トレンド情報-シリーズ[1997年]


[第4回] CATV電話とインターネット接続サービスは、
CATV事業の本命か

(1997.12)

 現在CATV業界の関心の多くは、CATV網の通信サービス利用としてのCATV電話サービスとインターネット接続サービスである。いずれも先行した事業者で商用化されている。これらのサービスは、従来の放送を中心としたCATV事業が、新たな事業拡大の本命になる事を期待されている。
1.インターネット接続サービスは、CATV事業の本命か
 多くのCATV事業者では、インターネット接続サービスの事業化の意向は強く、新たな事業展開として期待を膨らませている。
(1)CATV局のインターネット接続サービスの動向
全国で始めて事業化したのが武蔵野三鷹ケーブルテレビであった。97年3月末でインターネット接続サービスを事業化したCATV局は2局、事業化を明らかにCATV局が7局となっている。第1種電気通信事業者の許可を得たCATV事業者は、7月末までに23社となり、そのうちインターネット接続サービスを実施するのは11社と急増している。更にCATV網利用のインターネット接続での実験や事業化の熱が全国に広がっていることから、今後続々とインターネット接続サービス開始局が急増してくる。武蔵野三鷹では、加入数は、住宅が約1600加入と企業7加入と順調に増加している。

(2)インターネット接続サービスの期待と事業化のポイント
インターネット接続サービスへの期待高まる理由して、
  1. 初期投資が比較的安価。
  2. 郵政省や自治体のインターネット接続利用の支援
  3. CATV網の特徴の利用
  4. インターネット接続の急激な増加
などを挙げることができる。

更に、事業化にあっては、

  1. 放送視聴者以外の顧客も対象
  2. 企業や特定顧客を対象
  3. 専用線サービスやイントラネットも実施
  4. 通信事業者などの技術や資本さらにはサポート体制を活用
などサービスの多様化とターゲットの絞り込みが必要となる。

(3)インターネットプロバイダー事業で良いか
 インターネット接続サービスは、CATV事業者にとってサービスメニューの多様化や双方向通信機能の活用、通信事業への展開との観点からは有望なものである。
 現在、インターネットプロバイダー事業には、多くの企業の事業参入が続き、価格低減競争が始まっている。大部分の事業者が赤字であり、業界の再編目前と見て良い。この様な状況のもとで、CATVのプロバイダー事業は、限定されたエリアのプロバイダー事業では、将来性の点では課題が残ることとなる。しかし、現状でのサービスは、2次プロバイダーとしての事業化が多いことから、大手プロバイダーや通信事業者のための顧客抱え込みの要素も否定できない。
 CATV事業者にとって、インターネット接続サービスをプロバイダー事業としての事業化を目指すのでなく、インターネット接続サービスを利用した各種情報提供サービスを行うことが真のCATV網利用といえる。

(4)情報提供サービスが本命
 CATVの情報提供サービスは、自主放送番組の中で、各種地域情報を番組として流すことにより、地域密着型の情報ネットワークとして機能してきた。インターネット接続や高速データ伝送を活用した情報提供型サービスへの展開が具体化してきた。
 CATVでも、インターネット接続サービスを利用した各種情報の提供や衛星放送とドッキングしたインターネット接続さらには静止画像情報サービスなど付加価値サービスへと進んできている。
 米国のMSOが、ケーブルモデムを利用したインターネット接続や各種情報提供サービスに力を注いでいる。ある予測では、2002年にはCATV加入世帯の300万世帯がインターネット接続を行うとの予測もある。更に、ケーブルモデムの商用利用も大きく進んでおり、今年末には11万台を超える見通しである。CATV事業が、放送中心から情報サービスへと大きく転換しようとしていると見て良い。
 CATV事業にとって、各地域の情報提供のみからインターネット接続サービスを活用して、エリアを超えた多種多様な情報を提供することが、CATV網利用の本命と言っても過言でない。

