●IP革命というネットワーク構造の変化
今世界の電気通信産業は一世紀前の電話交換網(PSTN)誕生に匹敵するネットワークの新段階に直面している。70年代後半通信自由化を象徴するVANとして生まれたパケット交換網は最近まで小さな存在だったが、インターネットが進化するディジタル化時代を迎え、パケット・ベースのネットワーク=IP網は既存電話網を脅かす革命的存在となっている。今日電話トラフィックは主として電話交換網を流れ、データトラフィックはインターネットに集まりつつあり、電話交換網とIP網は相互接続している。ビジネス・ソリューション型利用も公衆インターネットも成長すれば、近い将来データトラフィックのヴォリュームが電話交換トラフィックを超える時が来よう。ITUの「ネットワークの挑戦」(97.9.17.)は(1)現行インターネットの継続的発展、(2)公衆インターネットとプライベート・インターネットの二本立て、(3)インターネットの崩壊、(4)インターネットと公衆通信網の融合、(5)高機能次世代網の登場の5つシナリオを提示したが、どうやらインターネットの進化に伴い電話交換網とIP網は融合し、やがてはほとんど全てのアプリケーションがIP網を流れることになりそうである。
IP革命を主導するネットワーキング機能には、(1)ローカル・アクセス:xDSLやCATVなどでノードとユーザを物理的に結ぶ、(2)IPアクセス:ISP、ネットワークとユーザを機能的に結ぶ、(3)IP基幹網:全国的、世界的IP網、(4)物理的設備提供:長距離通信に波長多重分割(WDM)、高密度波長多重分割(DWDM)などの光伝送路を提供、(5)ネットワーク・アクセス・ポイント(NAP):IP基幹網とIPアクセス・プロバイダーの接続点の提供、などの5セグメントがある。
担い手をみると、ローカル・アクセスは米国でも既存事業者の独占が続いて来た領域で、CATVのインターネット接続もこれからである。IPアクセスは前述のように成長の最も激しい領域で、これからも新規参入と統合・大規模化が平行しよう。 IP基幹網はこの1~2年のM&Aで構図ができた。主な業者については米国最大手のUUNetは96年8月にWorldComに買収(20億ドル)された。WorldComは97年9月のAOLのCompuServ買収に参加し13億ドルで企業向けサービス部門とANS Networksを手に入れた。MCIの買収(470億ドル)に関しては、独禁部門の指示でMCIがインターネット事業をC&Wに売却(17.5億ドル)したものの、合併後のMCI WorldComはなお世界最大のインターネット事業を運営するキャリアーである。世界初のISPのPSI Netは独立を保って来たが、98年2月に光ファイバ使用権と引き換えに新興キャリアーIXC Communicationsに株式の20%を譲渡した。なお、PSI Netは98年9月に日本のISPリムネットを買収した。
物理的設備提供では既存事業者は別として、米国のQwest CommunicationsやLevel 3 Communicationsを始めとする光ファイバ投資の新興企業=IPネットワーク事業者が注目される。Qwest は88年に設立されたUnion Pacific鉄道の子会社で、AT&TのNo.3だったナッチオがCEOになった97年1月以来1.5Tbpsの超高速光ファイバ網建設、全米均一7.5セント/分のインターネット電話サービスなど積極策を展開。98年3月に準大手長距離通信事業者LCIを買収(44億ドル)し、西欧最大のISPであるEUNet Internationalを買収(1.53億ドル)を買収した。
Level 3は85年に建設会社Peter Kiewit Son's(PKS)の子会社として設立されたKiewit Diversified Groupが改称したもので、エンド・ツー・エンドのIPベース光ファイバ網構築を計画中。Qwestと同様、通信事業者に伝送容量を提供するキャリアーズ・キャリアー= 0種事業者であり、中小企業にマルチメディア通信サービスを提供する第1種事業者であるなど多面的である。このほかCATV事業者出身のIXC Commmunications、95年にWilTelをWorldComに売却したWilliams Networksの再参入なども活躍中である。
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