トレンド情報-シリーズ[1998年]

[メガコンペティションは今?]
[第13回]メガコンペティションの新しい潮流始まる

(1998.8)

 自由化第二段階に進んたグローバル通信市場においてAT&TとBTの国際通信事業提携が合意されたこと、また米国SBCコミュニケーションズとアメリテック及びベル・アトランティックとGTEと言う二組みのローカル電話会社合併が発表されたことは、新しい通信ビジネスモデルと産業形態の潮流を表す。

●AT&T-BT国際通信事業提携の要点
 通信・放送の境界を越えるAT&T- TCI合併発表からほぼ一ヶ月後の7月26日に、 AT&TとBTのグローバルベンチャー設立と言う越境国際通信事業提携計画が発表された。発表の主要点は以下の通りである(下記参照)。

AT&T-BTグローバルベンチャー(JV)の要点

・折半出資のJVがAT&T・BTの国際通信網を結合する
・2000年のJV業績予想は売上高100億ドル、利益10億ドル
・[現行コンサート事業+新製品/サービス]によるグローバル音声/データ
・グローバル販売/サービスの最初の目標は金融・石油・情報技術産業
・国際通信事業者向けサービス(Carriers'Services Business)
・新グローバル200Gbps IP網を50カ国100都市に展開
・BTから10億ドル、AT&Tから20億ドル、合せて資産は30億ドル
・AT&T・BTは米国ハイテク産業に10億ドル折半投資

  1. AT&TとBTは多国籍企業の全通信ニーズと全世界の国際通話ニーズに応える売上高100億ドル規模のグローバルベンチャー(JV)を折半出資で創設する。
  2. 合弁会社には両社の現行国際通信網・トラフィック・サービス・顧客を含む資産と事業が移管される。同社は現行コンサート事業も継承のうえ、AT&TとBTが開発するグローバルIPネットワークを実現する。
  3. 合弁新会社は、開始時事業資産約30億ドル、初期平年ベース利益10億ドル、投資規模年10億ドル、成長年率15~20% と見込まれる。
  4. 合弁新会社の名称は未定だが、本社を米国東部に置き、初期(全世界)約5000名の従業員を雇用し、ビジネス顧客に直接奉仕する営業部隊を持つ。
  5. 新会社は独立のCEOと経営陣を備え、取締役会には両親会社の役員を含み、初代会長にはイアン・バランスBT会長が就任する。
  6. 新会社の設立は米国及びEUの独禁当局の認可を得て1年以内に完了する。
  7. AT&TとBTは合弁事業に関連して、別途折半で、米国のハイテク/新通信市場に10億ドル規模の投資を行う。
  8. 合弁新会社見合いの両社業績は、BT(98年3月期)が資産10億ドルに基づく売上高23億ドル、営業利益3億ドル、AT&T(97年12月期)が資産20億ドルに基づく売上高55億ドル、営業利益3億ドルである。
  9. グローバルベンチャーの業務は、[1]現コンサートを核とするグローバル音声/データ業務(初期年収35億ドル)、[2]金融・石油・情報技術産業等の大企業250社の通信需要に応えるグローバル販売/サービス業務(初期年収30億ドル)、[3]中継・ハブを含む国際卸売りサービス業務(初期年収45億ドル)の三本柱からなる。
  10. AT&TとBTは国際通信網計画を統合し、共通の新ネットワーク・アーキテクチャを採用して新しいグローバル・プラットフォームを開発・展開する。新プラットフォーム初期網は100都市を結ぶ200Gbps音声/データ網とする。
  11. AT&Tはユニソースやワールドパートナーズ(WP)提携から離脱する。

●JVが拓く新しい国際通信ビジネスモデル
 AT&TとBTの合弁新会社は名称未定のため現在はJVと呼ばれている。そのJV発表の株価面での反響は、AT&T株が1/16ドル上がって60ドルとほとんど変わらず、BT株は43ペンス(5.2%)上昇して8ポンド68ペンスとこの一ヶ月間で最高の上げ幅を示した。

 利害関係者に対する反響は、2ヵ月前にWPに出資した(600万ドル)ばかりのオーストラリアのテルストラ、JV発表で株価が 5.4%下がり国際戦略の再構築に迫られる日本のKDD、BTの進出圧力を受け提携戦略を練り直してきたシンガポール・テレコムなど、アジアのWPパートナーの受けた衝撃が大きい。JVの代理店、特約店を目指すのか、アジア通信連合を構想するのか迷うところである。ヨーロッパでも黒字化を控えてAT&Tを失うユニソースの受けた衝撃が大きく、オランダのKPNの株価は9.3%下がり、スイスは民営化の株式売却を控えて困惑し、スエーデンのテリアは流産したノルウエーのテレノールと合併交渉を再検討するなどの波紋を生んでいる。そして各社はまずDTとFTの出方に注目している。

