トレンド情報-シリーズ[2000年]

[経営とITソリューション]
[第4回]経営とSFA、CTI

(2000.2)


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21世紀はITの時代
 IT業界において2000年を迎え、1990年代を振り返って見ると90年代は経営コンセプトとパッケージ・ソフトウェアというセット・ソリューションの時代であった。経営コンセプトだけでなく、経営コンセプトを具体的に実現するソリューションとしてのパッケージ・ソフトウェアが欧米から導入された。ERPやSCMといったパッケージ・ソフトウェアだけでなく、営業やマーケティングのためのSFAやCTIのパッケージも多くは欧米で開発されたパッケージ・ソフトウェアである。これらパッケージ・ソフトウェアと経営コンセプトのセット・ソリューションはITの進歩によって、現在も企業経営の改革に大きな影響力を持っている。ITの進歩が実現可能な経営コンセプトを拡大し、拡大した経営コンセプトがさらにITの進歩を生み出す。経営はこれらセット・ソリューションの影響を大きく受け、さらなる経営の具体的改革を可能にする(図1)。

図1

 図1の経営改革のための進歩サイクルが回り続けるためにはITの進歩というサイクルのエンジンが必要である。ITの進歩が経営コンセプトを具体的なソリューションとして実現可能なパッケージ・ソフトウェアを提供する。パッケージ・ソフトウェアは経営コンセプトとセットで具体的な企業経営の改革を可能にする。ITが進歩する限りこの進歩サイクルは回り続け、新たな経営改革を具体的に可能にする。21世紀はまさにITの時代である。

顧客の付加価値の実現
 これまで企業の利益の源泉は「企業が考える付加価値」であった。だが真の付加価値は顧客の付加価値の実現である。顧客が価値あるものと考えなければ企業のサービスや商品は販売できず、付加価値は実現されない。日本の顧客はこれまで「企業の考える付加価値」を押し付けられ、我慢して対価を支払っていた。インターネットが急速に普及する現在では、顧客は世界中の情報にアクセスして、商品やサービスの原価を容易に知ることができる。顧客がどの企業から商品やサービスを購入するかの決定もインターネットを活用することによって、十分な比較情報も入手できるようになった。これからの時代は顧客が企業に「顧客の考える付加価値の実現」を要求する時代である。「企業が考える付加価値」など顧客にとって何ら意味のないものとなってしまった。「顧客の考える付加価値の実現」には、企業と顧客との関係を企業がどのように考え構築していくかが大きな課題となる。顧客を企業発展の永続的なパートナーとして考えるのか、また一時的な購入客としてかんがえるのか。満足度の高い長期的な顧客との関係が企業利益に大きく貢献する事例が米国では多く報告されている。
(注1)顧客(カスタマー)との関係性(リレーションシップ)をいかに構築し管理(マネジメント)していくかが重要な経営課題として浮上してきたのである。 

   また、マーケティングにおいても「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」の元祖D・ペパーズは「今や情報テクノロジーの発達により、企業は顧客一人一人のを把握し、彼らと一対一で対話を続け、個別の仕様に従ってカスタマイズした製品やサービスを提供することが可能になった。これがワン・トゥ・ワン・マーケティングである」と言っている。顧客関係性の構築に営業やマーケティング部門の重要性は増大した。

 これまで企業業務領域において、営業やマーケティング業務は定型的でないためコンピュータ化が難しいい領域と考えられていた。市場の変化に業務形態をめまぐるしく変える営業やマーケティング業務は情報投資の対象としても効果が疑問視されていた。この状況を大きく変えることになったのが1989年にハーバード・ビジネス・レヴューに掲載されたモリアリティとスワルツの論文であった。
(注2)この論文の副題は「生産性は情報技術によって飛躍的に向上する」というもので、多くの企業事例研究により、営業とマーケティングのコストは平均して企業全体のコストの15%から35%であり、企業の生産性向上とコスト削減のために営業とマーケティング部門はシステム投資の回収が十分可能な分野であることを明らかにしたのである。顧客との新たな関係性の構築と管理(CRM:Customer Relationship Management)の要請と情報投資によるコスト削減効果を目的とした営業やマーケティング部門の情報化が急速に進むこととなり、登場したソリューションがSFAとCTIである。

 SFA(Sales Force Automation)は「営業部隊の自動化」である。営業マンの営業活動を支援し営業活動の効率化やコスト削減を目的するソリューションとして登場した。企業と顧客との接点とその関係性の構築は、営業マンが営業活動として担っていた。また、営業部隊に代わってコールセンターで営業活動を行う企業も現れた。通信とコンピュータが融合したコールセンター業務のソリューションとしてCTI(Computer Telephony Integration)が登場した。営業マンが移動して回る営業ではなく、電話やFAXによる営業活動が可能となり、顧客の相談やクレームの対応も迅速にできるようになった。さらにインターネットの急速な普及によりEC(電子商取引)が活発になり、製品情報の提供、見積、受注、配送といった一連の営業活動が従来の営業マンによる処理ではなくコンピュータによる自動処理が可能となった。同じ業務を営業マンが処理するか。コールセンターで処理するか。またECで処理するか。処理規模とコストの差は明らかである。顧客満足と顧客関係性の継続の実現と営業やマーケティング部門のコスト削減のために「人間だけが供給できる顧客満足領域」と「コンピュータによって限りなく自動化できるコスト削減領域」の分析と理解は企業経営にとって重要である。企業の営業部隊はSFAによって効率化され、「人間だけができる顧客満足の実現の役割」を認識し、さらにCTIによって営業活動を補完・強化し「顧客満足と継続的顧客関係性の実現」のため、営業とマーケティングの限りない自動化とコスト削減効果を可能にするECを活用したSFA、CTI、ECの活用方法をうまく各企業で選択してほしい(図2)。

