ホーム > Global Perspective 2011 >
Global Perspective 2011
2011年11月28日掲載

スウェーデン:通信事業者によるモバイルペイメントへの取組み:スウェーデン・クローナの壁を越えられるか

グローバル研究グループ 佐藤 仁
[tweet]

 2011年11月21日、スウェーデンの通信事業者4社がNFCを活用したモバイルペイメントのジョイントベンチャー(以下JV)を設立すると報じられた。
スウェーデンのNFCを活用したモバイルペイメントについて考察してみたい。

スウェーデンも“遠くの親戚より近くの他人”

 スウェーデンの通信事業者TeliaSonera、Tele2、Telenor、3(Tre)の4社でJVを結成する予定。NFCを活用したモバイルペイメントのプラットフォームの共通化を図る予定である。2012年夏を目途に携帯電話によるNFCを活用したモバイルペイメントをスウェーデンで提供する予定である。

 まだ、どのようなパートナー(銀行やクレジットカード会社、メーカなど)と提携するかは現時点では明らかにされていない。恐らくNFC対応SIMカードでの導入であろう。今後は各通信事業者の役割やリーダーライターの設置、ビジネスモデル、銀行やカード会社、リアルの店舗との交渉など解決すべき問題は多数ある。

 また通信事業者でのJVで共通のプラットフォーム活用となると消費者にとっての利便性は高まるが、通信事業者にとっての自社の差別化(例えば、モバイルペイメント利用者への特別サービスの提供による繋ぎ止め等)に注力しないと消費者にとっては「どこの通信事業者でも同じ」ということになってしまう。例えば日本ではNTTドコモが提供するケータイクレジット「iD」はドコモ利用者がドコモの携帯端末のみで利用可能である。これはドコモにとっては自社の差別化・繋ぎ止めになり、ユーザにとっては「iD」を利用できる利便性やポイントをためるなどの付加価値もあるだろう。スウェーデンでも通信事業者にはこのような工夫が要求されてくるようになるだろう。
市場規模となるスウェーデンの人口は約925万人で、既に携帯電話普及率が140%を超えるスウェーデン市場では競争も必至である。

 現在、世界の多くの国で通信事業者が連携してNFCを活用したモバイルペイメントを推進する動きが目立っている。
アメリカのISISに代表されるように、ドイツ、オランダ、デンマーク、ハンガリー、台湾など多くある。かつて筆者はそれらの現象を「NFCサービス普及のカギは“遠くの親戚より近くの他人”」と表したことがある。今回のデンマークもその事例に適用される。

 通信事業者間でのネットワーク共有はよくあるケースだが、今後はNFC分野での協業、プラットフォームの共有化という流れになるのだろう。
通信では国境を超えて国外でサービス展開を行うことはあっても、NFCによるペイメント(決済)分野では国境を超えるのは難しいのだろう。

スウェーデン携帯電話事情

 スウェーデンの携帯電話事情について簡単にみてみたい。
携帯電話加入者約1,317万人。普及率約142%。いまだに成長している。今回提携を発表した4社がメジャーな通信事業者である。
(2011年11月現在)普及率が142%を超えている同市場においては通信事業者にとっても新たな差別化要因が必要である。

1.TeliaSonera Sweden
 ・シェア約46%
・スウェーデンTeliaSoneraグループ

2.Tele2 Sweden
 ・シェア約28%
 ・スウェーデンTele2グループ

3.Telenor Sweden
 ・シェア約16%
 ・ノルウェーTelenorグループ

4.3 Denmark
 ・シェア約10%
 ・ハチソン3グループ

 通信機器メーカのエリクソンが有名であり、ITUが発表した2010年ICT発展度指数では世界2位のICTリテラシーの高い国である。

利用できるのはスウェーデン人のみか?

上述したように、スウェーデンの4通信事業者が連携してJVを設立し、モバイルペイメントを普及させることになる。そのため、恐らく利用できるのは4通信事業者のユーザのみになるのではないかと推察される。
しかし、ここでスウェーデンの「通貨」、「人の移動」、「商取引」について考えてみたい。

 スウェーデンの通貨はスウェーデン・クローナである。
スウェーデンは1995年1月1日に欧州連合(EU)に加盟したが、通貨はユーロでなく、スウェーデン・クローナである。
これはスウェーデンと往来のあるユーロ通貨圏の欧州の人にとっては非常に面倒だ。
スウェーデンやデンマークなどユーロを利用しない国に行く度に両替が必要である。
ちょっとした小銭での買い物ならモバイルペイメントで済ませたいところである。

 私事で恐縮だが、かつて欧州(ユーロ圏)に在住していた時に、スウェーデンに仕事で何回か行く機会があった。その際も毎回両替をしていた。当然ユーロ圏内ではスウェーデン・クローナは利用できない。次回来た時にまた使うだろうと思い、財布の中でスウェーデン・クローナは眠っていた。そのようなユーロ通貨圏在住者は多いはずである。欧州からスウェーデンまで出張で行く場合、日帰りも可能である。両替もしないでクレジットカードだけで済ますことも可能だが、ちょっとした買い物に「小額なお金」が必要なものだ。その際に、イチイチ両替したスウェーデン・クローナを利用するよりも、モバイルペイメントでの決済がどこでも利用できたら、利用者の拡大と利便性の向上に繋がる可能性が高い。当然、為替や規制など解決すべき問題は多くあることも事実だ。

 日本からスカンジナビア航空でコペンハーゲン(デンマーク)まで行き、そこから電車でスウェーデンの「マルメ駅」まで約40分で行ける。夜にマルメに到着すると、両替場所やATMを探すのに一苦労する。日本を出てからスウェーデンの第3の都市マルメ(人口約30万人で決して大きな都市ではない)に到着するまでスウェーデン・クローナが入手できないことも多い。
そのような時に簡単な買い物やタクシーなどはモバイルペイメントで支払いができると非常に便利だし安心できるはずだ。これは日本人だけでなくユーロ圏在住者でも同じ気持ちではないだろうか。

(夜のマルメ中央駅)
夜のマルメ中央駅

 なおデンマークの通貨はデンマーク・クローネである。デンマークとスウェーデンの往来は歴史的にも非常に活発である。そのデンマークともNFCによるモバイルペイメントの相互利用は大きな需要があるのではないだろうか。デンマークでも2011年6月に通信事業者がモバイルペイメント推進に向けたJV設立が報じられたばかりである。

 スウェーデンだけでは、人口約952万人であるが、近隣の欧州諸国のモバイルペイメントと相互に連携することにより各国での利用者増加も期待できる。

 「小銭が不要で、簡単・便利」というモバイルペイメントの原点にかえって利用者目線で考える必要があるのではないだろうか。

 今後スウェーデンにおいてどのような施策が講じられるか現時点では未定な部分も多いが、欧州域内の他国のJVとの連携も視野に入れたモバイルペイメントを推進していくことも考慮に入れるべきではないだろうか。

 今後も各国の通信事業者のNFC、モバイルペイメントへの取組には引き続き注目していく必要がある。

*本情報は2011年11月21日時点のものである。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。