 JV戦略に対する外部からの評価は、(1)全通信事業売上高ランクで世界第2位のAT&T(513億ドル)と第5位のBT(259億ドル)の強者連合であり支配力が脅威的と言う見方と、(2)MCI買収に失敗したBTとWP提携が機能せずインターネットに出遅れたAT&Tの敗者連合と言う見方に分かれ、独禁規制についての評価も[1]世界で競争の最も激しい北大西洋の伝送容量シェア50%に達するJVは無条件に認められず、大きな変更を迫られるとの判断と、[2]IPトラフィックの急成長に伴い伝送容量は急拡張されつつあり、JVのシェアは20%に低下する筈だから小さな調整で済むとの判断に分かれている。

 AT&TとBTは、JV構想は電気通信産業の新しい技術・経営構造、カスタマー・パートナー・サプライアーの新しい関係を創造する点に意義があるとする。
 具体的には、伝統的な回線交換と相互接続協定を廃棄し、音声/データ統合IPパケット網とTCP/IPの上位の新ソフトウエアによる情報伝送及びユーザ参加のオープン・コンピューティング・プラットフォームを作り出すことが狙いで、ユーザ側がアプリケーション・プログラム・インタフェース(API)を捉えてサービスの品質パラメーター設定やセキュリティ管理を行い、通信側は業務支援システム(OSS)によりユーザに現況が見える環境を提供すると言う。機器構成として当面はATMを含む現行製品が使えること、2年後にはテラビット級ルーターの製品化を期待する、APIを所有はするがマイクロソフトのOSのようにはしない、グローバル網としては国内網への繋ぎ込みは当然各国に任せるとも言う。

 このような「オープンIP統合網」ビジョンは、低通信コストと高インテリジェンス機能の両立が鍵で、その実現可能性を疑う向きもある。しかし、裏に独禁規制乗り切り策の意図があるとしても、電話からインターネットへの大波が電気通信産業に寄せて来た今日、AT&TとBTがIPネットワークの全面採用と革新を提案したことは画期的であり、その積極性は評価できる。

●米国ローカル電話会社水平統合の意義
 AT&TーBTの国際通信事業提携発表の翌々日(98年7月28日)、米国ローカル電話会社ベル・アトランティック(BA)のGTE買収が発表された。
  BAはベル系地域電話会社(RBOC)一つで97年売上高301億ドル・純利益24億ドルの業績を上げ、GTEは独立系電話会社第1位として97年売上高232億ドル・純利益27億ドルの業績を上げた大手であり、合併後の存続会社BAは従業員数約25万、6300万加入電話等による売上高約530億ドルの巨大通信企業となる。

 BAの買収額は約528億ドルで、去る5月11日に発表されたベル系地域電話会社SBCコミュニケーションズによるアメリテック買収の約620億ドルに次ぐ巨大統合である。SBCは合併後の従業員数は約19万、5500万加入電話等による売上高は約410億ドルと見込まれている。この二組のローカル電話会社統合は市内独占の水平統合であり、96年連邦通信法に基づく市場開放度調査の手続もあって審査に1年半程度かかるが、完了するとベル系7社に同規模のGTEを合わせた 8ローカル電話会社は4社になってしまう。

 BAのGTE買収で注目されるのはBA1.22株とGTE1株の交換と言う買収条件で、合意直前のGTE株価がBA株の1.28倍のためGTE株主にはマイナス・プレミアムの恐れがあることである。GTEは独立系のため従来から長距離通信を行い、ISP大手のBBNを所有し携帯電話事業も大手で海外の電話事業も多いなど内容が良いのに何故身売り同然に買収に応じたのか疑問とされる。BA-GTE合併は携帯電話・インターネット・長距離通信(BAの場合将来形)のそれぞれについて地域的重複があり、合併審査は最も面倒なものと見られている。高い固定コストと低い増分コストの特質を持つ電気通信産業として「規模の経済を求めて」と言っても、SBCコミュニケーションズ、アメリテックもそうだが、 BAもGTEも十分に巨大だし、統合しても余り効率化すると思えないとの評価もある。

 結局、二組のローカル電話会社統合の主な動機は「自分が買収しなければ競争相手が買収する可能性」にあり、自由化と競争が加速する時代を展望した椅子取りゲームが始まったと思われる。FCCは8月に入って地域電話会社のインターネット事業参入規制を緩和する方針を打ち出した。いずれSBC、BAのほかベルサウス(BS)、USウエストの4社は長距離通信、高速インターネットそして国際通信市場進出を活発化し、寡占化する長距離通信事業者ともども次ぎなる戦略的提携を展開するだろう。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1998.8)

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