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Global Perspective 2012
2012年12月25日掲載

多様化するモバイルコミュニケーションの手段:求められる変化への対応

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁
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2012年12月3日でSMS(ショートメッセージサービス)が最初に送信されてから20年を迎えた。日本では1990年代後半から通信事業者が提供する携帯電話でのメール(i-modeメールなど)の利用が普及していたためSMSを利用する人は少ないので、あまり馴染みがないかもしれない。海外では携帯電話でのコミュニケーションの手段としては現在でも一番多く利用されている。近年のスマートフォンの普及に伴って、SMS以外にも様々なコミュニケーション手段が登場してきた。

20年目を迎えるSMS(ショートメッセージ)

1992年12月3日、英ボーダフォン・グループの通信網を使って携帯電話に送られた「Merry Christmas」というメッセージが最初のSMSである。SMS自体は1984年にフィンランド人のマッティ・マッコネンが、GSM携帯電話のサービスとして発案していた。

現在ではどのような携帯電話機でもSMS機能は搭載されている。そして世界中の通信事業者がSMS向けの様々な料金プランを提供している。
 これからも携帯電話の普及に伴って、SMSの送信量も右肩上がりに年々増加している。現在、全世界で1年間に約7兆通のSMSが送信されている。1秒間に20万通以上SMSが送信されていることになる。2016年には9兆4000億になると予測されている。そしてSMSは全世界で1,000億ドルの収入を生んでいる。世界の通信事業者にとっては重要な収入源だ。

(図1)SMSの利用料と携帯電話普及数の経緯と予測

(図1)SMSの利用料と携帯電話普及数の経緯と予測

(The Economist 2012年12月3日より引用)

新たに登場してきたモバイルでの様々なコミュニケーション手段

2007年にiPhoneが登場してから世界中の携帯電話はスマートフォンが主流を占めるようになってきた。2012年にはEU主要5か国でのスマートフォン普及率は55%を超えた(※1)。
 それに伴って、様々なメッセージアプリケーションが登場してきた。従来はパソコンで利用していたSkypeのようなVoIPもスマートフォン向けのアプリケーションを提供し、FacebookやTwitterのようなソーシャルメディアでもモバイル経由でメッセージのやり取りができるようになった。Gmailのようなフリーメールもモバイルで利用できるようになった。さらにWhatsApp、Viber、WeChat、Go SMS Pro、カカオ、LINEといったメッセージアプリもモバイルでのコミュニケーションの手段としての地位を確立している。

このような新たなメッセージアプリは全世界で多くの人に利用されるようになった。基本的には無料でダウンロードできるので、1人で複数のアプリを用途や相手に応じて使い分けている。
そして同時にSMSの収入に依存していた通信事業者にも影響を与えるようになった。韓国では国民の4人に3人がカカオトークを利用しており通信事業者のSMS収入に打撃を与えた。フィリピンではFacebookの登場で1人あたりのSMSの送信量が2010年では1か月に660通だったが、2011年には400通まで減少してしまった。

SMSよりメッセージアプリを好む

SMS自体がすぐに消滅することはない。新興国を中心にこれからも携帯電話の契約者数は増加していく。全員がスマートフォンのようなハイエンド端末を所有しているわけではない。しかし、スマートフォンで多くのメッセージアプリが登場することによって、若者を中心にそれらを利用してコミュニケーションを行う人も増加していく。では海外ではどうしてSMSよりもメッセージアプリの方が好まれる傾向にあるのだろうか。

(1)プリペイドで電話番号が頻繁に変わる
プリペイド方式が主流の海外では人々は頻繁にSIMカードを買い替える。それによって携帯電話の番号が頻繁に変わってしま う。ビジネスで利用している人でもそのようなことがよくある。そうなるとSMSをコミュニケーション手段としていると、いつのまにか相手の番号が変わってしまっていることもよくある。そして通信事業者も1年中キャンペーンを行っているので、人々も躊躇なくSIMカードを買い替える。

(2)料金が気になるSMS
 スマートフォンを所有していても、日本のように全員が3Gや4G(LTE)データ通信の契約をしているとは限らない。スマートフォンを所有しているがプリペイドのSIMカードでSMSと音声通話のみのプランで利用している若者は多い。そしてインターネットはWiFiで接続して利用している人が多数いる。1通につき料金が発生するSMSよりも、WiFi接続可能な環境でまとめて送受信が行えるメッセージアプリの方が安心して利用できる。

