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Global Perspective 2011
2011年11月18日掲載

携帯電話を活用した太陽光発電機「IndiGo」〜アフリカでの取組みと電気事情

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年9月27日、英国ベンチャー企業のEight19社が新興国向けにスクラッチカード式の太陽光発電機「IndiGo」の提供開始を発表した。同社は、ケンブリッジ大学からスピンアウトした企業である。

IndiGoによる携帯電話を活用した電気提供サービス

 IndiGoにはシリアル番号が付与されており、利用者は発電機を使いたい期間分のスクラッチカードを購入する。仕組みとしては、スクラッチカード番号と発電機のシリアル番号を携帯電話のSMS(ショートメッセージ)でIndiGoサーバーに送信、パスコードが返送される。利用者はIndiGoに返送されたパスコードを入力すると電気が利用できる。現時点では、2.5Wで携帯電話機の充電および消費電力の低い照明機器での利用が可能である。本稿最下部にも動画を掲載してあるので利用イメージを掴んで頂きたい。

 送電網が未整備の新興国では照明用電気にケロシン、灯油が多く使われている。これらは二酸化炭素が放出されるから環境にも優しくない。また本格的な発電設備を導入するのは初期投資コストが高い。Indigoはプリペイドで安価で利用できるうえに、太陽光発電なので明るい。(図1)

 「IndiGo」はプリペイドのスクラッチカードとSMSを活用することによって初期費用無料、低額でのサービス提供を実現する。Eight19社によると、利用期間分のスクラッチカード購入が可能で、利用料金は1週間1ドルを想定しているとのこと。(初期投資をした場合は約60ドル+利用分の料金がかかる)

 現在、ケニアでトライアルを行っており、今後ザンビア、マラウィ、インドでトライアルを行い、2012年初期に商用開始される予定である。現在トライアルを予定している地域は全て旧イギリス植民地国である。言語の問題や土地鑑があるのだろうが、商用時には他エリアへの拡大も期待したい。

(図1)ケロシンでの照明(左)と「IndiGo」の照明(右)比較
ケロシンでの照明「IndiGo」の照明

Eight19社の「IndiGo」(テーブル右端にあるのは既存のケロシン照明)
Eight19社の「IndiGo」(テーブル右端にあるのは既存のケロシン照明)
(写真提供:Eight19社)

ケロシン

Lighting Africa(アフリカに光を)

 世界銀行のデータによると、全世界で約16億人以上(世界人口の約4人に1人)が電気のない生活をしている。サブサハラ・アフリカでは、現在約6億人が近代的エネルギーを利用できておらず、農村での電気利用率はわずか約2%である。また、貧しい人々にとって電気代が世帯所得の約10〜15%も占めてしまうといわれている。

 世界銀行と国際金融公社(INTERNATIONAL FINANCE CORPORATION:IFC)が主導して「Lighting  Africa」という取組みを行っている。サブサハラ・アフリカに暮らす最大2億5,000万の人々が2030年までに非化石燃料による低コストで安全かつ信頼性の高い照明を基本的なエネルギー・サービスとして利用できることを目指している。

 「Lighting Africa」は、国連が設定した「ミレニアム開発目標(MDGs)」達成に向けた世界銀行の取組みの1つでもある。他にもNGO、民間企業なども「Lighting Africa」に協力し照明機器普及の活動をしている。

【参考動画:世界銀行によるLighting Africaの紹介】

ザンビア、マラウィ携帯電話事情

 今後トライアルを実施する予定のザンビア、マラウィの携帯電話事情について簡単にみてみたい。ケニアについては以前に紹介したので割愛する。

(ザンビア)
携帯電話加入者約622万人。加入率約47%。
ザンビアには以下の3社がある。(2011年6月現在)

1.Airtel Zambia
・シェア約63%
・インドAirtelグループ

2.MTN Zambia
・シェア約37%
・南アフリカMTNグループ

(マラウィ)
携帯電話加入者約338万人。加入率約22%。
マラウィには以下の2社がある。(2011年6月現在)

1.Airtel Malawi
・シェア約59%
・インドAirtelグループ

2.Telekom Networks Malawi (TNM)
・シェア約35%
・南アフリカVodacomグループ

3.Cell Z
・シェア約6%
・Zambiaテレコム子会社

 携帯電話の普及率は、他国と比較して決して高いとは言えない。ザンビア、マラウィともに2003年に国連が制定した「後発開発途上国(Least Developed Countries:LDC)」である。まだ、生活に最低限必要なBasic Human Needs(BHN)も満たされていない地域も多い。

 つまり、まだ携帯電話のSMSを活用して太陽光発電を購入するツールである「携帯電話」を持たない人が国民の半数以上いるのだ。

なお、ザンビアには2007年に設立されたザンビアの携帯電話メーカー「M-Tech」という会社がありサブサハラ・アフリカ初の携帯電話工場を設立し、超低価格端末(ULtra Low Cost Hnadset:ULCH) の製造、販売を行っていることには注目し、今後の成長に期待したい。

【参考動画:ザンビアの携帯電話メーカー「M-Tech」の紹介】

【参考動画:マラウィ農村での携帯電話事情についての紹介】

むすび

 今回のEight19社が提供する「IndiGo」はスクラッチカードを購入後、携帯電話のSMSで送信する仕組みである。発電に携帯電話のSMSを活用することに着目したのは非常に興味深い。一方で、まだアフリカには携帯電話を持てない人々も多くいる。さらには1日1ドル以下で生活している貧困層も多い。彼らは電気も携帯電話以前にBasic Human Needsを満たすことができない状態にいる。

 2011年、日本は東日本を中心に夏の節電対策が講じられた。これから冬に向けて、更なる節電が必要になるであろう。しかし、世界にはまだ16億人以上(世界人口の約4人に1人)が電気のない生活をしていることも忘れてはならない。

電気をめぐる今後の国際社会の動きには様々な観点から注目していく必要があるだろう。

【参考動画:Eight19の「IndiGo」紹介(2011年)】

*本情報は2011年11月15日時点のものである。
本稿執筆においては、Eight19社に写真提供をはじめご協力頂いた。この場を借りて感謝申し上げたい。

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