トレンド情報-シリーズ[1998年] |
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(1998.5)
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1.はじめにまず、日本開発ERPと海外開発ERPのお話をする前に、日本でいつごろからERPという名称を使いはじめたのか振り返ってみたいと思います。有名なSAPも1995年当時は統合型のパッケージという表現を使っていましたが、本格的に雑誌などでERPという表現が一般的に使われるのは1997年になってからです。ただガートナー・グループだけは、1995年当時からERPという表現をしていました。ERPパッケージ各社の紹介やコンセプトの説明にガートナーは大いに貢献しました。多分ガートナーなしに現在のERPの現状はありえなかったでしょう。ERPパッケージが日本で注目を浴びるようになると海外開発のパッケージだけでなく日本開発のパッケージもERPの名称で注目されるようになりました。現在、日本で100社以上の導入実績のある企業を集めてみると日本開発ERPが海外開発ERPよりも実績があることに驚かされます。今回は、日本開発のERPと海外開発のERPのお話です。
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2.海外開発のERP海外開発のERPで有名なBIG6があります。SAP、Baan、Oracle JDE、SSA、Peopleです。日本でもSAP、Baan,Oracleは比較的有名です。しかし、実績というと表にもあるとおりSAPは8位、SSAは11位、JDEは12位で、Baan,Oracle,Peopleはランク落ちです。ただ、あまり知られていない英国のシステムズ・ユニオンが着実に実績を積上げ2位にいます。また、外資系企業のSSJが6位と頑張っています。SSJについては、外資系ですが開発は日本で行われたという変った点を持っています。もともとDun&Bradstreetのグループで現在はコグニザント・グループに所属しています。 ところで、これまで大きな注目を集め、IT業界のリーダー的存在であるERPやBIG6の実績とはこんなものかと驚かれる方も多いことでしょう。 また、日本企業がこんなに頑張っているのかと改めて気づかれることでしょう。 日本開発のERPに比べて海外開発ERPの実績を見る限り、海外開発ERPは騒ぎ注目するほどではなく、特に現状ではBIG6の実績に見るべきものはありません。むしろ知られていないシステムズ・ユニオンやSSJの実績に注意すべきだと考えます。1位のウッドランドの実績がDOS版を含んでいること、またライブラリーという部品構成のシステムであることを考慮するとモジュール構成のERPとしては、実質上システムズ・ユニオンが1位かもしれません。 海外のERP、特にBIG6が思われているほど実績がないこと、知られない企業が思いのほか頑張っていることがお分かりになったと思います。それでは、なぜBIG6が海外に比べて日本では不振なのでしょうか?
私たちは海外のERPと言えばBIG6だと考えますがそうではありません。 現実に、10000サイト以上の導入実績のあるERPパッケージ企業をリストアップしてみました。40000サイトの実績を持つものだけでもすでに4社あります。10000サイト以上では8社あります。 システムズ・ユニオンは16000サイト、NTTが扱うScalaも14000サイトの実績があります。
BIG6以外の10000サイト以上の実績企業
実績という側面でBIG6を考えると、海外でも日本でも同じようにこんなものかという印象しかありません。BIG6の宣伝やキャンペーンを見て、大企業をユーザーに持ち実績もBIG6が一番などと誤解せず、冷静に状況を見る必要があります。 BIG6のお話はこれくらいにして、海外のERPパッケージ全体について考えた時その導入実績は日本では考えられないほど膨大です。(主に欧米に集中) このことは第一回目でも触れましたが、ソ連の崩壊、東欧の自由化、ユーロ統合、バブル崩壊、金融ビックバンと国家も社会も制度も大変動した中で企業システムも短期間で再構築する必要性に迫られた結果だと考えられます。 国家の資源(National Resource)をどう再構築(Planning)するか、また社会の資源 (Social Resource)をどう再構築(Planning)するかの状況では、企業の資源(Enterprise Resource)も再構築(Planning)する必要があったのでしょう。そう考えるとERPは、まさに歴史的必然性の中から生まれたとも考えられます。
それでは、日本のERPの状況はどうでしょうか? |
3.日本開発のERPについて日本のERPは現在でこそERPと呼んでいますが、業務パッケージと呼んでいたものとあまり変わりません。日本のERPは企業の基幹業務の開発がもっと確実にならないかの工夫の中から生まれました。第一回でもお話したとおり企業の基幹業務は大変苦労多く、危険な開発でした。少しでも確実に、危険の少ない構築方法はないのかと日本企業、特にSIベンダーは考えました。日本のERPは、企業基幹業務の安全な再構築のために開発され、海外ERPの参入によってERPというネーミングをするようになりました。 もともとERPのコンセプトを持っていたわけではなく、たまたまERPが入って来たために便乗したというほうがいいと思います。 もちろん最初からERPを意識したソフトもありましたが、ほとんどは1.2.3.のどれかになります。
それぞれが企業の基幹業務をリプレイスするための方法として開発したのが始まりで海外の企業のように、合併・吸収を繰り返しながら企業基幹業務の再構築という嵐の中で必要とされたソフトではありません。 BPR、ビジネス・プロセスの再構築という過程の方法論としてのERPの位置づけは、パッケージ開発企業の販売の方便としては都合がよかったのかもしれません。 そんな日本のERPですが、最初の導入実績のとおりに着実に実績を積みノウハウを蓄積しています。
今後、本格的なERPが日本で誕生するかもしれません。 ただ、日本開発のERPに問題がないわけではありません。日本と海外の大きな違いは、設計コンセプトの違いにあります。わがまま勝手な日本企業の特殊な個別企業システムを担当してきた日本のSIベンダーが開発・成長させてきた日本のERPと国際標準としての企業システムとは何かというところから出発し成長した海外のERPとでは発想が違います。 海外のERPは、まさに「企業に企業のあり方を問うシステム」なのです。海外のERPをサプライチェーンまでも視野に入れて考えたとき、世界的な企業活動における、企業関係のあり方までERPは提案できます。 「これからの日本企業の基幹業務システムはどうあるべきか」という課題に日本のIT業界の強力な日本企業に対するメッセージとして、日本のERPが登場するにはまだまだ時間が必要なようです。 |
中嶋 隆 (入稿:1998.4) |
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