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2012年2月29日掲載 |
「サイバー戦争」(Cyber warfare)という言葉が目立つようになってきた。 サイバー攻撃およびサイバー戦争は、インターネットが登場して以来、問題になっている。そしてここ数年でグローバル社会の脅威として存在感を出してきているが、既存の安全保障問題と異なり顕在化されていない部分が多い。本稿においては、冷戦前、冷戦期、冷戦後の紛争、軍の形態と比較しながら、アメリカの政治学者モスコスのフレームワークを活用しながら「サイバー空間」での新たな戦争について考えてみたい。 サイバー戦争とモスコスのフレームワーク新たにグローバル社会に登場してきたサイバー戦争を過去の歴史の流れの中で位置付けてみたい。サイバー戦争は既存の安全保障と比較してまだ不明瞭で解明されていない点や枠組みが定まっていないケースも多く非常にわかりにくい。 本稿では米国の政治学者モスコス(Charles Moskos 1934-2008)のフレームワークを用いて、新たなサイバー空間では軍の在り方や戦争の形態がどのようになるのか変数をあてはめて考察を試みたい。 モスコスは「The Post Modern Military: Armed Force after the Cold war」(Oxford University Press, 2000)の第2章「Toward a Postmodern Military: The United States as a Paradigm」(P15) において、「Armed Force in the Three Eras: The United States」というフレームワークで軍、戦争の在り方を以下の3時代ごとに定義している。
これらのフレームワークを元に、新たな変数の追加とサイバー空間での在り方を検討してみたい。 なお、2010年5月に防衛省より発行された「防衛省・自衛隊によるサイバー攻撃対処について」の中で”報道ベース”ではあるが、サイバー戦争の事例として1999年のセルビアが最初になっていることから1999年以降を「サイバー空間」と設定する。 (表1)モスコスの「モダン・ポストモダンの軍」のフレームワークにおける「サイバー空間」
むすびインターネットは、簡単に世界中の情報にアクセスし、情報発信を行うことができることが大きな特徴である。インターネットの原型は冷戦期に核攻撃をうけても通信を維持することが可能とされるネットワークを目的としてアメリカで開発された経緯がある。そしてインターネットは冷戦終了後、1995年にWindows95がマイクロソフトから販売されて以降、飛躍的に世界中で利用されるようになった。 冷戦が終結し、事実上アメリカが国際社会の覇権を握っている。そして中国がGDPで日本を抜き、経済的に台頭してきている。米中はビジネス上の経済協力関係は維持しているが、イデオロギーは異なる。現在、インターネットは「社会を変革するツール」になりつつあり、「ネット社会」という空間をめぐって新たな国際関係が幕を開けようとしている。インターネットには良い部分だけでなく、影の部分もある。今後も国際社会がサイバー空間の問題に対して、どの国家、国際機関が主導してどのように法律や条約を規定して対応するか注目していく必要がある。さらには日本を含めた各国の国内法の整備も急がれる。 21世紀が10年以上経った現在においても、世界には核兵器を保有する国が存在する。しかし冷戦期を通じて、核兵器が使用される可能性のあるリスクとなったのはキューバ危機など数える程である。核兵器を利用することによる人類滅亡の恐怖が抑止力として働いていたからだ。しかし非対称戦争であるサイバー攻撃において抑止力となる要素が難しい。実際日本でも既に多くの官民がサイバー攻撃の被害に遭っている。 サイバー戦争はかつての物理的な戦争と異なり、定義、敵の特定、報復、防衛手段、国際社会での法的対応、国際協力において明確になっていない要素が多い。 サイバー攻撃がリアルな戦争に発展するにあたってはどのような経緯を辿るのか、そのケースはまだ見当たらない。またそれらに対抗すべく国際社会の法律、条約、同盟、レジームも制定されていない。 今後の国際社会の検討が早急に求められてくる。 (参考)「The Post Modern Military: Armed Force after the Cold war」(Oxford University Press, 2000) 第2章「Toward a Postmodern Military: The United States as a Paradigm」(Charles Moskos) *本情報は2012年2月27日時点のものである。 |
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