トレンド情報-シリーズ[1997年]

[メガコンペティションは今?]
[第4回]AT&Tのグローバル提携戦略について考える

(1997.8)

先に発表されたAT&T-Telecom Italiana-Unisource Partnership合意は、業務提携寄りから合弁路線へAT&Tの国際戦略転換を意味するのか。大規模なグローバル戦略的提携に対する独禁規制の比重も高まってきた。
<AT&T-STET/Telecom Italiana-Unisource提携合意>
 AT&Tとイタリアの国営電話持株会社STET(Societa Finanziaria Telefonicaper Azioni)、オランダ・スイス・スウエーデン既存通信事業者合弁のヨーロッパ通信会社Unisourceは、97年7月2日、ヨーロッパと中南米をカバーする共同国際通信事業で合意したと発表した。
 STETは10月予定の民営化に備え100%子会社のTelecom Italianaと合併(7月18日)し、名称はTelecom Italianaを継承するため、合意の発表文では「STET/ Telecom Italiana」と言う奇妙な名称が使われた。

 合意の要と言うべきTelecom Italianaの民営化も政府の具体案がこれからで、イタリア政府の通信自由化も細部の実施計画に明確さを欠いているため、今回合意は方針にとどまり、きちんとした合併文書の締結は年末の予定である。

 STETグループの移動通信企業Telecom Italia Mobileも含むと、Telecom Italianaは96年売上高241億ドル、世界第4位の大通信企業になることから、米国・イタリア・EU3者の独禁規制もクリアする必要がある。

 Unisourceは、有力パートナーのスペインのテレフォニカが97年4月にBT/MCI組に移ったショックに対応するため、6月初め、先行投資のため不調な96年業績(売上高47億ドル、損失3.75億ドル)を2000年までに改善する、3社の国際卸売り部門をUnisource Carrier Services子会社として吸収するなどの改善計画を発表していた。
 こうした3者3様の取り組みを背景に、今回の共同国際通信事業合意の骨子は、

  1. Telecom Italianaは汎欧ビジネス通信会社AT&T-Unisource Communications Services(AUCS)に参加し、30%まで出資する権利を持つ(AT&Tも30%、Unisource40%)
  2. Telecom ItalianaとAT&Tは、中南米向けに折半出資グローバルサービス合弁事業を2社起し、多国籍企業・大中規模企業・高度ユーザ向けサービスの提供と、地域のキャリアーに対するテレコム・トランスポート・サービス(伝送容量の提供)を行う
  3. 中南米提携は両者の補い合う専門知識、両者とその子会社の地盤に基づくもので、今後の投資を調整するものとする
  4. Telecom Italianaは国内でAUCSを普及し、データサービス子会社Telemedia In'l(TMI)をAT&T-Unisourceに移管する、となっている。

AT&Tの戦略的提携の将来ビジョン
 グローバル戦略的提携に関し、インターメディア誌の小論 ! は刺激的である。
 著者ウィンズベリー編集長はまずテレコミュニケーションズ・ポリシー誌の論文を紹介し、グローバル・アライアンスの目的は[1]生産・販売提携の合理化、[2]重要装置・部品調達の低コスト化、[3]技術共有・共同生産、[4]稀少資源のプール、特に資本調達競争の防止であり、形態は[1]出資を伴わぬ協働、[2]ニュービジネス合弁、[3]現行事業の統合、[4]キャッシュフローに影響しない資産交換の4タイプがあり、問題点として[1]異文化・経営スタイル、[2]パートナーに対する中核的競争力の喪失、[3]経営の自主性低下の三つを挙げる。戦略的連合(strategic alliances)とは、「長期にわたり協力と競争のバランスをとる競争者間の共同事業の技(ART)」との定義を紹介した後、現実はそれほど大げさなものではないとする。

 コンサート(BT/MCI)、グローバル・ワン(DT/FT/Sprint)、ワールド・パートナーズ(AT&T/Unisource)などのグローバル戦略的提携の動機は単純で、国際電話トラフィックが過去10年間平均年率15%で伸び市場規模が4倍になった高度成長の魅力である。多国籍企業の高度なグローバル・シームレス・サービスのニーズよりも、自由化で活発化するVAN事業者・再販売業者・コールバック業者に市場を奪われ、ディジタル化やボーダーレス化が財務的不安定をもたらすとの恐怖、さらには途上国のインフラ構築や先進国の高度化投資に伴う大量の資金需要がもたらす資本不足への「防御」が誘因なのだ。コンサートもグローバル・ワンも、自由化で既存ヨーロッパ市場が荒されるのに対抗する既存独占体の防衛戦略から始まった、ワールド・パートナーズのヨーロッパ勢もそれに誘発されたと言う。

 では、AT&T戦略の核は何か。AT&Tは早くから国際通信戦略を展開してきたが防衛的で、ワールド・パートナーズにしても資本関係は抑え気味できたのを、今回のSTET/Telecom Italiana提携に見るとおり一歩踏み込もうとしている。しかし、AT&Tの最大関心事は目下国内にあり、長距離市場での長期低落傾向を補う市内通信市場進出にあることは、最近流れたSBCコミュニケーションズとの合併交渉に見るとおりである。

 長期の将来ビジョンは、少数の巨大キャリアがグローバル市場を制するといった単純な形ではなく、これまでの地理的細分化電気通信事が21世紀には機能別特化に再編成され、[1]巨大グローバル企業に対応する先端サービス提供高収益事業、[2]低収益だが大規模なグローバル基幹網事業、[3]地域独特の問題を解決する事業、[4]コモディティ化に伴うナショナル・ブランド事業、[5]各種のニッチ事業などになると言うが、AT&Tは今のところどれと絞ることなく、全方位で進んでいるように思われる。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1997.8)

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