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Global Perspective 2013
2013年7月23日掲載

新モバイルOSに集う通信事業者

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年7月、南アフリカの通信事業者MTNが新しいモバイルOS「Ubuntu Phone OS」のCarrier Advisory Groupに加盟した。現在のスマートフォンOS市場はGoogleのAndroidとAppleのiOSで9割を占めている。

さらにマイクロソフトのWindows Phone OSや、BlackBerryなど既存のプレーヤーが存在している。そのようなスマートフォンOS市場に新たに参入しようとしているモバイルOS陣営が4つある。「Firefox OS」、「Ubuntu Phone OS」、「Sailfish OS」、「Tizen」である。

それらの多くは通信事業者や端末ベンダーなどが新モバイルOSの団体に参画して自らの要求をOSの技術仕様に取り込もうとしたり、新たなビジネスモデルを検討しようとしている。

新モバイルOSに何を期待しているのだろうか?

 新モバイルOSの4つの陣営に端末ベンダーや通信事業者が参画しているが、それぞれのステークホルダーは何を期待しているのだろうか。

(端末ベンダー)
 端末ベンダーは自社で新OSのデバイスを開発する際に多くの仕様や情報をリリースすることが可能であるから、このような新モバイルOSの団体に所属することだろう。またこれらの団体に所属するからと言って、その新OSを利用して新たなデバイスをリリースする必要はないだろう。むしろ、そこから得た技術情報を元に「自社では開発をしない」という選択肢を採ることもできる。新たなOSを用いて端末を開発することは端末ベンダーにとっては技術的、人的リソースを考慮しても相当な負担であることから、その新OSのデバイスで収益性が見込めないと判断したら「新OSを利用したデバイスは開発しない」という経営判断も可能である。端末ベンダーにとって重要なのは新OSがどの程度、新しいデバイスを開発しやすいか、そして市場に受容される(売れる)か、ということである。世界中で大量の出荷台数が期待され、利益を確保できるかどうかが重要である。

(通信事業者)
 それでは通信事業者は新モバイルOSの団体に所属することによって本当にメリットがあるのだろうか。現在、世界中の通信事業者が扱っているスマートフォンのほとんどがAndroid、iOS、Windows Phoneである。それらはGoogle、Apple、マイクロソフトがOSを提供している。そこには通信事業者の要望が反映されることは多くない。OSを開発する方も世界中のあらゆるステークホルダーの要求を取り入れることはできない。新しいOSでも、それは同じであろう。つまり同じOSを採用したスマートフォンであっても通信事業者によって提供するサービスが異なり、それにともなって要求する仕様も異なる。そしてユーザの立場で見ると、既存のOSであれ、新しいOSであれ、スマートフォン上で利用するサービスに大きな差異はない。すなわち、電話、ショートメッセージ(SMS)といった基本機能と動画再生、ソーシャルメディア、ゲーム、サイト閲覧などが利用できれば良い。通信事業者が独自のサービスを提供するとしても特定のOSでしか提供できないサービスであれば、そのサービスがユーザに普及することは少ないだろう。要はどのようなサービスであれ、それはAndroidでもiOSでも新しいOSでも動くことがサービス普及にとっては不可欠である。まして新しいOSはこれから本当に市場で普及するかどうか不明であることから、新しいOS上でのみ動作するサービスを通信事業者が提供することはリスクが高すぎる。結局のところAndroidとiOSがスマートフォン市場で9割を占めている現状においては、そのプラットフォームを無視することはできない。

新モバイルOSに集う端末ベンダーや通信事業者

各モバイルOSに集うステークホルダーと近況を見てみよう。

(1)Firefox 
 Firefoxは新モバイルOSの中で既に端末が2社からリリースされており、今後の具体的な市場投入スケジュールも明らかにされている。

(Telefonicaによるスペイン、中南米市場での販売)
 スペインTelefonica は2013年7月2日から、「Firefox OS」を搭載した初のスマートフォンである中国ZTE製「ZTE Open」を発売開始。価格は2年契約付きで69ユーロ(約9,000円)。コロンビアやベネズエラでも販売を予定している(参考レポート)。

(ドイツテレコムによる欧州市場での販売)
 ドイツテレコムは2013年7月12日から、ポーランドにおいてFirefox OS搭載のスマートフォン「ALCATEL ONE TOUCH Fire」を発売する(※1)。ドイツテレコム傘下のT-Mobile Polandで7月12日からはオンライン、15日からはポーランド国内の850店舗で発売。ドイツテレコムでは、同社のセカンドブランドであるcongstarの商品としてドイツでも「ALCATEL ONE TOUCH Fire」を販売。ドイツテレコムのグループ会社でハンガリーのMagyar Telekom、ギリシャのCOSMOTEでも2013年秋に販売を予定している。

Firefox OS開発に興味を示している主要端末ベンダー、メーカー(4社)

Alcatel Onetouch クアルコム
ZTE LG

FirefoxOS採用を表明している主要通信事業者(14社)