図2

 ITの進歩がもたらすものは、働く人間の「人間だけができる仕事」への回帰であり、企業にとっては「顧客満足と継続的顧客関係性の実現」であり、顧客にとっては限りないコストの削減と効率化による「顧客の考える付加価値の実現」であると考えたい。

SFAとCRMとEC
 日本ではSFAといえば「営業業務の効率化」といった認識しかないと思われるが、米国では多くの企業事例研究によってSFAが登場した。ネットワーク技術によるモバイル・セールスやメール日報というようなものではなく、企業の生産性の向上とコスト削減のための営業とマーケティング業務の実現という根本的な企業経営分析による営業とマーケティングのためのソリューションとしてSFAは登場した。現在SFAは顧客重視の時代背景を受けて、データウェアハウス、データマイニング、CTIさらにインターネットなどの技術を利用したCRM(Customer Relationship Management)の領域に統合されつつある。企業が企業存続のために顧客とどういう関係を構築するかという大きな経営課題のソリューションの一領域としてSFAは大きな意味を持っている。

 21世紀に向かって日本では本格的なEC時代が到来しそうであるが、ECが実現したのは企業と顧客とのコミュニケーション革命であり、企業経営においては生産性の向上とコスト削減のために営業とマーケティングの領域をどうするかという課題に大きくこたえるものとなった。ECの目指すところは営業とマーケティングの限りない自動化とコスト削減効果の実現である。これまで営業やマーケティング部門が行ってきた膨大なコストの業務を限りなく自動化し、コスト削減が可能なECはSFAソリューションの形を今後大きく変えるものとなるであろう。

CTIとCRMとEC
 CTIといえばすぐに思いつくのがコールセンターである。CTIは米国でAT&Tやフォードのテレホンキャンペーンに、アウトバンドによる販売促進が大きな成果を上げたとして注目された。日本では1980年代フリーダイヤルによる通販業務の受け付け業務というインバンドから市場が拡大した。業務代行会社(テレマエージェンシー)が設立されたのもこの頃である。初期の段階はコンピュータと電話は別個のシステムであったが、現在では通信とコンピュータの融合により、またインターネットの進歩によって受け付け業務専門のコールセンターから顧客データの収集、分析のデータウェアハウス、データマイニング、また統計解析手法を駆使した総合顧客管理センターとしての機能を要求されるまでに成長した。顧客志向のCRMやECの影響もあって、SFAのバックアップ機能まで持つCTIが実現しているが、現状まだ多くの企業がCTIをコールセンターの領域で考えている。コールセンター業務に必要とされる教育も十分ではなく、企業を代表するエージェントではなく、単なる受付のオペレーター業務のままである場合も多い。またデータマイニングや統計解析手法を十分に活用した顧客分析ができるコールセンターも少ない。CTIは企業と顧客がどういう関係を構築するかということではSFAと同じであるが、通信を主要手段とする顧客コミュニケーションであることがSFAと異なる。このCTIの領域も営業とマーケティングの限りない自動化とコスト削減効果の実現を目指すECの影響は大きい。企業と顧客との関係性を考えるCRMのコンセプトに統合されるECの進歩に、企業はSFAやCTIの役割をどう組み合わせていくのか。人間の果たすべき役割とコンピュータによる自動化の判断をこれから経営者はITを十分に理解し決定しなければならない。

◇◆◇

注1
  • 「顧客維持率が5%向上すれば1契約当たりのコストが18%低減し、収益は5年間で60%増大した」アメリカのクレジット会社の事例。(「サービス産業のZD運動」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス 1991年1月号)
  • 「平均的なアメリカ企業の売上の65%は現在の満足顧客によってもたらされる」アメリカ経営者協会の報告事例。(中津久晴監修「失われる顧客」電通 1994)
  • 「継続的な関係の満足度の高い顧客は普通の顧客より6倍の再購入をしてくれる」ゼロックスの事例。(「サービス・プロフィット・チェーンの実践法」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス 1994年7月号)
注2:Roland T. Moriarity and Gordon S. Swartz,"Automation to Boost sales and Marketing ,"Harvard Business review, January-February 1989,100-108

参考文献
G・S・ピーターセン「SFA顧客志向の営業革新」東洋経済 1998
森田 進「コンピュータ・テレフォニー新時代」日本能率協会 1998
嶋口 充輝「顧客関係性へのマーケティング」
ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス1997年5月号
中嶋 隆

(入稿:2000.1)

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