ホーム > Enterprise Evolution 2009 >
Enterprise Evolution
2009年6月掲載

クラウドコンピューティングの潮流(3):
クラウドに関する団体についての動向〜海外編

 前回は、Salesforce.com社のクラウド戦略について取り上げた。今回も引き続き、個別企業の戦略を見ていく予定にしていたが、ここにきて国内外でクラウドに関する団体の動きが目立ってきた。

 そこで、今回と次回の2回にわたって、標準化の動向について取り上げてみたい。初回の今回は海外における取り組みを取り上げる。

海外におけるクラウド関連団体

海外におけるクラウドに関する団体には、主に以下のようなものがある。

海外におけるクラウドに関する団体

 今回は、この中でも注目すべき団体として、セキュリティを活動の主眼としている“Cloud Security Alliance”と互換性などの「オープン性」を掲げている “Open Cloud Manifesto”を詳しく紹介する。

Cloud Security Alliance

 “Cloud Security Alliance”は、クラウドコンピューティングのセキュリティを確保するためのベストプラクティスの利用促進などを目的として設立された団体である。

 この団体の特徴としては、創設メンバーとしてSalesforce.comやHPなどのベンダーの他、RSA SecurityやMcAfeeなどのセキュリティベンダーだけでなく、DuPontやINGなどのユーザー企業が参加している点にある。

 同団体の活動の一環として、2009年の4月に “Security Guidance for Critical Areas of Focus in Cloud Computing”と題した83ページに渡る文書が公開されている。

 この文書には、ガバナンスとリスク管理、情報開示、コンプライアンスと監査、データセンター運用、暗号化と鍵管理、仮想化など、15の分野が定められ、それぞれの分野について取り組むべき課題やガイダンスが明らかにされている。

Open Cloud Manifesto

 “Open Cloud Manifesto”は、クラウドコンピューティングを利用する企業が、特定のベンダーにロックインされることなく、選択の自由や柔軟性を確保できるよう、核となる原則を定めることを目的として設立された団体である。サイトには7ページに渡る声明(Manifesto)やFAQ、そして参加企業のリストが掲載されている。

 そのうち最も重要なコンテンツである声明は、クラウドコンピューティングの定義やその重要性に始まり、クラウドコンピューティングを利用する際の5つの課題、オープンクラウドが目指すもの、そして6つの「オープンクラウドの原則(Principles of an Open Cloud)」がまとめられている。

 クラウドコンピューティングを利用する際の課題としてはセキュリティ、データやアプリケーションの互換性、移植性、ガバナンス、そしてパフォーマンスの監視が挙げられている。

 また、「オープンクラウドの原則」は、標準を定義したり、同質なクラウド環境を作ることを目的としているわけではないと前置きをした上で、顧客の囲い込みを禁じたり、可能な限り既存の標準を利用することや顧客のニーズを重視することを強調している。

 たしかに、どれも重要な点ではあるが、実際にこれらの原則を実現しようとなると、各社の積極的な協力が必要になってくる。その際に気になってくるのは、現時点で参加を表明していない主要なクラウドコンピューティングプロバイダーがいることである。

 参加している企業のリストを見ると、IBMなど大手ベンダーや新興クラウドプロバイダー、そしてコンサルティングファームなど、200社以上の企業が参加していることがわかるが、この中にAmazonやGoogle、Salesforce.com、Microsoftなどの名前は見られない。

 実際には、Amazonなどのプレイヤーがクラウド市場の隆盛に大きな役割を演じているだけに、これらのプレイヤーの関わり方が “Open Cloud Manifesto”の活動に大きな影響を与えることは間違いないだろう。

まとめ

 今回は、“Cloud Security Alliance”と“Open Cloud Manifesto”について取り上げたが、ここに挙げたその他の団体や、ここでは紹介していない団体も含め、それぞれの活動が徐々に活発化してきている。

 それぞれの団体の今後の活動を左右する要素は様々だが、そのうちのひとつとして、“Open Cloud Manifesto”の部分で述べたように、重要なプレイヤーの参加は大きなポイントとなってくるであろう。

 また、現時点では国内企業の参加が確認できていない。日本国内で展開するにあたって意識しなければならない団体については次回で取り上げるが、今後、各社がグローバルに展開していくことを考えているならば、海外での動向も注視していかなければならないだろう。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。