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Global Perspective 2012
2012年10月25日掲載

ドバイメトロのモバイル対応:小さなイノベーションの積み重ねに向けて

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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2012年10月13日、ドバイ道路交通当局(Roads & Transport Authority:RTA)はNFCに対応した携帯電話を活用して公共交通機関に乗車できるパイロットを開始した。2013年半ばの商用化を目指している。

NFCに対応した携帯電話でドバイの公共交通機関(Dubai Metro、公共バス、水上バス)に乗車できるようにする仕組みで、既にドバイで導入されているNolカードの機能を携帯電話のアプリで利用するものである。日本におけるJR東日本が提供するSuicaを携帯電話で利用するモバイルSuicaと同じイメージである。今回のパイロットに伴い、UAEの通信事業者Etisalat、Duとも協力を行っていく。

(図1)モバイルでの乗車イメージ
(図1)モバイルでの乗車イメージ
(出典:RTA)

公共交通機関の利用促進につながるか

ドバイでは通勤時間帯の道路は渋滞が凄い。2006年3月に、交通渋滞を解消することを目的として地下鉄建設と道路拡張に100億ドル(約8,000億円)以上を投資したと報じられ、2009年9月、日本の企業も建設に関わったドバイメトロが開設された。
 それでもドバイでは多くの人がいまだに車で移動している。
 今回、ドバイにおいてモバイルを活用した公共交通機関への乗車サービスを開始したとしても、それだけで多くの人が車をやめて、公共交通機関を利用するとは考えにくい。モバイルで乗車することによって、もっと利用者が利便性やお得感を感じるようなサービスの提供の検討が必要になるのではないだろうか。日本のSuicaのように「駅ナカ」で買い物にも使えてポイントが溜まるようなサービスの仕組みを提供することによって、利用者が公共交通機関をモバイルや既存のNolカードを利用するモチベーションが向上する施策に期待したい。日本でJR東日本がSuicaで展開しているビジネスモデルなどは参考になるのではないだろうか。

次世代の発展に向けた小さなイノベーションの積み重ね

ドバイでは現地アラブ人のほとんどはスマートフォンを利用している。スマートフォンの普及率もUAEで61%と非常に高い。一方で、海外からの大多数の出稼ぎ労働者はシンプルなフィーチャーフォンである。携帯電話普及率も153%と非常に高い。1人で複数枚のSIMを保有している。携帯電話事業者にとっても現在はスマートフォン普及に伴いデータ通信収入の増加で業績は好調だが、成長の観点では成熟市場である。新たなビジネスの収益が必要である。
ドバイは周辺の中東諸国や他のUAEを構成する首長国よりも、石油埋蔵量の少ないことから石油依存型経済からの脱却を志向して、産業の多角化を推進してきている。金融や流通、観光に注力してきた。
とはいえドバイがUAEの主要産業は石油である。しかし長期的視野で見ると石油もいずれ枯渇する。その時を睨んでドバイは車から公共交通機関を利用するように市民を啓蒙していく必要があるだろう。その際にも、公共交通機関を利用するモチベーションとなる付加価値が欲しいものだ。
石油がいずれ枯渇することはわかっている、車での移動では渋滞することもわかっている、それでも車を利用する人々を公共交通機関へ取り込むために、何かしらの工夫が求められる時代になってきている。
それは、公共交通機関の利用促進ではなく、電気自動車の普及かもしれない。いずれにせよ長期的ビジョンでの戦略が必要になってくる。

ドバイ(UAE)だけでなく、中東においてはまだ車中心の社会が続くだろう。これは地理的、社会的な要因も強いので一朝一夕には解決できない。
しかしいずれ石油は枯渇する。その時に備えて、新たな生活に適用し、収入源を確保しておく準備と心構えが必要である。いつまでも石油とオイルマネーだけに依存した国家の繁栄は続かない。持続的発展に向けた技術やサービスのイノベーションとそれに伴う雇用創出が求められてくる。
今回のモバイル対応のような「小さなイノベーションの積み重ね」が中東において次世代の産業発展の布石になることを期待している。
それは中東だけでなく全世界のあらゆる産業で共通していることである。

【参考動画】ドバイメトロ

(参考)

*本情報は2012年10月16日時点のものである。

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