約数を増加させ、急速に大規模化している局(地方の中都市地域でCATV放送をメインに、加入数を順調に伸ばしている)である。
  3. サービスエリア内の情報ネットワークとして充実を図る局
    地域コミュニティネットワークとしてCATVを実施している局で、第三セクターの内自治体出資の大きいCATV会社やMIPSの局など比較的小規模であるがエリア内普及率の高い局である。
  4. 事業開始後、経営の悪化により現状維持にとどまっている局
    地元資本を中心に経営規模が小さく、加入拡大も芳しくなくかつエリア拡大も積極的でないが、現状の設備の中で努力している局である。
 再編でターゲットと見られる局は、4番目の局とは限らない。CATV業界の再編成としては、広域エリア化や通信サービスを引き金とした再編成であれば、面的拡大や通信サービスにメリットのある局がターゲットになる。

3)系列化の動き
 CATV法の改正や大資本や異業種の参入、系列化などの動きやデジタル化、多チャンネル化さらには情報通信への新たな事業への展開など大きな転換期になっている。
系列化の動きとしては、次の4つの動きが活発である。
  1. MSOの系列化
    全国の大都市およびその周辺地域に積極的に資本投資し、新設局を中心に全国展開している。一部には、経営悪化した既存CATV局のてこ入れや経営権譲渡などで系列化を推し進めている。
  2. 製造機器メーカーがCATV局の運営による系列化
    CATV会社への株主に、製造機器メーカーがなる例は多い。しかし、富士通は、いわば日本版MSOとして、CATV事業経営に積極的に参加している。新設局を中心に系列化が進んでいる。 前者の事例としては、松下電器産業やNECも積極的にCATV局への投資を続けている。
  3. 通信事業者の系列化
    日本テレコムは、JRの電波障害対策エリアを持っており、CATV事業へのノウハウは当然持っていた。さらには通信事業を始めたことからローカルアクセス網として総合通信サービスの提供を目指しており、積極的にCATV局への投資をしている。傘下のCATV局は、いずれもインターネット接続など通信への事業化に向けて動き始めている。 KDDや電力系NCCもそれぞれの思惑で動き始めている。特に電力系では、関西や四国において、各種広域実験や各種双方向サービス実験を地元CATV事業者を結集する形で推進している。 ローカルアクセス網としてCATV網を利用して、顧客抱え込みやインターネット接続のための高速データ回線への接続やCATV局間接続による広域エリア化など通信事業者とCATV局とつながりは一層拍車がかかることが予想される。
  4. 異業種大資本の系列化
    自動車会社のトヨタグループやLPガス会社のTOKAI、総合警備のセコムなどそれぞれの戦略を持ちCATV事業に参画している。特にトヨタは愛知県内でCATV局のグループ化を進めている。

4)CATV局の広域化とCATV局相互の連携
 大資本や通信事業者を背景とした系列化のほか、CATV事業者による広域化や連携が進んでいる。
 1都市1事業者の規制緩和により、既存CATV事業者の隣接市町村へのエリア拡大が容易に可能となってきた。このことにより、CATV局の大規模エリア化に拍車がかかり、従来経営的に困難と思われてきた隣接市町村地域へもCATV事業が広がってきている。
 通信事業への展開を模索する局の中には、CATV局同士が連携をとりCATV網の広域化を目指している局が出てきた。従来、CATV広告など連携を図った業務を行っていたが、CATV網の広域ネットワーク化やMSOの系列化の不安などからCATV局が協力して各種事業を進めるといったいわば日本的な取り組みが行われ始めている。更に、複数事業者のセンター共同利用などが規制緩和すれば更に広域化や連携の動きが活発化するものと考えられる。

5)インターネットや電話事業など新たな事業展開が、より通信業界に密着
 経営状況の良いCATV会社やエリア内の普及率が高い局にとっては、エリア拡大のほか、通信事業などへの事業展開が大きな経営戦略となっている。
 双方向サービスの事業化を展望すると、広域エリアと多くの普及数が必要となると同時に、通信技術やコンピュータ技術のノウハウが必要となってくる。
 このため最新の技術や機器の導入さらには通信ネットワークとの接続など、機器メーカーや通信事業者との連携がより密接になってきた。 アメリカでは、全米1位と2位CATV会社TCIとTWの業務連携やインターラクティブ放送ためのマイクロソフト社の資金支援、地域統合サービスとして電力会社の通信から放送まで一体的に行うエリア網の事業化、さらには無線CATVによる双方向多チャンネルCATV(MMDS)への本格的サービスへの参入など大きな変化が起きようとしている。
 更に、日本においては通信事業への外国資本の規制緩和が行われたため、地域通信事業にも積極的に海外キャリアが参入することが予想できる。また、日本の通信事業者も、加入者抱え込みやトラヒックの抱え込みのためCATV網と接続し、エンドツーエンドの通信のトータルサービスを目指している。

6)通信業界の再編成が、鍵
 従来の業界再編は、CATV事業経営の効率化や大規模化がキーワードと考えられてきた。特に、米国に象徴されるM&A(企業買収)が思い起こされる。しかし、第三セクターが多くかつM&Aに対し嫌悪感のある日本ではうまく機能しなかった。
 しかし、CATV電話サービスやインターネット接続サービスなどCATV網を通信サービス利用ないしはアクセス網として活用する動きが出てきた。CATV事業は、通信と放送の融合の最前線にいる業界と見て良い。
 一方、通信業界は、大きな業界再編成の中に突入したところである。このため、CATV業界の再編成は、従来型の大規模化による系列化でなく、通信事業の再編成の動きに連動したものになると見て良い。
 現在でも、日本テレコム、電力系NCC、KDDなどがCATV事業への積極的に参加している。さらに、NTTの分離分割後の長距離会社のCATV事業への参入が可能となっている。
 CATV網は、NTT網以外では最大の市内アクセス網のため、通信事業者の戦略によっては、業界再編が加速することも考えられる。CATVの通信サービスの事業化やエリア拡大が進むほど、通信業界の再編の大波が、CATV事業にも大きな影響を与えることは間違いない。すでに、インターネット接続サービスにも通信事業者の影がちらついている。
通信と放送の融合は、単にサービスの融合のみならず、通信業界とCATV業界の統合や系列化など業界再編成の大きな鍵を握っている。

(システム応用研究部 遠山  廣)
e-mail:tohyama@icr.co.jp

(入稿:1997.10)

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