●ドイツテレコムとテレコムイタリアの合併ー防衛的国際提携
世界の通信自由化の枠組みがWTOで成立した1997年2月15日以来、WorldComとMCIの合併(97年11月合意、98年10月完了)、SBC Communi cationsのAmeritech買収(98年5月合意、未完)、Bell AtlanticのGTE買収(98年7月合意、未完)、AT&T-BT国際通信ベンチャー(98年7月合意、未完)などの超大型M&Aが展開されてきた。最近のコンセンサスとして、世界の通信業界は2002年までにグローバル・スーパーキャリアー4~5社と地域別・国別ニッチ・プロバイダー約4000社が共存する見通しと言われる(Global Telecom Business Mach/April 1999 52頁)が、その構図の要素となりそうな大型M&Aが99年4月22日に発表された。ドイツテレコム(Deutsche Telekom:DT)とテレコムイタリア(Telecom Italia:TelItal)の株式交換による合併である。
この起こりはイタリアのOA機器メーカー、オリベッティ(Olivetti:OL)が99年2月にTelItalに526ユーロ(590億ドル)の株式公開買い付け(Take Over Bid:TOB)を仕掛けたことに始まる。92年以来5年連続の赤字を97年に黒字化したOLが時価総額で20倍のTelItalを買収するための資金源としてドイツの鉄鋼財閥マンネスマンが蔭にあり、その通信子会社アルコア(Mannesmann Arcor:MA)が第2キャリアーであるため、TOB攻防戦の最初からTelItalを救う白馬の騎士としてDTが噂されていた。一方、94年8月の統合で誕生したTelItalはSTETの傘下にあり、政府保有株式は44.7%だったが、STETとTelItalの97年10月合併で生まれた新TelItal株式は、発行済の90%を約900万名の個人株主が保有し、政府保有はわずか3.4%に過ぎない。しかし、いわゆる黄金株としてイタリア政府が合併・買収への拒否権を持つと言う複雑な構造であった。そこでOLの仕掛けにTelItalが応戦するTOB攻防戦は個人株主の争奪と政財界を二分する政治的な争いになり、企業防衛策を決めるTelItal臨時株主総会が定足数不足で成立しないと言う土壇場で、実は前からTelItalと交渉していたと言うDTが表舞台に登場した。99年4月21日のTelItal取締役会はOL提案額を50億ドル上回る700億ドルをイタリア側にもたらすDTの合併提案を承認した。
株式時価総額1750億ドル、従業員数30万名の巨大キャリアーが誕生するまでには、ドイツ、イタリア両政府とEC委員会の承認や国際通信合弁事業グローバル・ワンのパートナーFT(France Telecom、フランステレコム)、スプリントの納得など多くの課題が残されている。
この合併の背景は98年初頭に始まったEUの通信完全自由化が既存キャリアーにもたらした市場変革の衝撃である。リスクの多い買収に踏み切ったDTは、僅か18カ月で長距離市場シェアを30%奪われ、小さなセグメントだが国際トラフィックを急速に奪われつつあり、グローバル・ワンの黒字化のメドも立たない情況にある。「DTは厳しい競争に直面すると予想はしていたが、それがこんなに早く、きたないものとは思っていなかった」(Communications International 99年3月号ー{Germany: A Time of restoration,consolidation and acceleration})のである。TelItalにしても競争の挑戦に立ち向かうべき98年を社内派閥争いや戦略の迷いに過ごし、AT&T-UnisourceやC&Wとの提携も実らなかった。「言い寄る者とは誰とでもキスしたが、病気をもらっただけ」(The Economist 99.4.24-30.{European telecom in a tangle})と言う始末である。DT-TelItal合併の本質は、競争の強風が吹き始めて心許なくなった既存キャリアーの防衛的M&Aなのだ。
この両社を、市場が平穏だった時に早くから漸進的に自由化を進めてきたBTと比べると歴然としている。BTの従業員数は両社の半分以下だが、時価総額は半分以上である。
区別 | DT | TelItal | BT |
従業員数(98末) | 179,000 | 127,000 | 124,700 |
株式時価総額($B)(99.4.20現在) | 106.1 | 67.0 | 102.7 |
売上高($B) | 41.8 | 27.3 | 25.7 |
利益($B) | 2.5 | 2.2 | 2.8 |
DT-TelItal合併は固定系に強いDTと移動系に強いTelItalの相互補完的合併だから大いにメリットがあるとする見方はある。問題は怒るFTの出方とスプリントの動きである。当面は、信頼感が損なわれたからにはもはやグローバル・ワンは維持できないとの見方が強い
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