トレンド情報-シリーズ[1998年] |
|
(1998.12) |
今回のIT業界レポートは前回に引き続き業務編の第二回ERPと会計業務(2)です。 前回は2000年問題が日付の桁数の問題だけでなく、2000年に予定されている会計制度の改革についても企業情報システムは大きな影響を受けることを取り上げました。
今回は企業年金について、企業会計と企業情報システムの関連で考えようと思います。 さて、本題の企業年金と会計ですが面白い記事が1998年11月10日の「日経新聞」に載っていました。引用要約すると次の通りです。
「ソニーは子会社や関連会社以外の持ち合い株など長期保有株式650億円を全額、信託銀行を通じ同社の年金基金に拠出し、年金財政をてこ入れする。年金への保有株式の拠出は日本企業としてはソニーが初めてで、将来の年金支払いに必要な積立額に不足する2700億円の25%ほどを補填する。2000年からの時価開示を控え、年金財政を早期に改善し、格付けや株価に悪影響が出るのを避けるのが狙い。」また、米ゴールドマン・サックスの試算では、97年度末に米国基準で年金財政情報を開示する日本企業27社の年金積立不足額の合計は4兆6000億円と言っています。
これまで、年金については財務諸表に現れてきませんでした。2000年からは時価評価による年金財政の開示が義務づけられ、財務諸表に負債としての記述が必要になります。 現在、日本企業の企業情報システムの困難さがあるとすれば、これらすべてが一度に押し寄せていることにあります。もはや、日本企業がオーダーメードの企業情報システムなど構築している時間も費用も残されていません。ERPやSCM、CTI、SFAなどのパッケージ・システムが出現したのもそれなりの理由があります。毎回最初からシステムを構築するより適用範囲は限定されていても、パッケージの方がはるかに企業の要望に迅速に対応できます。問題はパッケージが対応できないほど急激な変更が大規模に起ってきた時、パッケージにも限界があるということです。
それでは、年金会計の影響は企業情報システムにどんな影響を及ぼすのでしょうか?
会計システムで考えるとVBOやABO、PBOの新たな計算が追加されます。概念を理解し、計算方式を新たに組み込むわけですが前回に取り上げたキャッシュフロー計算や連結決算に加えて今度は年金会計です。現状、企業体質の建て直しの最中である日本企業にとって今回の会計部分の改革だけでも企業システムの変更は大きな負担です。不況の中、企業経営の存亡がかかっている状況で情報システムなどにかまってられるかと言われそうですが、政府が世界に向かって約束したことですから裏切るわけには行きません。現にソニーやトヨタなど優良企業は2000年制度改革対応を完了しつつありますし、2000年制度改革対応企業がERP導入企業であるのは偶然でしょうか? 前回触れたキャシュフロー会計や連結決算会計、そして今回の年金会計についてもERPはすでに対応の経験を持っています。今後の問題はいかに日本のローカル・バージョンにその機能を組み込むかでしょう。ERPを業務システムや業務の効率化の手段、あるいは言語対応の部分でグローバル化の手段と考えた企業は、あらためてERPを考えることになるでしょう。ERPは日本市場が世界市場に組み込まれることを知らせる警鐘であったように思います。日本市場は日本企業だけのものではない。企業も人間もこれからは国益よりも地球貢献を優先しなければならない。日本企業と外資系企業と分けて議論する必要もない。雇用を確保し、社員を正当に評価し、企業としての義務を果たし、人類全体に貢献する企業しか生き残れない時代が来ている。グローバリゼイションとは日本企業にも、働く日本人にも新たな地球的視野が要求されることなのでしょう。日本市場は永遠に日本企業のものだと考えてきた時代が終わりつつあるのです。日本市場は日本人だけのものではなく世界の人のものでもある。世界的“共生”の時代の先駈けがERPの出現だったように思います。 今回2回取り上げた会計システムでは、キャッシュフローは直説法で計算すればすべての伝票一枚一枚のデータが必要です。ERPの統合データベースはデータウェア・ハウスにそのデータがあります。統合データベースの存在なくしてSCM連携もありえません。ある大学の先生がサプライチェーンは欧米が日本を研究した時の“系列”の訳語と言っていました。たしかに欧米で系列を作ればサプライチェーンになるだろうと、その時思いました。日本がいかに日本的発想に縛られていたか思いを新たにしました。ERPの基礎となる業務システムは日本にも沢山ありました。なぜ、ERPへと発展しなかったのか?考えれば悔しい思いだけがつのります。 今回の会計制度の改革は、企業グループで隠していた負債や本業で利益を上げているのか否か、社員の将来にどれほど備えているかなど、これまで現れなかった企業グループの全体像や企業体制などの企業の本質を明らかにするかも知れません。情報開示の準備をしてこなかった日本企業には業績不振に追い討ちをかける痛手となるかもしれません。しかし、日本企業が新しい道を歩むためには避けて通れないハードルです。
今回会計業務システムで触れられなかった問題に、ヨーロッパ統合によるユーロ登場で“ユーロ会計”の対応や持ち株会社の“連結納税”などがあります。また、別の機会で取り上げようと思いますが、今回2回の会計業務システムで触れた部分以上の会計制度の改革によって、新しい概念の理解や新しい計算方式などを企業システムとして組み込む作業は大変な負担になるでしょう。
|
中嶋 隆 (入稿:1998.12) |
このページの最初へ |
トップページ (http://www.icr.co.jp/newsletter/) |
トレンド情報-シリーズ[1997-8年] |