3.連邦最高裁判決
連邦最高裁は、さる6月26日、通信品位法の「下品な伝送」及び「明らかに不快な表示」についての条項は、第1修正によって保護される言論の自由を奪うものであると判断し、連邦地裁判決を支持した。判決の要旨は、以下のとおりである。
(1)過去の判例と通信品位法の合憲性
政府側は、本件訴訟と類似性のある過去の三つの判例を拠りどころとして通信品位法の合憲性を主張したが、本判決は悉くこれを退けている。
<ギンズバーグ対ニューヨーク事件(Ginsberg v. New York, 390 U.S. 629(1968))>
本件訴訟において連邦最高裁は、成人にとっては猥褻とは言えなくても17歳未満の未成年者にとっては猥褻であると思われるマテリアルの販売を禁じたニューヨーク州法が合憲であると認めている。このニューヨーク州法の場合は、以下の4点において通信品位法より限定的である。まず第1に、ギンズバーグ事件では、未成年者には猥褻物の販売を禁止しているものの、自らの子供たちに雑誌を買い与えたい親にまで販売を禁止しているわけではない。しかるに通信品位法においては、親の同意等についてはふれられていない。第2に、ニューヨーク州法は、商業的取引に限って適用されるのに対して、通信品位法ではそのような制限はない。第3に、ニューヨーク州法は、「未成年者に有害なマテリアル」の定義に、未成年者にとって埋め合わせとなるような社会的重要性の欠落を盛り込んでいる。これに対して通信品位法は、同法第223条(a)(1)で使われている「下品」という言葉の定義を明らかにしていないし、第223条(d)における「明らかに不快な」情報の定義に、真面目な文学的、芸術的、政治的、科学的価値の欠落を盛り込むことを怠っている。第4に、ニューヨーク州法は、未成年者を17歳未満と定義しているのに対し、通信品位法では、18歳未満のすべての者としていて、成人に最も近い人々を含めている。
<FCC対パシフィカ財団事件(FCC v. Pacifica Foundation, 438 U.S. 726(1978))>
本件は、子供がオーディエンスとなりうる午後の時間帯に放送された、「下品な」言葉を反復的に使うラジオ番組に対するFCC(連邦通信委員会)の規制が合憲であると判断された事件である。この場合も通信品位法との重大な相違が存在する。まず第1に、通信品位法の広範な無条件の禁止は、特定の時間に限定されていないし、ラジオ局に対するFCCの関係に匹敵するような、インターネットと関連の深い機関の評価によるものでもない。第2に、通信品位法とは違って、FCCの規制は刑罰を伴わない。第3に、FCCの規制は、聴取者が予期せぬ番組内容に遭遇する可能性があるために、歴史的に最も限定的な第1修正による保護を受けてきたラジオというメディアに対して適用されたものであるが、インターネットにはそれに匹敵する歴史がない。連邦地裁判決もふれているように、インターネット上で偶然に下品な情報に遭遇する危険性は、かなり少ない。なぜなら特定のマテリアルにアクセスするためには、一連の能動的な手順を踏むことが必要となるからである。
<レントン対プレイタイム・シアター事件(Renton v. Playtime Theatres, Inc., 475 U.S. 41(1986) )>
これは連邦最高裁が、住宅区域内における成人映画上映館の営業を禁止したゾーニング条例を合憲と判断した事件である。この条例の標的は、映画館で上映されるフィルムの内容ではなく、こうした映画館が助長してきた犯罪及び財産価値の低下といった二次的影響である。政府によれば、通信品位法はインターネット上にいわば「サイバー・ゾーニング」を構成するために合憲であるという。しかし、通信品位法は、サイバースペースの世界全体に適用されるのである。そして通信品位法の目的は、「下品な」及び「明らかに不快な」表現の二次的影響ではなく、そうした表現の一次的影響から子供たちを守ることにある。それ故に通信品位法は、言論に対する内容ベースの包括的規制であり、時間、場所、方法による規制形式としては検討され得ない。
以上のように、これら3つの判例は連邦最高裁の裁判官をして通信品位法の合憲性を支持せしめるには至らなかった。
(2)放送メディア規制との関連
過去の連邦最高裁判例においては、放送メディアに対する規制の特別な正当化がみられる。例えば、レッドライオン事件では、政府の広範な放送メディア規制の歴史が連邦最高裁の拠りどころとなっている。同様にTBS事件(Turner Broadcasting System, Inc. v. FCC, 512 U.S. 622(1994))では、周波数の希少性、セーブル事件(Sable Communications of Cal., Inc. v. FCC, 492 U.S. 115,128(1989))では侵略的な特性が、それぞれ放送メディア規制の根拠となっている。しかし、こうした要因はサイバースペースには存在しない。したがって、こうした判例は、インターネットというメディアに適用されるべき合憲性審査基準を提供するものではない。
(3)通信品位法の不明瞭性
通信品位法が漠然としているために第5修正違反であるか否かにかかわらず、同法の適用範囲に関する多くの不明瞭性は、第1修正に関連する疑問につながる。例えば、「下品な」及び「明らかに不快な」という定義されていない言葉は、情報発信者の間に、これら二つの基準はいかに相互に関係しているのか、あるいはこれらは何を意味するのかという疑問を引き起こすであろう。したがって、通信品位法の適用範囲の曖昧さは、憲法上保護されるメッセージを発信しようとする者までも間違いなく沈黙させてしまうことになる。こうした危険性は、法規が過度の広範性をもつべきではないという主張の裏付けとなるのである。
(4)成人に対する言論の保障
未成年者が潜在的に有害な情報にアクセスすることを防ぐために、通信品位法は結果的に、成人が送受信する憲法上の権利を有する大量の情報を規制することになる。連邦最高裁はすでに、ギンズバーグ事件やパシフィカ事件において、有害情報から子供たちを守るという政府の利益を繰り返し認めてきた。しかし、かかる利益は、成人向け言論に対する不必要に広範な抑圧を正当化するものではない。
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