トレンド情報-シリーズ[1999年]

インターネット接続の海外動向
[第2回]無料インターネット接続サービス

(1999.10)


 日本でも、最近は、パソコンを購入すると一定期間無料でインターネットに接続できる特典がついてくる場合がある。こうしたパソコン・メーカーが提供する特典は、米国で始まり世界的に広まってきているものである。このパソコン・メーカーが提供する特典とは別に、欧州諸国を中心として、「無料インターネット接続サービス」を提供する事業者が続出している。「無料インターネット接続サービス」とは、接続のための通信料金(市内通話料金)がかかるだけで、その他の接続料金は一切かからないサービスである。
 この無料インターネット接続サービスは、潜在的なインターネット・ユーザーを掘り起こしたり、有料インターネット接続料金の引下げをもたらしているだけでなく、通信政策にまで影響を及ぼしている。

  1. 無料インターネット接続サービスの始まり
  2. 通信料の一部が収入源に
  3. 通信産業に及ぼした影響
  4. 無料インターネット接続サービスのゆくえ
  5. まとめ


1.無料インターネット接続サービスの始まり
 無料インターネット接続サービスは、通信料金もインターネット接続料金も従量制料金である英国で始まったのが最初だと思われる。家電チェーンのディクソン社と通信事業者のエナジスが提携して、「フリーサーブ」という無料インターネット接続サービスを1998年9月に始め、約4ヶ月で100万加入、99年7月時点で140万加入を獲得している。同社の成功を受けて、フランス、スペインなど欧州各国でさまざまな事業者が無料インターネット接続サービスの提供を始めている。
 欧州における無料インターネットの加入数の総計は不明であるが、たとえばフランスでは、無料インターネット加入数は40万人(ただし重複契約ユーザーがいるため、実質22万人)にのぼり、このうち、インターネットの初心者は7万5,000人程度との数値が発表されている。
 こうした動きを受けて、これまで従量制のインターネット接続サービスを提供していた事業者が、料金値下げを実施したり、定額制を導入するようになってきている。また、長期契約を結んだ加入者に無料でパソコンを提供するという新たなサービスの提供も始めている。

2.通信料の一部が収入源に
 無料インターネット接続事業者の収入源は何なのであろうか。提供事業者は、オンライン・ショッピング・モールやオンライン広告から、ネット販売手数料や広告料金を得ており、それらを主な収入にしている。さらに、ユーザーが通信事業者に支払っている通信料(市内通話料)の一部が収入になっている。その仕組は次のとおりである。  ユーザーがインターネットにダイヤル・アップでアクセスした場合、その通話はインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)のアクセス・ポイントの電話番号が着信電話番号になる(図参照)。そのため、ISPにインフラを提供している通信事業者が着信事業者になり、発信事業者に対して相互接続料金の支払いを要求することができる。したがって、加入数が多くアクセスが多いISPをかかえる事業者は、相互接続収入が増えることになる。このため、通信事業者はISPを囲いこむため、相互接続料金の一部を配分することを条件としてISPと提携を結ぶことになる。 

           

インターネットへのダイヤル・アップ接続

図

英国の場合には、無料インターネット接続サービスは、英国特有の番号翻訳サービス(NTS:Number Translation Service)に属する「0845」から始まるサービスを利用して提供されている。顧客が無料インターネット接続サービスを利用した場合、「0845」サービス利用料金(=市内通話料金)はBTによって回収されるが、その後BTと着信通信事業者との間で配分される仕組となっている。その配分比率は、NTS等式で定められており下表のとおりである。例えば、先の無料インターネット接続サービス「フリーサーブ」の場合には、ユーザーが無料インターネットを昼間に利用した場合、ユーザーは1分あたり市内通話料金4ペンス(約8円)をBTに支払うが、そのうちディクソン社と提携している通信事業者エナジスが2.7ペンス分の収入を得ることになる。

NTS等式に基づく事業者間の配分比率

昼間夕刻週末
BT市内通話料金4ペンス/分1.5ペンス/分1ペンス/分
配分比率
 BT:他事業者
32:68
(1.3ペンス:2.7ペンス)
47:53
(0.7ペンス:0.8ペンス)
59:41
(0.6ペンス:0.4ペンス)

注)BTの最低通話料金は5ペンス(約10円)

