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2009年9月25日掲載

クラウドコンピューティングの潮流(5):
米国における「Government 2.0」の動向

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 9月9日と10日、ワシントンで「Gov 2.0 Summit」というイベントが開催された。イベント名にもなっている「Government 2.0」という言葉は、オライリー・メディア社の創業者であるティム・オライリーが生み出した言葉である。

 ご存じのように、彼は「Web 2.0」という言葉を提唱し、Webの進化に大きな影響を与えた人物である。その彼が、今度は「Government 2.0」を提唱し、政府の在り方にも影響を及ぼそうとしている。

 そこで本稿では、彼の考える「Government 2.0」の理想像をたどりながら、米国政府におけるクラウドコンピューティングの取り組みを紹介する。

「Government 2.0」とは何か?

 先ほど紹介した「Gov 2.0 Summit」が開催される直前、ティム・オライリーはTechCrunchに「Gov 2.0: It’s All About The Platform」という記事を寄稿している(翻訳はここから参照できる)。

 記事のタイトルからもわかるように、オライリーの主張する「Government 2.0」とは、「プラットフォームとしての政府(government as platform)」である。彼は、MicrosoftのOS、Googleの広告、AppleのiPhoneなどを例に出し、プラットフォームの重要性を説いた上で、プラットフォーム志向こそが政府の目指すべき方向だと主張している。

オバマ大統領就任からData.govまで

 オバマ大統領は、選挙期間中から積極的にITを活用することで知られていたが、大統領就任後も、その傾向は続いている。そしてこの動きは、まさに「プラットフォームとしての政府」に向けたものである。

 例えば、オバマ大統領は、当選後、国民から新政権に対するアイデアを募り、さらにそのアイデアを支持する場合に投票を行えるような仕組みを実現するために、Change.govというサイトをオープンした。実は、このサイトは本シリーズ第2回でも紹介したSalesforce.com社のSalesforce CRM Ideasというサービスを利用していて運営されていた。

 また、先ほどのオライリーの記事でも紹介されていたData.govというサイトは、2009年5月に開設されたサイトであり、ここから連邦政府が保有する様々なデータを入手することができる。

 実際にサイトに行ってみると、データの種類やデータを保有する機関などを条件に検索することができ、それぞれのデータもXML形式やCSV形式など、再加工しやすい形式で配布されていることがわかる。

図1:Data.govのカタログページ
図1:Data.govのカタログページ
クリックで画像を拡大します。

出所:http://www.data.gov/catalog

連邦政府CIO Vivek Kundra氏

 オバマ新政権で、このような一連の取り組みを推進してきたのは、初の連邦政府CIOに任命されたVivek Kundra氏である。Kundra氏は、現在34歳。連邦政府CIOに任命される以前は、コロンビア特別区においてCTOを務めていた。

 Kundra氏は、コロンビア特別区のCTO在任中に、州政府の様々な情報にアクセスできるようにするための「D.C. Data Catalog」プロジェクトを推進していた。

 このような実績が評価され、連邦政府のCIOに任命されたものと思われるが、過去の実績を十分に活かし、現在はその影響力を全米に広げている。

そしてApps.govへ

 そのKundra氏が、「Gov 2.0 Summit」が終わって間もない9月15日に、Data.govに続く大きな発表を行った。それが、Apps.govの発表である。

 このApps.govは、各政府機関が必要なアプリケーションを、クラウド上で選択、入手し、利用することができるようにするためのサイトである。

図2:Apps.govのページ
図2:Apps.govのページ
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出所:https://apps.gov/

 NASA Ames Research Centerで行われたKundra氏の会見によると(会見の模様はYouTubeにアップされている)、今回の取り組みの目的として、政府のITコスト削減と環境負荷低減が挙げられている。

 会見では、現在の政府のIT予算は760億ドルであり、そのうち190億ドル以上がインフラへの投資だと説明されていた。また、例えば、国土安全保障省(Department of Homeland Security)はデータセンターを次々と建設していった結果、最終的に23のデータセンターを抱えるまでになってしまったとされている。

 この結果、政府のエネルギー消費は、2000年から2006年の間に倍増してしまったと説明している。

 このような状況に対処するために、Kundra氏、つまり連邦政府が選択したのがクラウドコンピューティングである。クラウドコンピューティングによって、調達にかかる様々なコストを削減し、環境に配慮したIT活用の実現を目指している。

まとめ:日本版Government 2.0は?

 それでは、日本ではいわゆる「Government 2.0」についての動きはあるのだろうか。

 本シリーズ第4回でも紹介したように、日本でも総務省や経産省を中心に、政府でクラウドコンピューティングを利用するための様々な取り組みが行われている。

 最近では、総務省が行っている「スマート・クラウド研究会」の動きに注目したい。この研究会では、「クラウド技術の活用方策」として、

  • 地球環境問題、自然災害、食料問題など地球的規模の課題解決のためのクラウド技術活用方策
  • 電子行政クラウドなど公共分野におけるクラウド技術活用方策

という二点を挙げている。

 現在は研究会が行われている最中なので、まだ結論は見えてこないが、このような取り組みを通して、世界に誇れる「プラットフォームとしての政府」が実現されることを期待したい。

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