トレンド情報-シリーズ[1997年] |
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(1997.6)
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中国のホンコンテレコム出資で合意との発表は、見返りとしてのC&W中国市場進出条件の推測を呼んでいるが、C&W戦略の狙いは可能な限りでホンコンテレコムの利害関係を維持し、他の地域におけるM&Aを有利に取り運ぶことにあるのではないか。
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1.ホンコンテレコムの株式5.5%を中国へ売却 97年6月6日にC&Wは「チャイナテレコム が、まずホンコンテレコム(注1)の株式5.5%を9170百万香港ドル(約12億米ドル)で取得し、次に98年4月(暫定目標)に持株比率を30%に引き上げ、C&W持株比率もこれと同等にすることで中国郵電部と合意した」と発表した。 C&Wは現在のホンコンテレコム最大株主(59%)の地位を下りるわけで、将来各30%で同等と言っても、現在の第二位株主は中国政府系のCITICパシフィック(注2)(7.7%)で、97年5月に光大実業(注3)に買収されているので、今回の5.5%を加えると13.2%となり、合意された役員1名の派遣と併せて中国系がホンコンテレコムの主導権を握ることになる。 その見返りはC&Wの中国進出で、最近設立された香港法人チャイナテレコム(香港)が将来香港証券取引所に上場された時、C&Wがその20~25%を出資する、またチャイナテレコム(香港)の中国本土投資は伝送網の構築ないし移動通信分野と推測されている。 中国政府は93年に「中国では外資による通信網の所有と運営を今後とも禁止し、国家独占を継続する」と宣言。95年の『経営開放に関する電気通信サービス市場暫定管理規定』で、通信の運用に外資は参加できないと規定する一方、通信設備・ネットワークの建設に積極的に外資を導入してきた。外資を含むチャイナテレコム(香港)の本土事業が如何にして可能か注目される。
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2.C&Wグループ及びホンコンテレコムの業績 C&Wグループが発表した1997年3月期決算は、下表のとおりである。
リチャードH.ブラウン社長(CEO)は、総収入が初めて70億ポンド(116.8億米ドル)を超えたし、営業利益率は24%から25%に改善したと述べた。
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3.香港返還とC&Wグループ 1984年当時英国の外務大臣として返還交渉にあたり中英共同宣言の当事者だったジェフリー・ハウ卿は、「香港返還はリレー競争みたないなものだが、手渡すのはバトンでなく明朝の壷だ」と言っているそうである。壊れやすい高価な壷に見立てるのは、香港がシンガポールとともに購買力平価ベースの一人あたりGDPで95年に日本を抜き去った繁栄が続く限り、それが磁力となって世界の資本を香港に、そして中国に引き寄せてくるからである。返還に伴う香港人の恐れは、(1)治安の悪化、(2)賄賂の横行、(3)言論の自由の制約と言われるが、“港人港治”の精神によって香港の活性が維持される。 C&Wグループにとってのホンコンテレコムもこれに似ている。出資比率の低下は連結利益に打撃を与えるが、少ない利益もないよりまし、見返りの中国市場進出の可能性が、もちろん実現すればベストだが、可能性が続くだけでも、グループの競争力・資金力維持向上に役立つと考えられる。 中国通信市場は過去4年間年平均成長率50%と言う驚異的なスピードで拡大中で、固定電話加入回線は今や日本の6200万に迫り、向こう3年間に1億7000万回線の増設が計画されている。ページャー加入者数は3000万を突破して世界一の規模となり、セルラー電話も急成長を開始した。その将来に期待してすべてのメガキャリアーが中国戦略を展開しているが、C&Wないしホンコンテレコムは中国とのつきあい方の経験は最も豊富である。中国は今後の高度成長のためにC&Wグループの技術力・経営ノウハウを必要としている。中国側からの別離の動機は乏しいので、現勢力をせいぜい保ちながら、世界のメガキャリアーないしメガキャリアー指向者との提携を有利に進めるのがC&W戦略であろう。 |
(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文) (入稿:1997.6) |
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