トレンド情報-シリーズ[1997年]


[第3回] CATVのデジタル化を予測する

(1997.12)

 CATVについては、デジタル化の技術基準が決まるなど、CSのデジタル多チャンネル放送の開始とともにデジタル化の気運が盛り上がりを見せており、放送のデジタル化が一気に加速する見通しとなってきた。
1.デジタル化の及ぼす影響
 TVの高画質、多チャンネル化、多機能化、放送と通信の融合などデジタル化による恩恵は多くある。放送の多チャンネル化は、当然、番組コンテンツの充実と有料チャンネル視聴普及がキーポイントとなる。
 現在、放送開始したCSデジタル衛星放送はコンテンツの課題と受信機の課題を抱えており、予想を下回る契約数(8月末で39万加入)しか普及できていない。
 ディレクTVの事業開始に伴い、衛星デジタル放送事業者同士の生き残りをかけたし烈な競争が始まることになる。この競争が、多チャンネル化の定着やペイパービューの普及に大きく寄与することとなれば、CATVも多チャンネル化で対抗することとなる。
 既存アナログ方式のCATVでは、40〜100CH程度しか実現できない。150-160CHなど多チャンネル化対応のためにはデジタル化が必要となってくる。しかし、多チャンネル化対応のみのデジタル化では、設備投資大きくCATV事業に大きな負担がかかる事となり、積極的な動きにはならない。

2.衛星デジタル放送は、脅威か
 衛星デジタル放送は、CATV放送にとって競争相手であり、CATV視聴者が雪崩を打って衛星デジタル多チャンネルへ移行するのではないかとの不安もあり、大きな脅威と映っていた。しかし、サービス開始後の衛星デジタル放送の普及状況や番組内容などから、ほとんど影響が出ていない。
 ディレクTVの12月開局と年末商戦で、加入数の急増が期待されている。パーフェクTVでは、今年度末100万加入を目指しており、ディレクTVも早期に100加入達成を目標にしている。
 衛星放送は、ペイーパービュー放送や各種の専門チャンネルなど個人の嗜好にあわせた多チャンネルを放送し、全国から広く視聴者を集めることにより普及する事業と見て良い。一方、CATVはいわばエリア放送であり、エリア内の普及が課題である。   このため、衛星デジタル放送は、地上波TVやCATV放送に取り変わるものでなく、地上波やCATV視聴を補完する放送と見るのが妥当ではないか。
英国のBSKYBでは、直接受信のほかCATV経由での受信に力を入れている。つまり、CATVと衛星放送の連携である。

図表

英国BSKYBの加入者数(万加入)

Jun-97Jun-96Jun-95Jun-94Jun-93
加入状況5,859 5,0224,163 3,4772,468
DTH加入者数3,5323,2472,893 2,5411,861
CATV加入者数2,3271,7751,270 936607
CATV占める比率40%35%31% 27%25%

 衛星デジタル放送の普及が、番組コンテンツの充実や有料放送の浸透などをもたらすこととなれば、CATV事業の更なる発展にも大きく貢献すると期待できる。

3.日本のCATVデジタル化の動き
 衛星デジタル放送や地上波のデジタル化など放送業界では一気にデジタル化の波が押し寄せている。将来のデジタル化については、異論のない所であるが、地上波やCATV業界にとっても莫大な設備投資が必要となるため、動きは鈍いと見てよい。
(1)デジタル化の動き
CATVのデジタル化は、郵政省の技術審議会で一定の答申を出し、デジタルCATVシステムの試作は各メーカで進んでいるが、商用化はまだである。さらには、ホームターミナルとしてセットトップボックスの開発が始まった段階であり、その中身も衛星デジタル放送受信機を少し改良したものがベースになる方向である。  CATVのデジタル化は、多チャンネル化時代に如何に対応するかが鍵を握ることとなる。現状では、杉並ケーブルテレビや鹿児島有線テレビがデジタル化の意向を示している。
(2)デジタル化は必要か
CATVにとってのデジタル化は、
  1. 視聴者が100から200チャンネルの放送番組から自由に選択できることにメリットを求める時
  2. CATV網の双方向通信(情報提供も含む)が十分利用される時
  3. TV受信機がデジタル対応となる時
が必要な時期と言える。
 CATVのデジタル化は、多チャンネルの普及や地上波のデジタル化や受信機のデジタル化などの動向によって自ずと決まってくる。

4.CATV事業転換の糸口
 現在のCATV網はアナログ方式であることから、チャンネル数に限度があることと各種情報提供サービスや通信サービスを行う場合に、上り周波数の課題がある。さらには、ホームターミナルについては、デジタル化や衛星放送受信機との標準化さらにはモデム内蔵のセットトップボックスなど更に技術革新がなされてくる。
 このためにも、早期にデジタル化対応が急がれることとなった。
 デジタル化を行う場合にも、多チャンネル化対応のみを目指すには、センター設備やCATV基幹網の光化(HFC化)で対応できることから、CATV網の大幅な更改は必要がない。しかし、放送と通信の融合を考えた高速広帯域アクセス網としてCATV網を考えた場合、家庭内引き込みが同軸ケーブルのままでは、家庭内に各種の配線が混在すると同時に、放送はホームターミナル、インターネット接続はCATVモデム、電話は電話モデムといった別々のインターフェイスをあわせる装置が必要となり、家庭内のインテリジェント化から見て大きな弊害となる。
 放送と通信の融合したサービスを提供するためには、多様化するサービスや各種機器により柔軟性があるかが決め手となるのではないか。 更に、光ファイバー敷設の2005年前倒しやxDSL技術の進展など、高速データ通信やマルティメディアをにらんだアクセス網の競争が目の前である。
 CATV事業が、地域情報ネットワークの中核として期待されていることやアクセス網として活用が期待されていることから、将来を見据えた対応が急がれる。

5.デジタル化で、将来の事業発展を
 放送業界の競争は、放送事業者間の視聴率競争や広告宣伝費用の獲得競争であった。しかし、デジタル化や多チャンネル化の動きで、製造 メーカーや番組提供事業に新たに参入する事業者を巻き込んだ大競争時代を予感させるものである。
CATVのデジタル化のためには、衛星デジタル放送と同等の多チャンネル化や情報提供サービス(通信サービスも含む)さらにVODの実施等新たな事業展開が必要である。
 米国では、CATV網を利用したインターネット接続や160chを超える放送のためのセットトップボックスの導入が、先行しているエリアで推進されている。また、地域電話会社の電話回線利用のxDSLによる高速データ伝送サービスとの競争に打ち勝つため、CATVの多チャンネル化と高速データ伝送サービス、通信サービスに力を入れいる。このためデジタル化が一気に進んでくると予測できる。
 現在の放送のデジタル化の騒動は、海外のデジタル化の動きに遅れないためのほか多チャンネル放送の普及を前提にした議論と見て良い。CATVを含めたデジタル化の動きが、郵政省、製造メーカー、衛星デジタル放送関係する事業者のそれぞれの思惑にのみ終わるの恐れはある。
 CATV網を、地域の統合サービスアクセス網として位置づけ、早期にデジタル化を推進する必要がある。CATV事業が、FTTH時代にも大きく発展するためには、デジタル化を行い、各種サービスを充実することが、将来のCATV事業発展のための課題であることに間違いはない。

(システム応用研究部 遠山  廣)
e-mail:tohyama@icr.co.jp

(入稿:1997.12)

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