トレンド情報-シリーズ[1998年]

[IT業界レポ]
[第4回]ERPとSFA、CTIについて

(1998.6)


 今回は、サプライチェーンに続きERPとSFA、CTIについてお話します。
SFAはSales Force Automation、CTIはComputer Telephony Integrationということは、もう皆さんご存知だと思います。ERPは前回のサプライチェーンと同様にその適用業務を基幹業務から周辺業務へとその機能を拡大しています。ERPはERPを中核に各周辺業務のパッケージとの連携・機能拡大を進め、パッケージのモザイクのような連携で企業システム全体をカバーしつつあります。

今回お話するSFAやCTIもERPやサプライチェーンと同様に企業システムの業務部品としての性格を強めつつあるようにも思えます。その共通したコンセプトは企業情報システムが企業で働く社員のためと言うよりは、顧客に対する企業としての対応のためのシステム、つまり企業として株主や顧客にいかにすばやく対応していくかをコンセプトとしたシステムのような気がします。  企業の存続を支えるのは顧客であり、世界的競争の時代にある企業にとっては顧客維持のための顧客満足の追求は以前にも増して重要になりました。この意味においてSFAとCTIは顧客指向の企業活動のためのパッケージシステムであることでは同じ種類のシステムです。したがって、SFAとCTIの両方の機能を持つパッケージも存在します。
SFAは営業部門が中心の攻めのシステムであり、CTIはコールセンターを中心とする顧客サポートの守りの性格を持っています。特にコールセンターは顧客のクレームや様々なサービスを提供するだけでなく、強力な営業支援部隊としても機能します。

 ただ、日本企業において顧客という切り口で情報の一元化ができている企業は少ないと思います。営業部隊は顧客サポート部隊のクレーム履歴を知らなかったり、営業内部での顧客獲得競争があり、営業全体でも顧客情報を一元管理できなかったり、部門ごとの効率評価が厳しくなれば、営業情報の共有化なんて部門優先の組織で可能なのかと考えてしまいます。顧客指向に動く企業全体のことを考えて行動することと自分の実績や部門の実績だけを考え行動することの間に何らかの調整や評価基準が必要なのですが、日本企業の多くは部門別実績に追われ、営業情報や顧客情報の共有化なんてとても無理なのではないかと思ってしまいます。

ERPも日本的商慣習や業界ごとの処理手順なんてものがあり、うまくいかない例も多くあります。SCMも各業界ごとの情報交換手順があり、本来の機能を果たすだけの環境が整うか疑問です。SFAやCTIも同様に日本的組織や部門優先主義が強ければ本来の機能を果たすことは難しいでしょう。

ERPやSCMも同様ですが、SFAやCTIも企業で働く個人や組織にとって道具でしかありません。新しいテクノロジーやコンセプトが企業を救うことはありません。新しい道具を理解し、より有効に使うために自らも変わる企業や組織であればいいのですがそう簡単に昨日までのことを止めてしまうわけにはいきません。ERP同様SFAやCTIも業績評価や顧客貢献度の企業制度が変わらない限りその採用にも限度があると考えます。

 さて、今回のまずSFAですが簡単に言うとセールスプロセス情報の管理・共有化による顧客対応の効率化を目指したシステムです。
 営業マンそれぞれが作成していた提案書、プレゼンテーション資料、見積書など共通する営業資源の共有化による効率向上、また営業マン個々が持つ顧客情報、進捗情報の共有化による顧客対応の一元化などSFAが目指すものは、企業全体としての顧客情報の有効利用です。海外からは、すでに有名なパッケージが日本市場に参入しています。

パッケージ名開発企業販売企業
SiebelSiebel Systems日本シーベルシステムズ
VantiveVantive Corp.三井物産
ClarifyClarify Inc.クラリファイ
Scopus(Siebelに買収)Scopus Technology東洋エンジニアリング
AurumAurum Softwareトランス・コスモス、アシスト
PivotalPivotal Softwareイースト

 SFAを考える時に重要なのは、営業マン個人や部門ではなく企業が顧客とどういう関係を結んでいくかということです。企業と顧客との関係を明確にし、全社で顧客満足の体制を確立できるかどうかであって、これができればSFAというパッケージ自体必要でないかもしれません。まさに、これからの企業存続をかけた顧客対応を企業全体で考え実践するきっかけにSFAがなればそれはそれで意義あることだと思ったりもします。

 道具はどこまでも道具であって、へたな使い方をすると効果より害があるかもしれないのはパッケージシステムでも同じです。

 さて、CTIのお話ですが、CTIはSFAほど簡単ではありません。CTIはこれまでできなかったことを可能にしました。通信とコンピューターの融合です。このことは技術的に言ってもすばらしいことで、CTIはパッケージですが通信とコンピューターにまたがるシステムである点が特殊です。現在インターネット、イントラネットなど通信とコンピューターの融合は進んでいますが、コールセンターでも通信とコンピューターの融合は長年の夢でした。顧客コールセンターのコンピューター端末とPBXやACDのエージェントヘッドセットとの同期はコールセンターにおいて効率の面から言っても重要でした。
 現在、NTTのナンバーディスプレー・サービスの利用によって、電話がかかった段階で顧客画面が表示され、顧客確認ができるシステムが可能になりました。CTIは通信とコンピューターの融合ですから、システムも複雑です。 おおまかに分類してみました。