2.CATV電話サービスの普及を探る
 今年の6月、7月に千葉県柏市と東京都杉並区で、CATV網を利用した電話サービスが始まった。開始間もないことから、CATV電話の普及を予測するのではなく、「東京電話」の影響や普及促進のための課題などを検討する。

(1)CATV電話の現状を探る
 日本で始めて、CATV網を利用した全国接続したCATV電話サービスがタイタスコミュニケーションズ(柏市)とジュピターテレコム(杉並区)でサービス開始した。NTTの電話料金より15%から20%程度安い料金を設定している。
 タイタスコミュニケーションズやジュピターテレコムでは、傘下の新設局を中心に5ケ所に交換機を設置し、サービスエリアを拡大しようとしている。
 ジュピターテレコムの親会社のTCIでは、東京近郊の傘下のCATVで新設局を中心に電話サービスを展開するとしている。電話サービス加入は、提供可能エリア内で世帯数の20%程度が普及すると見ており、大きな期待をしている。9月現在では、電話可能世帯数6000、加入数は1450加入となっている。電話可能エリア拡大のため、周辺区への電話加入可能エリアの拡大を発表した。
 また、タイタスコミュニケーションズでは、CATV電話サービスメニューの多様化のため、携帯電話接続サービスや特番利用サービス(NTT番号案内やフリーダイヤル)など開始した。当初柏市の一部エリア2000世帯を加入エリアとしてサービス開始したが、その後柏市全域を電話可能エリアと見直しをしている。
 98年7月には相模原市、西東京(小平市、田無市、保谷市、東久留米市)99年には前橋市や伊勢崎市でも電話サービスを開始の予定である。

(2)英国のCATV電話の動向
 CATV電話の先行国英国では、97年7月末には、CATV電話が247万加入を突破し、CATV放送契約数を超えている。月間平均純増数が7万を超えて、さらに増加が見込まれている。
 英国で成功した理由には、
  • 市内電話料金に比べ、アクセス料金が非常に安い。
  • BTの電話サービス品質が、あまり良くなかった。
  • 海外の通信事業者の参入しやすい条件を整備した。
事などが考えられる。
 2005年には英国の75%の世帯が加入可能となる。当面は、エリア拡大のための設備投資が当分続く予定である。
 このことから、現在115事業者で行われているCATV電話事業が、資本力のある大手CATV電話会社や通信事業者の系列化や再編が一層加速されている。
 英国の事業者の多くは、CATV放送事業も行う通信事業者へと大きく転換していると見て良い。

(3)CATV電話の試練
 先行したCATV電話サービスにとっての試練として、 関東地域では、「東京電話」が低料金で本格的な電話サービスを開始する。 携帯電話やPHSが、急激な伸びで普及している。特にPHSは、既存エリアでの伸びがとまったため、 中小都市地区にもエリア拡大が予想される、インターネット電話の成長が見込まれる、など、競争が一層し烈になってくる。

 このため、単にNTTとの料金比較のみでかつ小規模エリアでのネットワークでは、競争には生き残れない。MSO傘下のCATV局は、CATV空白地域の中で需要の多い近郊都市を飛び飛びに選んで開局をしている。CATV放送を中心に考えたエリアの選定であり、面的広がりが必要な電話事業を中心に考えた選定になっていない。
 先月まで、話題となっていたCATV電話が、ようやく立ち上がろうとしている。タイタスコミュニケーションズでは、電話サービス普及のための営業力の強化を図り、いよいよ本格的にCATV電話の普及に取り掛かろうとしている中、衝撃的なニュースが入ってきた。東京通信ネットワークの割安電話サービスの認可申請である。

(4)「東京電話」の影響を考える
 8月11日、東京通信ネットワークが、自社のネットワークとNTTの市内交換機接続により中継電話サービスの認可申請をした。従来、専用線サービスと直接加入者線を敷設して電話サービスを提供していた。この電話サービスの主なユーザーとしては、電力会社関係の企業が主なユーザであったため、サービスも限定されていた。今回は、市内交換機より上位の中継区間でのいわば中・長距離通信事業といえる。営業エリアは、関東一円、山梨県、静岡県の一部であるが、いずれの事業者よりも割安の料金設定であり、事業の採算性を無視した料金との声が聞こえるほどである。