Telefonica(スペイン)T-Mobile(ドイツ)
Telenor(ノルウェー)America Movil(メキシコ)
テレコムイタリア(イタリア)チャイナユニコム(中国)
KDDI(日本)Sprint(アメリカ)
Singtel(シンガポール)Etisalat(UAE)
KT(韓国)Vimpelcom(ロシア)
Smart(フィリピン)TMN(ポルトガル)

(出典:Mozilla)

(2)Tizen
 2013年7月初旬にはTizenの開発が遅延しているのではないかとも報じられた(※2)。しかし2013年7月9日にTizen Associationは、「Tizen」向けアプリの開発コンテスト「Tizen App Challenge」を開催することを発表した(※3)。Tizen向けに優秀なアプリを募り、選考するコンテストで、賞金総額は404万ドル(約4億8,500万円)。ゲーム部門の大賞には20万ドル(約2,000万円)、その他部門の大賞には12万ドル(約1,200万円)が贈呈される。7月3日から最新の開発環境(SDK 2.2β版)の提供が開始された。アプリの応募期間は11月1日までで審査は11月4日〜25日で、12月に受賞者が発表される。授賞式の開催は2014年になる。
 このように端末リリースに向けて開発者やコンテンツプロバイダーを惹き付けるためにアプリ開発コンテストを実施している。現在、サムスンが端末を供給しNTTドコモが販売することが報じられているが、それ以外の端末ベンダーや通信事業者の動向は表に出てこない。「Tizen Association」には日本の端末ベンダーも参画しているが、現状のリソース(資金、人)では新たなOSでの端末開発は厳しい状況だろう。

Tizen Associationに加盟している主要端末ベンダー、メーカー(6社)

サムスンインテル
富士通Huawei
パナソニックNEC

Tizen Associationに加盟している主要通信事業者(6社)

NTTドコモ(日本)KT(韓国)
Orange(フランス)SK(韓国)
Sprint(アメリカ)Vodafone(イギリス)

(出典:TIZEN Association)

(3)Ubuntu
 イギリスのCanonicalが主導している「Ubuntu Phone OS」では世界の通信事業者11社がCarrie Advisory Group(CAG)に参加している。CAGでは新OSの技術仕様などが開示されたり、定期的なフォーラムで様々な議論を行っている。またCAGに参画すると、メンバー以外のキャリアよりも6カ月先に同国の市場でUbuntu端末を販売することが可能となる(韓国は3キャリアがCAGメンバーであることから、どのような販売戦略をとるのか注目)。一方で、Ubuntuを搭載したデバイスをリリースすることを表明した端末ベンダーの名前は見かけていない。

Ubuntu Carrie Advisory Groupに加盟している主要通信事業者(11社)

チャイナユニコム(中国)T-Mobile(ドイツ)
Everything Everywhere(イギリス)KT(韓国)
LG U Plus(韓国)MTN(南アフリカ)
ポルトガルテレコム(ポルトガル)Smartfren(インドネシア)
SK(韓国)テレコムイタリア(イタリア)
Verizon(アメリカ)

(出典:Ubuntu)

(4)Sailfish OS
 ノキアで「MeeGo OS」を開発していた社員らがフィンランドで立ち上げた「Jolla」が開発した「Sailfish OS」は2013年末に端末価格は399.99ユーロ(約5万円)で販売される予定である。またフィンランド3位の通信事業者DNAが導入を決定している。現時点ではデバイスをリリースする端末メーカー名は明らかにされていない。

船頭多くして船山登るにならなければよいが

通信事業者の多くは新しいモバイルOSで自らの要求する仕様を搭載してもらうためにモバイルOSの団体に参画している。通信事業者は以前からこのように集う。2010年には通信事業者24社が集まって、アプリを配信するプラットフォームを立案・規定するために「WAC(Wholesale Applications Community)」を設立したことがある(※4)。WAC自体も通信事業者や端末ベンダーで集まった「JIL(Joint Innovation Lab)) と「OMTP(Open Mobile Terminal Platform)」 の2つの団体が統合したものである。
多くの通信事業者が新しいモバイルOSに期待しているが、それぞれ自らの要望を強調することによって、船頭多くして船山に登ることにならなければ良いだろう。

*本情報は2013年7月20日時点のものである。

※1 Deutsche Telekom(2013) Jul 11, 2013, “European launch of Firefox OS Smartphone at Deutsche Telekom”
http://www.telekom.com/media/company/190078

※2 「サムスン、Tizen搭載スマホの開発が難航。リリースは予定より遅れる見通し」(2013年7月3日)http://www.gizmodo.jp/2013/07/tizen_1.html
「サムスン、初の「Tizen」搭載スマートフォンのリリースを延期か」(2013年7月5日)
http://japan.cnet.com/news/service/35034298/

※3 Tizen(2013) Jul 9,2013, “Tizen App Challenge is now open! ” https://www.tizen.org/blogs/bdub/2013/tizen-app-challenge-now-open

※4 2011年2月には2011年内には8事業者が商用開始するとアナウンスはされた。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110215/357186/
https://www.wacapps.net/

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