トレンド情報-シリーズ[2000年]

[経営とITソリューション]
[第2回]経営とERP

(2000.2)


>>>「ビジネスモデル特許研究会」ホームページ

ERPの登場
 ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージと言う言葉が日本でも定着し、現在ではIT業界の中心のソリューションを担うほどになった。SAPに代表されるERPは企業業務の統合パッケージ・システムとして多くの大企業に導入された。日本が大きく変わろうとする時代の要請として、企業システムの変革を担うERPパッケージの登場は、まさに日本的価値基準が世界的価値基準に移行する必然性を象徴しているかのようだ。様々な国の多くの企業で、企業業務の標準とは何かと考え尽くされた企業システムは、言語を超え、通貨を超え、制度を超え、国家を超え、グローバル・スタンダードという普遍的システムとしてこれからも更に発展統合され進化し続けるであろう。

ERPの定義
 ERPシステムの定義については、1991年ごろガートナーグループが製造資源計画(MRP II)を超えるシステムをERPシステムと言い始めたことで世界的にERPシステムが広まった。米国生産在庫管理協会( APICS )はERPシステム「受注から生産、出荷、勘定までにかかわる企業の総資産を管理し、活動計画を立案する会計指向のシステム」と定義している。現在日本でERPの研究をしているERP研究推進フォーラムではERPシステムあるいはERPパッケージとERPの概念を別個に考えている。

  1. ERPの概念とは、「経営環境の変化に即応しBPRと表裏一体となって、経営理念に沿って企業組織を継続的に変革するための経営革新・改革」を意味する。
  2. ERPシステムとは、「最新技術情報を活用しERPの概念を実践するためのERP概念を具現化した企業情報システム」である。
  3. ERPパッケージとは「ERPシステムを効率的に構築し運用するための中核として提供される、既存のアプリケーションソフトウェア製品」である。
 ERPフォーラムによれば、ERPとは概念であり、ERPシステムとはシステム総称であり、ERPパッケージは製品であるということになる。

ERPの歴史
 ERPは、まず製造モジュールのMRPからMRPIIへと発展し、さらに業務モジュールを拡大しERPに発展した。1960年代に企業業務の製造系の手法として提唱されたMRP( Material Requirements Planning )は資材所要量計画として、部品表(BOM)から展開された資材の所要量を、発注、購買、在庫管理など効率的に計画するためのものであった。1980年代MRPはMRPIIへと発展する。MRPIIのMRPは(Manufacturing Resource Planning)製造資源計画で60年代のMRPとは違う。MRPIIは、MRPの資材所要量計画に、要員、設備、資金など製造に関連するすべての要素を統合して計画・管理するものだ。計画・管理の対象が資材から人間、設備、資金と拡大し、さらに人事、会計、販売、マーケティングなどの業務に対象が拡大しERPが登場する。

ERPパッケージの導入効果
 ERPパッケージの導入効果は導入するERPパッケージと企業ごとに違う。企業が何を目指して導入するのかが問題である。導入目的の明確化がERPパッケージの選定や導入手法に関係してくる。一般に言われる導入効果は(1)業務の効率化 (2)BPRの実践 (3)経営指標の迅速かつ正確な把握 (4)企業競争力の拡大 (5)企業のグローバル対応 (6)基幹業務のコストダウン (7)経営管理の向上 (8)情報インフラの整備と高度化などである。これらの効果は導入する企業が何を目的にするかでパッケージの選択も変わってくる。

ERPパッケージ導入の注意点
 ERPパッケージのベンダーは日本でも多くなった。それだけ種類の違うERPパッケージが存在するわけですから、パッケージ選択は慎重にしなければならない。ERPパッケージはそれぞれが業界や業務処理などの強み、弱みを持っている。導入企業が何を目的に導入するのか、導入企業の期待するビジネス・モデルの分析が導入以前に必要である。つまり導入企業はERPパッケージの導入を決定する前に、来るべき将来のビジネス・モデルを構築できなければ、設計書なしで家を建てるようなものだ。最も望む企業モデルの設計図に合うERPパッケージはどのパッケージかという選択が重要だ。ここで選択を誤れば投下された資金や時間は無駄な投資となってしまう。

ビジネス・モデル
 日本企業はこれまで自社のビジネス・モデルを十分に自覚していなかった。経験と勘に左右された企業経営では急激に変化する経営環境にどう対応してよいのか判断できない。ビジネス・モデルを十分に自覚し、自社の強みや弱みを理解することはこれからの企業経営には重要な意味を持つ。どこを改善し、どこをアウトソーシングするのか。ITの投資部分はどこか。企業経営をコントロールするための手法はまずビジネス・モデルの把握にある。ERPパッケージを導入する時もビジネス・モデルがしっかりと描かれていれば、導入目的もはっきりとし、導入もスムーズにいく。

ビジネス・モデル特許
 米国で認められている、ビジネス・モデルの特許が日本で本格的に動き出した。特許庁はこれまで曖昧だったが、はっきりとビジネス・モデルの特許化を認める発言を始めた。ビジネス・モデル特許の認可によって起こる経営環境の変化は広範囲に及ぶ。

  1. SI企業は部分的にもビジネス・モデル登録の業務プロセスをシステムに組み込めなくなる。また、知らないで特許侵害をした場合は、SIと注文ユーザー両方が損害賠償、使用停止、開発システム廃棄処分の対象となりえる。
  2. 経営コンサルタントや業務コンサルタントが、勝手にビジネス・モデルを提案できなくなった。提案内容に特許済みビジネス・モデルの有無の判断と特許回避の方策が必要になる。これも知らずに侵害すれば損害賠償の対象となる。
  3. ITによる実現を前提にしており、すでに先行してビジネス・モデル特許を申請している大企業の業務処理方法の模倣は許されない。また、あらゆるITコンセプトのアプリケーション・システムが特許の対象となりえる。

ビジネス・モデル特許とERP
 ビジネス・モデル特許のインパクトは衝撃的だ。現在、使用中の自社システムがもしビジネス・モデル特許として登録されていたら、特許侵害になる。自社のシステムのどこまでが安全でどこが危険かの判断をしなければならなくなった。今後、新規に構築される企業システムはビジネス・モデル特許の情報なしでは構築することさえ危険である。
 ERPシステムはビジネス・モデル特許については、すでに世界的なレベルで対応してきた。もし、ERPシステムにビジネス・モデル特許侵害があっても、SIやユーザーの責任ではない。ERPベンダーの責任だ。今後、ビジネス・モデル特許が問題になることでERPシステムのグローバル性が再認識されるかもしれない。特許侵害の危険性がない企業情報システムとしてのERPシステムの側面は今後おおきくクローズアップされる。

中嶋 隆

(入稿:2000.1)

このページの最初へ

トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トレンド情報-シリーズ[2000年]