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2012年3月8日掲載

London Report(8) 「個人情報」を考える

NTT Capital(U.K.) 岩田 祐一
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 「個人情報」と一口で言うと、そこにはややもすると、非常にセンシティブ(繊細)な響きを伴うことがありますが、「何が公知で、何が公知でないか」「何が個人をアイデンティファイ(定義)し、何がアイデンティファイしないか」という二軸で考えると、極めてその扱いはすっきりするように見えます。
  ここイギリスでは、「日本ならばこれは個人情報だが、こういった形で公知の情報と取り扱われるのか・・・」という思いをすることが、特にインターネットアクセスの経験において、多々あります。今日はそういった事例を2つほど、ご紹介したく思います。

【SCENE-1:インターネット上のクレジットカード情報登録】
郵便番号と住居情報の個人認証活用、そして住民税情報等との密接な紐付け
〜プライバシーすれすれ?の「公知情報」として〜

 当地に来て、インターネットショッピング関連でまず最初に苦労したのが、交通事業者カード(Oystar Card:本レポート(5)でご紹介)にかかるクレジットカード登録でした。
  これは日本と同様、改札通過時のオートチャージ、もしくは、インターネットサイトを通じた随時チャージが可能であり、更には定期券の自動更新も可能です。こういった際に、クレジットカード情報の登録が必要になります。
  しかし、私の場合、このクレジットカード情報登録に四苦八苦しました。

  結論から申し上げると、当地のクレジットカード情報登録においては、そのセキュリティ要件が厳しい場合、住所登録の合致が必須になります。その場合、合致の程度が「完全」でないと、カード情報の登録が完了しないのです。
  私の場合、赴任時に、会社の住所でクレジットカードを作成していました。まず、ロンドン市交通局サイトで、住所欄に、自宅の住所を何度も投入しても、登録拒否される状況が続き、続いて、会社の住所で登録しようとしても、詳細が合致するまで撥ねられる状況が続きました。
  実はここには裏があって、郵便番号と住居情報とが紐づいたデータベースが広く出回っています。このデータベースと、入力した住所情報とが合致すれば、スムーズに行くのですが、このデータベースと異なる情報を入力する限り、すんなりといきません。
  親切なサイトでは、郵便番号を入力すると、当該データベースに基づき、候補となる住居情報がいくつか出てきて、そこから該当するものを選べば、すんなりと行くのですが、私が試した時点でのロンドン市交通局のサイトはその候補表示がされず、試行錯誤をした次第でした。

  尚、こういった郵便番号と住居情報とが紐づいたデータベースが出回っているということは、ある意味、恐ろしいこととも言えます。というのも、郵便番号を入力すれば、その番号に該当する企業名もしくは住居番号の一覧が簡単に入手できる、ということです。
  イギリスの郵便番号は、日本以上に細分化されています。基本コードは「アルファベット1〜2桁(市・郡・地域を表す)+数字1〜2桁(その町名を表す) 数字1ケタ+アルファベット2桁(通り・番地レベルでの細分化)」となっており、郵便番号を入れるとおおよそ、半径数十mの範囲で住所が特定される仕組みとなっています。
  なおこの郵便番号を用いて、地方税(Council Tax)の課税額も検索することが出来ます。端的な活用をすれば、郵便番号を入れるだけで、その地域に住む人の税金レベル(不動産価格に一定連動)がわかり、ひいては所得レベルまで推定することが出来ます。

  ここまで見てきたように、イギリスの住居情報、郵便番号情報は、その人の個人認証をアシストするのみならず、その人の生活環境、生活レベルまでをも、かなりの精度で推し量ることができるものになっています。
  つまり、これらは半ば「公知の情報」の範疇に入るものになるわけです。
もちろんお気づきのように、公のデータベースでは個人名とこれらの情報が直ちに結びついているわけではありません。しかし、「一旦ある人の住むエリアの郵便番号が入手できれば、ほぼ正確な住所、所得・生活水準等を推し量ることが出来る」のは事実です。
  日本でも、云われてみれば、電話番号と住所氏名は(掲載拒否をしない限り)公知ですし、また路線価情報などから、ある程度の資産レベルを推し量ることはできるかもしれませんが、それらが(肝心の氏名は切り離されつつも)より一体となった形になっていて、かつその一体化状況が問題視されていないのが、イギリスであります。

Carte de credit visa + Oyster card
銀行、クレジット、交通カード3枚分の機能を一枚に。電車内の広告。
Photo: photosfing - Flickr

【SCENE-2:インターネットでの駐車場予約】
自動車登録情報も、公知の情報〜所有者名こそ切り離されているものの〜

 もう1つの「個人情報」に関する経験は、インターネットでの駐車場予約でした。
 特に空港設置の駐車場では、長期滞在となることが多く、また飛行機の深夜到着や、日中の到着遅れなども比較的日常的光景であることから、基本的にはクレジットカード等による前払いとなっており、また出庫の際は、自動車のナンバープレートによる確認がなされる形が通常です。

 ある駐車場の予約の際、求められるままにナンバープレートを入力しました。すると・・・
そこには、車の形式、色、排気量、初回登録年度などが一気にずらっと表示されました。つまり、自動車の政府への登録情報がデータベース化され、これを駐車場業者(空港運営業者)も活用している、ということです。

 これも先の住居情報と同様で、「所有者個人名」は、データベースと切り離されているところがミソです。しかしこれが個人名と結び付くと、やはりその人の資産レベル・生活レベルを推し量る1つの有力材料になりえます。

(2つのSCENEから…:個人名を巧みに切り離し、アイデンティファイ確認の一歩手前で寸止めした「公知情報」の広き流通)

・・・この2つの事例から申し上げられることは

  • イギリスでは、政府等保有情報(郵便番号と住居詳細の結びつき、自動車ナンバーと自動車詳細の結びつき)は公知の情報として扱われ、かつデータベースとして流通している。
  • 一方で、これらは個人名とは結びついておらず、個人をアイデンティファイしていないため、「個人情報」という扱いには至っていない。
  • しかしそこに、個人をアイデンティファイさせる仕掛け(氏名入力等)を紐づければ、容易に、生活レベル・所得レベル等を推し量ることが可能な、個人情報化が可能である。

ということです。

 こういった観点、スーパーマーケットのポイントカードの情報活用にも適用されています。当該企業は、ポイントカードにより取得した情報を第三者に転売できることになっていることが一般的ですが、「個人に紐づけず」「あくまでも消費者集団として」のデータとすることによって、そういった転売を容易にしている側面があります。

 また、イギリスは、市中・市外における監視カメラの多さも特筆されることがありますが、これも「個人の肖像が、個人の特定に直ちに結びつかなければ」という前提があるように思われます。

 もちろんこれらは、経済の活性化であったり、商取引の合理化であったり、社会生活の安全であったり、という目的の元に活用されているわけですが、「個人のことを知られたくない」というマインドよりも、「個人のことはある程度知られてしまって当然(それが自然かつベター)」というマインドが勝り、それが一種の社会合意として形成されていないと、成り立ち難いのでは、ということを強く感じました。

・・・イギリスに来てからの様々な体験は「個人情報の何たるか」を改めて考える、良き手がかりともなっています。

次回は、「日本は特殊? 日本のインターネット活用スタイル・欧州からの見え方」をお伝えします。

この記事は、社外の方より投稿いただいたレポートです。 内容に関して情報通信総合研究所は責任を負うものではないことをあらかじめご了承ください。

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