トレンド情報-シリーズ[2000年]

[経営とITソリューション]
[第1回]ITと経営とBPR

(2000.2)


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企業永続の理論
 P・F・ドラッカー*1は、ハーバードビジネスレヴュー1995年1月号の企業永続の理論の冒頭で「今日のように多くの新しいマネジメント技法が存在したことはない。中略−アウトソーシングとリエンジニアリング以外の手法は主として、すでになされていることを違ったやり方でやるための手法である。つまり、「いかになすか」の手法である。ところが今や、「何をなすか」が、マネジメント、特にこれまで長期にわたって成功してきた大企業のマネジメントにとって、主たる課題となっている」と述べた。 今まで成功を収めてきた組織の多くが、現在困難に陥っている。それは前提としてきた「事業の定義」が、新しい現実にそぐわなくなったのである。「事業の定義」は、常に見直し、環境変化に対応させていかねばならないとも言っている。企業が低迷し、困難に陥り、経営危機に到るのは、経営が間違っているのでもなく、愚かなわけでもない。組織が設立の際に基礎とされた前提、そしてそれに基づいて組織が運営されてきた前提が、もはや現実にそぐわなくなったのだとドラッカーは言っているのである。

リエンジニアリング革命
 M・ハマー*2&J・チャンピー*3は「リエンジニアリング革命」1993でBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を提唱した。ハマー&チャンピーは「会社を再建するためには、会社がどう組織され、どう運営されるべきかということについての古いコンセプトを捨てなくてはならない。現在用いている組織運営の原則と手順をやめて、それに代わるまったく新しいものをつくり出さなければならない。」と言っている。リエンジニアリングとは最初からやりなおすこと、つまり再出発を意味している。リエンジニアリングの定義は「コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にそれをデザインし直すこと」である。ここで注意が必要なのは、リエンジニアリングは改善や強化、修正を目指しているのではなく、既存の構造と手続きをすべて無視して、仕事を達成する新しい方法を発明することだということである。つまりアダム・スミス以来の分業体制、規模の利益、階層的組織構造を無視して、顧客のためのビジネス・プロセスの再構築をするというのである。また、リエンジニアリングには情報技術(IT)が不可欠であり、情報技術がなければリエンジニアリングはできない。

ITとBPR
 ドラッカーは事業の定義として3つ定義をあげている。第一に環境に関する前提、組織が何のために存在するかを定義する。第二に使命に関する前提、組織が何をもって意義ある成果と考えるかを定義する。第三に中核となる強みに関する前提、組織がリーダーシップを維持していくためにどの点で他に優れなければならないかを定義する。これらの定義は重要であり、常に検証され続けなければならない。
 また、一時的な改革手法としてBPRは提唱されたが、ITを活用した継続的BPRの手法も必要である。現在ERPやSCMがBPRのツールとして宣伝されているが、厳密に言えばBPRは組織運営の原則の破壊と再構築であり、ERPは業務適合という既存運営原則内での組織強化である。コンセプトはまったく違う。組織業務を前提に構築されたERPは、組織業務の分業を前提にしないBPRには対応が難しい。ERPはデータの統合はできても組織や人間の統合はできない。
 現在、経営に必要とされているのは継続的BPRを可能にするビジネス・モデルの確立と情報技術(IT)の新しい手法である。

ITの新動向
 企業の情報システムが企業活動の拡大にともないシステムの構築法も進歩してきた。ウォーターフォール型の開発からプロトタイピング・パッケージ(ERP)の利用、モデル・コンポーネントウェアやポイントソリューションの出現、さらにパターン指向のソフトウェア・アーキテクチャーの動向などソフトウェアの進歩は世界規模で加速している。
 モデル・コンポーネントウェアはソフトウェアの設計からプログラミングまで利用できるツールである。世界中ですでに30社以上のツール・ベンダーがあり、オブジェクト指向のプログラム自動生成機能を持つものもある。したがって、ビジネス・モデルの設計からプログラム作成までツールによる開発が可能で、従来の開発工程でのレヴューやバグ修正工程が大幅に軽減され開発期間の短縮効果も大きい。
 ポイントソリューションは各パッケージ・ベンダーのパッケージ・ソフトの共通なプラットフォームの役割をするミドルウェアのことである。簡単に言うとERP、SCM、CTI、SFAといったパッケージを簡単につなぎ合わせて使えるようにするソフトウェアを作ろうというわけである。すでに米国では10社以上のポイントソリューション・ベンダーが製品出荷を始めている。
 ここで最後にパターン指向のソフトウェア・アーキテクチャーについて触れておく。アーキテクチャーというとコンピュータのハードウェアと誤解する人もいるはずである。ソフトウェア設計の成果物のことでアーティファクトとも呼ばれている。つまりソフトウェアの構築にパターンを利用しようというわけである。当然これまでの方法論ではカバーしきれなかった問題の解決方法が分かっている実績あるソフトウェア構築パターンを世界中から集めて整理して再利用しようというのである。すでにヨーロッパではパターン・コミュニティが結成され、国際会議を開催し、パターン構築法の収集・整理が始められている。

経営とIT
 経営にとってITはもはや不可欠な存在である。問題は経営におけるIT部門の役割である。これまでどおり経営の要求する問題解決だけを担当し続ける御用聞き情報部門なのか。世界的なITの新技術を積極的に経営改革に利用する改革提案機関に生まれ変わるのか。これからの経営は、ITのより効果的な利用のためにIT部門の経営における位置づけを明確にしなければならない。経営改革と企業の再生はまずIT部門の経営における位置づけから始まる。

◇◆◇

*1:P・F・ドラッカー(Peter . F . Drucker)
クレアモント大学院の社会科学・管理教授。また、経営コンサルタントとしても活躍中。社会、経済、政治、マネジメントに関する30以上の著書があり、20ケ国語以上に翻訳されている。
*2:M・ハマー(Michael Hammer)
「リエンジニアリング」のコンセプトの生みの親。90年代を代表するマネジメント論の第一人者の一人。現在、ハマー・アンド・カンパニー社長。
*3:J・チャンピー(Ja,es Champy)
CSC Index社会長。多くの企業で「リエンジニアリング」の導入に携わる。
中嶋 隆

(入稿:2000.1)

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