 他の長距離事業者にとっても、衝撃的な価格であり、LCR付電話の対応に苦慮することとなる。
 このため、東京電話のサービス開始までに、各通信事業者の追随値下げがおきることは、必死である。
 東京電話との競争を考えると、CATV電話は、非常に狭い加入エリアでありかつ現状の料金設定では、十分対抗できるとは思われない。CATV電話サービスは、事業化したとたんに通信事業の本格競争の大波をかぶることとなった。
 今までの電話サービスは、管理された競争であったが、今回の東京電話のサービスは、新の自由競争を呼び起こすこととなった。まさに、CATV電話サービスの出鼻をくじく一撃になることが想定される。CATV電話と比較して市内アクセス網構築が必要ないため、非常に低コストの電話サービスとなっている。
 今後、東京電話に対してCATV電話が取りうる戦略として、

  1. CATV電話事業からの撤退
  2. 料金の追随値下げ
  3. TTNetと同様の形態で電話サービス事業に参入
  4. 他の通信事業者と連携して対抗
  5. TTNetのアクセス網としてCATV電話サービスを行う。
などが考えられる。,p>  当然、2.を行うこととなるが、この場合、通信事業者の価格競争に巻き込まれることとなり、事業拡大の展望が描けなくなる恐れがある。  したがって、CATV事業の特徴を生かし、有線TV放送、インターネット接続、電話サービス、情報提供といったトータル情報通信サービスで対抗していくことがもっとも有効な手段である。

 放送視聴はいくら、電話はいくらと言った個別サービスでの競争でなく、統合サービスとして事業採算性を考えていくこととなる。いってみれば、放送と通信のCATV版ワンストップショッピングが必要である。
 1.のケースは、最悪のシナリオであり、実質的もこのケースは避けなければ、CATVの将来とってに大きな汚点を残すこととなる。つまり、CATV網の放送以外の事業は、競争に勝てないことを示すこととなり、元の有線TV放送に戻ってしまうことになりかねない。
 3.、4.、5.のケースの場合は、通信事業に本格的に参入することとが前提であり、CATV電話は、通信サービスのメニューの一つでしかなくなる。この場合には、連携する通信事業者によって自ずとパターンは決まってくる。
 したがって、タイタスやジュピターのここ1年間のCATV電話への取り組みに注目したい。

(5)CATV電話の普及は、広域化と統合サービスが必要
 今までは、既存の電話との比較で議論してきたが、結果として、CATV電話の苦しさを強調する事となった。
 CATV電話が普及するために、既存電話と同じサービス競争でなく、CATV網の特徴を生かしたサービスを展開する必要がある。
 一つは、CATV網間を接続した広域エリアネットワーク化が課題である。この広域エリアとは、ポイントツーポイントのエリア間を接続するものでなく、加入者の電話の接続対地を意識した周辺エリアを含む広域化が必要である。
 CATV会社が、広域ネットワークのために、既存の系列や出資関係を超えて大同団結ができるかどうかが大きな鍵を握ることとなる。たとえば、関東エリアのCATV局がすべて局間接続をするとなれば、NTT網に対抗できるネットワークとなり、各種の通信サービス提供が容易に事業化できることとなる。

 広域化をすれば、域内通話は、相当低料金(固定料金制の導入も可能)で利用者に大きなメリットが出てくる。
 次に、他の通信事業者とのアナログ電話での競争を行うのでなく、インターネット接続サービスや高速データ伝送サービスなど統合した通信サービスを行うことにより、CATV網の高速・広帯域の特徴を発揮できることとなる。この事により電話回線ではできなかった各種サービスが可能となり、いわばマルティメディアサービスの先取りが可能である。この事により、CATV電話の普及にも大きく貢献することが期待できる。

(システム応用研究部 遠山  廣)
e-mail:tohyama@icr.co.jp

(入稿:1997.12)

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