トレンド情報-シリーズ[1999年]

[メガコンペティションは今?]
[第22回]オリベッティの勝利が示す現代通信企業のM&A

(1999.6)

 ドイツテレコム/テレコムイタリア合併合意にも拘わらずオリベッティがTOBに逆転勝利したため、テレコムイタリア(TelItal)役員は辞任、ドイツテレコム(DT)は国際提携戦略を練り直すこととなり、マンネスマンの通信戦略がクローズアップされた。米国ではUSウェストとグローバルクロッシングの合併、MCI WorldComのスカイテル買収が合意された。この1ヵ月のイベントは主要キャリアーの合従連衡が煮詰まってきたことを示す。

●通信企業もマネーゲームの対象−オリベッティの逆転勝利
 先のシリーズ第21回「99年4月からメガコンペティションは新段階」で、テレコムイタリアTOB(株式公開買い付け)をめぐる攻防戦は、ドイツテレコム/テレコムイタリア合併合意で終結したと報じたが、結果的にこれは誤報となった。巨大キャリア誕生の路線が敷かれたことで終結と見たのは、敵対的買収は成功しないと言う従来のヨーロッパ産業界の常識に囚われていたからで、99年初頭の時価総額で自己の20倍(ビジネスウィーク誌の「グローバル1000」98ランクでは13倍)もの巨大企業にTOBを仕掛けるオベッティ(OL)の戦意は止まることを知らなかった。4月30日にTelItalの1株当たり11.5ユーロ(12.20ドル)のTOBを開始したところ、売却申し込みが5月19日までに発行済株式数の9.032%、5月20日に19.89%に達し、最終5月21日午後5時に51.9%と過半数を超えて、攻防戦はOLの逆転勝利に終わった。

 OLの提示価格は当初2月20日発表の10ユーロ(11ドル)より高くしたがDT/TelItal合併の値付け(13.75ドル相当)より低いものの、投資家が(1)合併案の株式交換よりOLの現金・社債・テクノス(OL子会社)株式ミックスを好んだ、(2)外国企業に主導権を握られるより自国企業に買収される方を選択した、(3)巨大独占化への懸念からとされる。経営不振のコングロマリットENIを3年で立て直したF.ベルナベTelItal社長が戦後生まれの若手経営者の代表で、左翼民主党中心の現ダマーレ政権の支持を受けていたのに対し、マントアの会計士出身のR.コラニンノ社長が2年で改革したOLはMediobannca、Lehman Brothers&Donaldson、Lufkin&Jenretteなどを財務アドバイザーとし、元財務顧問エンリコ・クッチャMediobannca名誉会長の旧世代人脈でTelItal大株主を組織した。J.P.Morgan、Lazard Freres、IMIとともにDT/TelItalの財務アドバイザーを勤めたCredit Suisse First Bostonまでが売却側に回り、ベルナベ社長の信認に背いたと言われる。

 OLは5月22日株主総会でTelItal買収を決定し、5月25日のTelItal株主総会でベルナベ社長以下全取締役がリボナーティ会長に辞表を提出した。TelItal新経営陣は6月28日株主総会で選ばれ、新社長にはコラニンノOL社長が就任する。彼はOLとTelitalのトップを5年間は兼任したいと公言している。

 敗れたDTはTelital合併だけが目標達成の道ではない、グローバル化戦略を堅持して移動通信、インターネットなどの高成長分野で対応策を練るとして、5月27日の株主総会でR.ゾンマー社長を再任した(2005年まで)。

 DTの当面の買収対象としてはC&Wが売りに出した英国の携帯電話会0ne 2Oneが噂されている。0ne 2 OneはC&Wと米国のCATV会社Media Oneの折半所有だが、C&Wはネットワーク投資とIDC買収のため資金61億調達の際メリルリンチに斡旋を依頼し、Media Oneを最近買収したAT&Tも独禁規制の懸念から手放すことから、0ne2Oneはバンカメ、シティグループ、パリバ等による保有子会社に移され6月14日目標ではめ込み先が検討されている。価格は最低120億ドルとされるが、DTが160億ドルを提示したと噂される。いずれDT、FT、マンネスマンなどの中から買収者が選ばれるだろう。

 最も厄介なのはTelIta合併合意の事前通知を怠ったとしてFTがパリ国際商業会議所に調停を依頼した損害賠償要求の解決などFTとの関係の修復である。DT/FT/スプリントの国際通信合弁グローバルワンついてはDT、FTとも維持するとしており、その黒字化と発展の促進が課題である。

