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Global Perspective 2013
2013年8月6日掲載

Firefox OSスマートフォンは中南米のスマートフォン市場を変えるか

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

スペインの大手通信事業者であるTelefonicaは2013年8月1日、同社が中南米で展開する傘下の携帯電話事業者MovistarがコロンビアとベネズエラでMozillaが提供する「Firefox OS」を搭載するスマートフォンを同日より販売開始することを発表した(※1)。またTelefonicaは第4四半期中にブラジルでも販売を開始する予定を明らかにしている。

中南米にやって来た「Firefox OS」スマートフォン

 Telefonicaは「Firefox OS」搭載スマートフォンをスペイン市場では2013年7月から販売開始していた。またドイツの通信事業者ドイツテレコムも2013年7月から同社が展開するポーランドで販売を開始している。

今回、コロンビアとベネズエラで販売される「Firefox OS」スマートフォンは、中国ZTE製「ZTE Open」と中国TCL Communication Technology製「ALCATEL ONE TOUCH Fire」の2機種。コロンビアでの販売価格は両機種ともに19万9,900コロンビアペソ(約1万円で契約パターンによって販売価格は異なる)。 中古端末が多く、プリペイドが主流の両国においては決して安い端末ではない。

Telefonica以外にも「Firefox OS」スマートフォン導入に興味を示している通信事業者は世界で14社いる。日本ではKDDIが導入に強い関心を示している。その中でもTelefonicaは既に3ヶ国で販売を開始していることから、一番積極的に「Firefox OS」スマートフォンを導入している。続いてドイツテレコムである(参考レポート)。

(図1)ALCATEL ONE TOUCH Fire

(図1)ALCATEL ONE TOUCH Fire

(出典:Telefonica)

Telefonicaにとっての中南米市場

Telefonicaはスペイン最大手の通信事業者で欧州(スペイン、イギリス、ドイツなど)以外では中南米市場は重要な市場である。同社は中南米市場15カ国で事業展開しており、同市場での加入者数が約2億1,300万で、平均加入率は23%である。Telefonicaグループの加入者数全体のうち67%が中南米である。さらにTelefonicaの収入のうち51%が中南米(うち23%がブラジル)で、OIBDA(減価償却前営業利益)の50%(うち23%がブラジル)が中南米であることから、中南米市場はTelefonicaの事業にとって非常に重要な地域である。

Telefonicaが事業展開する中南米市場はブラジル以外は、全てかつてスペインの植民地だった国である。そのためスペインの通信事業者のTelefonicaが圧倒的に強く市場で受け入れられているかというと、そうではない。今回Telefonicaが「Firefox OS」スマートフォンを導入するコロンビアとベネズエラではそれぞれ市場シェアは2位である。コロンビアには1位のClaro Colobia(シェア61.2%)、ベネズエラには1位のMovilinet(同47.6%)が存在しており、Telefonica(地元ブランド「Movistar」)は苦戦を強いられている。特にコロンビアではシェアは2倍以上の差をつけられている。ブラジル、チリ、ペルーでは市場シェアは1位だが、ブラジルではTIM(シェア26.6%)、チリではEntel PCS(同37.5%)、ペルーではClaro Peru(同43.8%)と競合事業者とのシェアは僅差である。

(表1)Telefonica(Movistar)の主要な中南米諸国での
加入者数と同国シェアおよび順位

(表1)Telefonica(Movistar)の主要な中南米諸国での加入者数と同国シェアおよび順位

(出典:Telefonica資料、当局資料を元に筆者作成)

「Firefox OS」は中南米でスマートフォン普及の起爆剤になるのか?

中南米市場でのTelefonicaユーザのうち14%がスマートフォンを利用している。14%しかスマートフォンを利用していない、つまり残り86%は今でもフィーチャーフォンを利用している。中南米市場では中古端末が多く流通しており、その中にはスマートフォンも多数ある。AndroidとiOSがほとんどである。そのような市場で新しいOSを投入すること自体が非常にチャレンジングではある。それでも、86%がフィーチャーフォンを利用している市場であることから、新しいOSであっても戦える余地はまだあるかもしれない。

一方でユーザがスマートフォンで利用しているアプリケーションはWhatsAppやLINEのようなメッセンジャーサービス、YouTubeのような動画閲覧、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアである。それらはOSが何であれ、多くのスマートフォンで利用できるだろう。それら基本的なサービスやアプリケーションが利用できない端末はユーザも購入しない。つまりAndroidやiOSといった既存のOSでも利用できるアプリケーションがほとんどで、「Firefox OS」であることの強みが活かされるとは言い難い。端末の販売方法も決して目新しいものではない。前途多難であるかもしれない。

Telefonicaが抱えている中南米市場は新しいOSのスマートフォンを投入するにあたっての市場規模としては魅力的ではあるが、必ずしも「Firefox OS」が売れる条件が揃っているわけではない。それでも中南米市場はTelefonicaにとって収入、利益の50%を占め、加入者総数の約7割を占めることから非常に重要であり、同市場での事業展開の成否は会社全体に影響を及ぼしかねない。そのためTelefonicaも本気で「Firefox OS」スマートフォンの普及に取り組んでいるはずである。
 これから中南米市場でTelefonicaと端末メーカーがどのような販売戦略を採るのか、また「Firefox OS」は中南米市場で受容されTelefonicaにとってスマートフォン普及の起爆剤となるのか、注目していきたい。

(図2)Telefonicaの中南米での主要展開国

(図2)Telefonicaの中南米での主要展開国

(出典:Telefonica資料を元に筆者作成)

【参考動画】

*本情報は2013年8月2日時点のものである。

※1 Telefonica(2013) Aug 1, 2013,” Firefox OS arrives in Latin America”
http://blog.digital.telefonica.com/?press-release=firefox-os-latin-america-launch

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