PBXコールセンター(大規模センター)
  • Server:独自OSまたはUNIX
  • CTIリンク接続はTCP/IP
  • VRUは別ユニット

KTSコールセンター(中規模センター)
  • Server:WindowsNT
  • CTIリンク接続はRS-232C
  • VRUは内臓

Un-PBXコールセンター(小規模センター)
  • Server:WindowsNT
  • PBX,CTIがすべてServerに内臓

 CTIとコールセンター・システムは必ずしも同じではないのですが、考えやすいのでコールセンター・システムを例にお話します。現在のコールセンターは通信販売においては営業の最前線であり、あらゆる企業の顧客サポートセンターとして重要な位置にあります。
 顧客満足度を決定し、リピート顧客となってもらえるかどうかは顧客サポートにかかっています。コールセンターはシステム対応だけでなくエージェントの商品知識、顧客対応教育、人材確保など専門的なオペレーションの知識が必要になります。顧客対応のスクリプト作成に始まる、エージェント教育もかなりの期間が必要です。
 また、顧客センターの情報をマーケティングに連携させる体制やシステムも必要です。
こういったプロフェッショナルなノウハウの集積が必要であるため、顧客センター業務をアウトソーシングする企業も多くあります。数多くのエージェント(日本ではオペレーターと呼ぶようですが)の募集、教育、運営体制の維持は容易ではありません。

 通信システム、コンピューターシステム、センター運営と簡単ではないノウハウの集積がコールセンターであり、それだからコールセンター専用のアウトソーシング企業が存在します。たとえばベルシステム24は社員700名、契約社員7000名の規模でコールセンター業務のアウトソーシング担当しています。
 つまり、顧客センター業務は自社運営かアウトソーシングかの選択でありアウトソーシングすれば、営業部隊の情報と連携した(SFA)顧客サービスが難しくなり、自社運営すれば営業部隊との連携は容易ですが、センター運営に様々な専門家が必要になってきます。
どちらを選んでも難しい選択です。

 私が注目する企業の顧客との関係の位置付けの必要性とは、企業の論理よりも優先すべき顧客サービスのための企業の覚悟のことであり、企業の顧客に対する基本姿勢なのです。

 企業が顧客と新しい関係を構築するための必要なこととは何かをもう一度考え直す時期が来ているのかも知れません。難しくコストも時間もかかる顧客センターを自社で構築し顧客との関係を真剣に考えるのか。アウトソーシングして限定したサービスと割り切るのか?企業の選択がここでも重要になってきます。

 日本では顧客センターの電話を受ける人たちをオペレーターと呼ぶようですが、契約社員であったりアルバイトであったり、企業内においてもあまり評価はされていません。エージェントと呼ばれる人々は日本にはいないのかも知れませんが、エージェントは企業を代表して自信を持って、顧客に対応する人たちのことです。顧客センターのオペレーターは企業を代表して顧客対応をするエージェントとしての教育が必要です。アウトソーシングではエージェントとしての業務は現状不可能だと思います。

CTIソリューションの代表的企業


PC-PBXPBX(ACD)CTI-ServerCTI-Soft
Lucent
Northern Telecom
ジェネシス研究所
三井物産
東洋エンジニアリング
NEC
富士通
川鉄情報
丸紅ソリューション
日商岩井インフォコム
クラリファイ

外資系CTIソリューション企業

  • NCRやIBM、Unisys、HP、SUNの他に
  • Lucent Technology
  • GENESYS Telecommunications
  • Brooktrout(日商岩井)
  • DAVOX(丸紅)
  • Information Management Associates(川鉄)
  • Vantive(三井物産)
  • Scopus(東洋エンジニアリング)

    CTIアウトソーシング企業

  • NTTテレマーケティング(NTT)
  • ベルシステム24(CSK)
  • もしもしホットライン(三井物産)
  • テレマーケィング・ジャパン(ベネッセ)

     CTIはSFAと違って、システム技術も運営ノウハウも難しいソリューションです。今後はインターネットやインターネットホンの利用も進み、顧客センターは営業やマーケティングの重要な拠点としての役割を担うことも考えられます。
     ERPが企業内業務の統合を可能にすることで、企業内の部門間の新しい連携関係を可能にし、SCM(サプライチェーン)が製造・物流・販売の企業間の新しい連携関係を可能にし、さらにSFAやCTIが企業と顧客との間の新しい連携関係を可能にします。

     道具だけではなにも変わりませんが、新しい道具を使いこなし、新しい道具がもたらす可能性を私達は生かせると信じたいです。

  • 中嶋 隆

    (入稿:1998.7)

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