●マンネスマン通信戦略の意義
 5月27日のマンネスマン株主総会でK.エッサー副社長CFO(Chief Financial Officer最高財務経営者)が51才でCEOに選ばれた。
 マンネスマンはマックス/ラインハルト・マンネスマン兄弟が1890年に創立した鉄鋼メーカーで、1970年代と1980年代にエンジニアリングと自動車部品事業に進出した。ビジネスウィーク誌の「グローバル1000」98ランク第92位、時価総額380億ドル、売上高219.3億ドル、利益2.74億ドルの業績は、新日鉄の第365位、時価総額116.8億ドル、売上高220.9億ドル、利益0.25億ドルと比べると素晴しさが分かる。ところが、マンネスマンの98年実績を見ると、売上高の約24%、利益の2/3が通信事業である。1994年以来エッサーCFOは財務面で通信事業を育ててきたが、マンネスマン株価が最高値を記録した5月27日にドイツの第二電電マンネスマン・アルコアのAT&T、Unisource持株を買い取り出資比率を70%に引き上げた。AT&TとUnisourceがAT&T=BT提携の結果持株を手放すことになったためだが、残り30%はドイツ国鉄、ドイツ銀行、エアタッチである。これより先4月には、エネルギー大手のフェーバとRWEが共同事業電話会社オテロをギブアップしたのを買い取っている。携帯電話子会社マンネスマン・モビルフンクはDTの子会社デテモビルを抜いてドイツ一である。

 海外では、1997年OLの電話事業参入に当り49%出資した決断が結果を生んだ。現在携帯電話子会社オムニテル出資率は50%、国定電話子会社インフォストラーダ出資率は28%になっているが、今回OLの買収資金づくりに参画してオムニテルへの出資を過半数とし、固定電話のインフォストラーダを完全子会社とした。
 OLのTelitalTOB成功は、政府出資比率の高い通信企業にはM&A戦略上の困難があり、自由化・民営化された通信企業は「普通の会社」であることを誰の目にも明らかにした。また、グローバル通信メディア資本形成には一般企業の参加だ不可欠であるが、マンネスマンはそのモデルと言えよう。

●米国で二つのM&A−残るはベルサウスとスプリント
 1999年5月は米国でも通信M&A史に残る月であった。
 5月17日に米国RBOCのUSウェスト(US West)とバミューダに籍を置く米国新興通信会社グローバルクロッシング(Global Crossing:GC)が対等合併で合意し、同時にGCが米国独立系通信会社フロンティアグループを125億ドルで買収したことを発表した。新GC発足は99年10月の予定である。

合併の存続会社はグローバルクロッシング(GC)であるが、特徴として新GCはフロンティアを含む全事業を二分して「グローバル株(G stock)」と「ローカル株(L stock)」の二種類の「業績見合い株(tracking stock)を発行し、株主にいずれかを選択させる。G株は大西洋越えやヨーロッパ光ファイバーケーブルO種事業と米国内長距離通信網事業見合いで、高収益だがリスクを伴い、L株は14州1700万加入の市内電話事業・電話帳事業見合いで、安定だが低収益という違いがある。総収入約150億ドルの一部事業にリンクさせ異種事業を統合するテクニックで、tracking stock発行経験を持つUS West(Continentalvision買収後US WestとMediaOneに分割した)が提案した。

 GCは通信網ディジタル化の趨勢にそって急成長しており、99年4月にC&Wの海底ケーブル部門を885百万ドルで買収したばかりである。フロンティアグループもロチェスターテレホンと言う市内電話会社から過去2年間で長距離/データ/インターネット/WWWホスト提供に多角化してきている。一方US Westは山間部に位置してきたRBOCだが国際化に積極的であった。本合併は新しいタイプの垂直統合と言える。

 5月28日にMCI WorldComは中堅のページング会社スカイテルを総額18億ドルで買収すると発表した。スカイテル1株につきMCI WorldCom0.25株または現金21.24ドルと言う買収12.7億ドルのほか、社債を265百万ドル引き取り、優先株187百万ドルを買収、債務を73百万ドル引き受ける。スカイテルは米国南部に展開し加入数約160万、年商5億ドルの小粒だが、電子メール着信先の拡大でインターネット子会社UUNetの役に立つ。MCI WorldComはこれまでもスカイテルサービスを再販売してきており、本社も同じミシシッピー州ジャクソンであるが、各社が移動通信進出に積極的だった間も買収戦線に加わらなかったMCI WorldComの方針転換である。MCI統合の努力と収益性の見きわめから控えていたものが、今後どのように進出するのか注目される。
 5月が終わってみると世界の通信企業の戦略的提携の現状は図のとおりである。有力企業で提携先がないまま残っているのは、ベルサウス(BA)とスプリントぐらいなことが分かる。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1999.6)

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