3.通信産業に及ぼした影響
 このように、無料インターネット接続サービス事業者の収入源の1つが通信料金であるために、既存通信事業者が無料インターネット接続サービスの提供を開始したり、事業者間の接続料金改定論議が起きている。
 たとえば、英国では、先に記したように無料インターネット接続サービスは、NTSサービスを利用して提供される。すなわち、NTS等式に従って、BTは顧客から得た通信料金を着信側の事業者に支払わなければならない。この支払い額を少なくするために、BT自身が無料インターネット接続サービス「BT Click Free」を1999年2月から開始した。また、BTはセガと提携してゲーム機からの無料インターネット接続サービスの提供も予定している。
 さらに、英国ではNTS等式に基づく配分比率の見直しに関して論議が行われている。NTS等式は1996年に定められたものであるが、その当時に今日のようなNTSサービスの通話量の増大(インターネットの著しい成長)を予測できた企業はなかったということであろう。BTは、需要の拡大に応じるために追加投資が必要になったと主張して、NTS等式で定められた配分比率を変更してBT留保分を引き上げるよう規制機関オフテルに要請した。一方、競争事業者は、無料インターネット接続サービスという革新的なサービスにより多くの付加価値を生み出したことを主張して配分比率引上げをオフテルに申し出た。これを受けてオフテルは1999年3月に、NTS等式の適用に関する諮問文書(「番号翻訳サービスに関する小売料金と相互接続料金に関する諮問文書」)を出すに至っている。
 フランスでも、インターネット接続の相互接続料金の改定といった政策問題に発展した。すなわち、既存通信事業者のフランス・テレコム(FT)はインターネット・トラヒックの相互接続料金を1.5〜2サンチーム(約0.3〜0.4円)/分を、競争事業者のセジェテルは6サンチーム/分を主張していた。1999年6月、規制機関ARTは1999年度のFTとセジェテルの相互接続料金を音声通話に関しては10.2サンチーム/分、インターネット・トラヒックに関しては3.8サンチーム/分に定め、音声トラヒックとインターネット・トラヒックの相互接続料金に格差を設けるに至った。インターネット・トラヒックの相互接続料金引下げに関しては、ベルギーでも論議されている。
 また、スペインでも無料インターネット接続サービス事業者が新規参入通信事業者と提携してサービスを提供しており、既存通信事業者のテレフォニカは多額の相互接続料金(1.65ペセタ=約1.1円/分)を競争事業者に支払うことになっている。テレフォニカはこの相互接続料金の支払いを減らす目的で、自ら無料インターネット接続サービスを提供するに至っている。

4.無料インターネット接続サービスのゆくえ
 欧州諸国で無料インターネット提供事業者が成功している背景には、通信事業者との提携でその収入の一部を得ることができること、インターネット接続料金に定額制が導入されていなかったことがあるが、先に記したように、この構図が国によっては崩れつつあり、提供事業者の経営の行き詰まりが心配されるところである。
 また、利用者側の立場に立って考えた時、無料インターネット接続サービスは、接続料金が無料とはいえ従量制の市内通話料金は依然としてかかる。たとえば、英国では、市内通話料金が安い時間帯(週末や夕刻)は別として昼間時間帯の市内通話料金は1分間約8円と非常に高く、長時間インターネットに接続していれば利用料金は巨額になってしまう。無料インターネットが普及するのは、市内通話料金も含めた魅力的なインターネット接続プランが登場するまでの間かもしれない。
 シリーズ第1回で紹介したように、フランスでは、市内通話料金に部分定額制が導入され、無料インターネット接続サービスとの併用ができない。また今回紹介したようにインターネット・トラヒック用の相互接続料金も引下げられた。これを受けて、クラブ・インターネットというISPは「長期的には、無料インターネット接続サービスには望みがない」として、市内電話料金の部分定額料金をセットにした有料定額インターネット接続サービスの提供を始めている(具体的プランは、月額177フラン(約3,500円):インターネット接続料金77フランと20時間の電話料金100フランから成る)。今後、欧州諸国でも、このようなインターネット定額料金プランが登場すると考えられる。

5.まとめ
 無料インターネット接続サービスに対抗するために、従量制のインターネット接続サービスを提供していたISPは料金値下げをしたり定額制を導入するようになっている。また、既存通信事業者も無料インターネット接続サービスを開始している。その結果、インターネット接続料金の低廉化を招いており、ユーザーのインターネット利用料金の負担は軽減している。
 しかし、一方で、市内通話料金の値下げやインターネット・トラヒックの相互接続料金の引下げが行われると、これまで無料インターネット接続サービス提供事業者が通信事業者から得ていた収入が少なくなり経営が困難になっていく可能性もある。そこで、提供事業者たちは、より魅力的なオンライン広告やショッピング・モールを運営して、そこからの収入を増やさなければならなくなるであろう。
 また、フランスのように、「有料定額インターネット接続+市内通話定額料金」プランの提供が始まった場合、ユーザーが引き続き「無料インターネット接続+市内通話従量料金」プランを利用し続けるのかどうか、今後の動向が注目されるところである。

(情報流通研究グループ/通信事業研究担当 横山邦江)
e-mail:yokoyama@icr.co.jp

(入稿:1999.10)

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