(3) テキスト以外にも送信できる
 SMSはショートメッセージサービスであり、「テキスト」の送受信を行うサービスである。一方、現在のメッセージアプリの多くは写真や音声、かわいいスタンプの送信もできる。日本では以前から絵文字やデコメール、写真添付のメールが当たり前だったが、海外で白黒のテキストのみを送付していた人からすると、画期的なことである。

メッセージアプリを提供する通信事業者

SMSが枯渇していくことを見据えた通信事業者がスマートフォン向けにメッセージアプリの提供に乗り出している動向にも注目である。自社のユーザのみならず、世界の誰もが無料でダウンロードできる。自社の限られたユーザだけではなく、全世界に向けてサービス提供を開始している。
 海外ではプリペイドが主流のため、利用者が頻繁に携帯電話会社を乗り換えるため、携帯電話会社や電話番号に対する愛着はほとんどない。全世界の利用者にアプリを提供することによって、世界中のどこの通信会社のSIMを利用していても、メッセージアプリは自社のアプリを利用してもらうことによって、新しいブランドの確立とマーケティングも可能になるだろう。ターゲットも自国の限られたユーザだけでなく、最初から全世界を想定することが可能だ。
 これからは自社の携帯電話契約者数よりもアプリ利用者数の方が多くなるという時代も来るのではないだろうか。今後の通信事業者のビジネスモデルに注目である。

(1)T-Mobile USA「Bobsled」
 2011年4月にはアメリカのT-Mobile USAが「Bobsled」というメッセージアプリを提供開始している。iPhoneとAndroidの両方に対応しており音声通話やテキストメッセージが無料で利用できる(※2)。T-Mobile USA以外の利用者でも利用可能であるが、2012年5月時点で100万人の利用者がいるが、95%がT-Mobile USA以外の利用者である。T-Mobile USA自身も“Anyone, anywhere in the world, on any network can use Bobsled.”(世界中のどこにいても誰でも、どのネットワークでもBobsledが利用できる)を謳い文句にしている。

(2)Telefonica 「TU Me」
 スペインを中心に欧州、中南米で事業展開を行っている通信事業者テレフォニカのグループ会社Telefonica Digitalはメッセージアプリ「TU Me」を2012年5月に提供開始した(※3)。iPhoneとAndroidの両方に対応しており、音声通話、テキストメッセージ、写真や地図を使った位置情報の共有、タイムライン検索などが無料で利用できる。同社は2009年に買収したVoIP事業者「Jajah」を中心に短期間で開発した。

求められる市場の変化への対応

メッセージアプリはこれからも多様化し多くのサービスが登場してくるだろう。しかしあまりにも多くなりすぎてしまっているため、ユーザも利用するアプリを集約していく可能性が高い。
また、現在は多くのアプリが無料でダウンロードできるため、提供者側は新たなビジネスモデルを構築しないと収益が見込めず、事業推進していけない。既にいくつかのVoIP事象者は収益悪化のため事業撤退している。

遠くない将来には現在ほど多くのメッセージアプリは市場に残っていないかもしれない。また新たなサービスが登場して市場の構図も大きく変化しているかもしれない。どのような状況になるか予測することは難しいが、いずれにせよいつまでもSMSのみに依存して市場の変化に対応できない事業者は市場から淘汰されてしまうのではないだろうか。

※1 スペイン63.2%、英62.3%、仏51.4%、伊51.2%、独48.4% “EU5 Smartphone Penetration Reaches 55 Percent in October 2012”(2012年12月17日)
http://www.comscore.com/Insights/Press_Releases/2012/12/EU5_Smartphone_Penetration_Reaches_55_Percent_in_October_2012

※2 Bobsledアプリ間だけでなくアメリカ、カナダ、プエルトリコの固定電話にも無料で通信ができる。PCでも利用が可能。Facebookとの連携も行っている。
http://bobsled.com/#!/home

※3 「TU Me」http://tumeapp.com/en/

【参考動画】T-Mobile USAが提供するBobsled紹介動画

【参考動画】Telefonicaが提供するTU Me紹介動画

*本情報は2012年12月25日時点のものである。

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