トレンド情報-シリーズ[1998年]

[IT業界レポ]
[業務編−第1回]ERPと会計業務(1)

(1998.11)


 今回、ERPをテーマにしたIT業界レポートに引き続き、各企業業務の2000年に向けてのERPに関連する問題点などを取り上げます。第一回はERPと会計業務です。

 ERPについては過去6回レポートしてきましたが、ERPの導入に際して大きな問題点として、日本的業務対応ができていないという指摘がありました。日本的商慣習や業界対応していないという指摘です。当然、各ERPベンダーもERPパッケージの販売のために、ERPソフトウェアの日本語化や日本化に努力しました。

 せっかく一生懸命に、日本化対応したERPパッケージベンダーでしたが、これから数年また新しい対応に迫られています。日本の社会制度や企業制度が2000年に向けて大きく変容し始めているのです。年金や税制や企業会計制度の改革は、企業会計に直結した多大な影響があり、各ERPベンダーのパッケージも制度改革に対応したパッケージ変更や新たなコンサルティングが必要になります。これまで2000年問題はコンピューターの年号表示がシステムに大きく影響すると問題になりましたが、それ以上に制度改革による企業業務の変容の方が大きな問題となるでしょう。ERPパッケージの業務処理内容も変革に対応したものでなければ使い物にならないわけですから、対応は簡単ではありません。問題点を整理してみると次のことが考えられます。

  1. 国家の制度改革の方向性が不明確で今後どのような制度改革が行われるか予測できないこと。
  2. 突然のように実施される制度改革の対応に時間の余裕がないこと。
  3. 実施される新改革の内容が不明瞭で理解するのもむずかしいこと。
 このような現状で、せっかく多大な費用をかけて日本化に対応したと思ったERPベンダーは、今後新しい対応が予測できない状況で次々と起ってくるのには、大変な危機感を持っているはずです。日本化対応に多大な投資をしたERPベンダーは、今後更に多くの投資を制度改革対応に覚悟しなければならない。はたして投資したコストに見合う収益が日本市場で回収できるのかという大きな問題が出てきます。  企業側にしても、どんな制度対応していいのか正確に理解するのも難しく、まったく新しい対応を企業側もERPベンダー同様に模索しなければならない状況が生まれます。

 今回のテーマである会計制度の改革は、2000年実施に動いている問題で、国際会計基準採用という方向性に時価評価、税制改革、年金改革など複合した会計処理が発生することに問題があります。日本人の多くはサラリーマンですから米国の個人申告とは違い、日本的経営の三種の神器といわれる終身雇用制、年功序列、企業別組合を前提とした企業による源泉徴収を続けています。社員一人一人のそれぞれ違う条件の給与から税金、年金、控除など計算しているのは企業で、企業の計算・徴収代行の費用負担は決して軽くありません。このような税制、控除項目、年金、減税比率を次々と変更されると給与計算だけでも企業システムにとっては大きなコスト負担になってきます。そして会計制度の変更による新しい財務報告書の計算や作成は、企業システムの変更というコストをさらに増大させます。

 会計制度改革についてだけお話すると、1997年6月に企業会計基準を審議・決定する「企業会計審議会」(これは大蔵大臣諮問機関)が「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」を発表し、2000年3月期決算から企業会計の公表形式は、単独決算中心から連結決算中心に転換することが明確にされました。この結果、連結決算書を作成していた国内企業は連結決算ベースでキャッシュフロー計算書の作成・開示が義務づけられます。
 連結決算書を作成していない企業も単独決算によるキャッシュフロー計算書の作成・開示が求められます。現在、国内企業でも米国で資金調達や上場している関係の26社ほどはすでに米国会計基準(FAS)で連結キャッシュフロー計算書を作成・開示していますが、上場企業の中だけでも約1400社ほどが今後連結キャッシュフロー計算書の対応をしなければならなくなります。

 ところで、連結キャシュフロー対応をすでに終えている企業としては伊藤忠商事、イトーヨーカ堂、オムロン、キャノン、京セラ、クボタ、小松製作所、三洋電機、ソニー、TDK、東芝、日本電気、日本ハム、パイオニア、日立製作所、富士写真フィルム、本田技研、マキタ、松下電器、丸紅、三井物産、三菱商事、三菱電機、村田製作所、リコー、ワコールなど代表的な企業26社です。

 この26社は当然英語による財務諸表を開示しています。現在、日本の証券市場での外国資本の買いは大きな比重を占めています。外国資本に分かりやすい情報の開示は株価にも影響してきます。開示の遅れる企業株は当然売られ株価下落の原因になりかねません。株式の収得原価計算が時価計算に移行しつつある状況では、外国資本の株売りの株価下落は国内の株式保有企業資産の損失につながり、国内企業からも売られる状況も考えられます。株価の下落がこれからの企業にとってどれほど大きな影響があるかを考えると、情報の開示の遅れはゆるされません。

 今後2000年に向けて企業情報システムとしてのERPが対応する必要のある事項は次の通りです。

1. 国際会計基準の対応
具体的項目としては(1)異常損益項目、(2)税効果会計、(3)連結決算、(4)キャッシュフロー計算書、(5)時価主義評価、(6)棚卸資産の低価法採用、(7)退職金給付コスト計算など

2. 国内制度改革の対応
税制改革(所得税・地方税・法人税・消費税など)、年金改革、控除項目の改定、特別減税、会計保管帳票のデータ化など

3. 新しい会計概念の対応
ABC会計
割引キャッシュフロー分析(DCF法)
加重平均資本コスト(WACC)
修正現在価値(APV)
株式持ち分キャッシュフロー(ECF)
マーケット・アプローチ法(マルティプル法)
EBITADA
IRR法
ペイバック法
年金のグロスモデル、ネットモデル、分解モデル
VBM(Value Based Management)
 細かい部分は省いて考えてきましたが、キャシュフローの計算も直接法、間接法があり現在キャッシュフロー計算書として考えられているものは、営業キャッシュフローは間接法で投資キャッシュフローと財務キャッシュフローは直接法です。今後、ERPパッケージは、これまでの日本的な会計処理が国際基準にやっと追いついてくるという過程でまた新たに対応しなければなりません。当然新しい分析手法や概念にも対応した業務のあり方を日本的な部分を残したシステムの上に再構築しなければいけません。

 導入企業側が良く理解できない新しい制度の実施準備に対応する、ERPベンダーやSI企業の導入企業支援のコンサルティングも、更に多くの学習時間とコストをかけることになるでしょう。

 現在の日本企業に残された対応の時間はあまりありません。
 今後、弊社情報通信総合研究所も調査・研究だけでなく、様々な企業のコンサルタントとして、せめて予測できる状況には事前に対応する努力を尽くしたいと考えます。

 

中嶋 隆

(入稿:1998.11)

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