●JVが拓く新しい国際通信ビジネスモデル
AT&TとBTの合弁新会社は名称未定のため現在はJVと呼ばれている。そのJV発表の株価面での反響は、AT&T株が1/16ドル上がって60ドルとほとんど変わらず、BT株は43ペンス(5.2%)上昇して8ポンド68ペンスとこの一ヶ月間で最高の上げ幅を示した。
利害関係者に対する反響は、2ヵ月前にWPに出資した(600万ドル)ばかりのオーストラリアのテルストラ、JV発表で株価が 5.4%下がり国際戦略の再構築に迫られる日本のKDD、BTの進出圧力を受け提携戦略を練り直してきたシンガポール・テレコムなど、アジアのWPパートナーの受けた衝撃が大きい。JVの代理店、特約店を目指すのか、アジア通信連合を構想するのか迷うところである。ヨーロッパでも黒字化を控えてAT&Tを失うユニソースの受けた衝撃が大きく、オランダのKPNの株価は9.3%下がり、スイスは民営化の株式売却を控えて困惑し、スエーデンのテリアは流産したノルウエーのテレノールと合併交渉を再検討するなどの波紋を生んでいる。そして各社はまずDTとFTの出方に注目している。
JV戦略に対する外部からの評価は、(1)全通信事業売上高ランクで世界第2位のAT&T(513億ドル)と第5位のBT(259億ドル)の強者連合であり支配力が脅威的と言う見方と、(2)MCI買収に失敗したBTとWP提携が機能せずインターネットに出遅れたAT&Tの敗者連合と言う見方に分かれ、独禁規制についての評価も[1]世界で競争の最も激しい北大西洋の伝送容量シェア50%に達するJVは無条件に認められず、大きな変更を迫られるとの判断と、[2]IPトラフィックの急成長に伴い伝送容量は急拡張されつつあり、JVのシェアは20%に低下する筈だから小さな調整で済むとの判断に分かれている。
AT&TとBTは、JV構想は電気通信産業の新しい技術・経営構造、カスタマー・パートナー・サプライアーの新しい関係を創造する点に意義があるとする。
具体的には、伝統的な回線交換と相互接続協定を廃棄し、音声/データ統合IPパケット網とTCP/IPの上位の新ソフトウエアによる情報伝送及びユーザ参加のオープン・コンピューティング・プラットフォームを作り出すことが狙いで、ユーザ側がアプリケーション・プログラム・インタフェース(API)を捉えてサービスの品質パラメーター設定やセキュリティ管理を行い、通信側は業務支援システム(OSS)によりユーザに現況が見える環境を提供すると言う。機器構成として当面はATMを含む現行製品が使えること、2年後にはテラビット級ルーターの製品化を期待する、APIを所有はするがマイクロソフトのOSのようにはしない、グローバル網としては国内網への繋ぎ込みは当然各国に任せるとも言う。
このような「オープンIP統合網」ビジョンは、低通信コストと高インテリジェンス機能の両立が鍵で、その実現可能性を疑う向きもある。しかし、裏に独禁規制乗り切り策の意図があるとしても、電話からインターネットへの大波が電気通信産業に寄せて来た今日、AT&TとBTがIPネットワークの全面採用と革新を提案したことは画期的であり、その積極性は評価できる。
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