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風見鶏―”オールド”リサーチャーの耳目
2013年11月12日掲載

公衆無線LAN
-プラットフォームから新しいネットワークインフラへ-

(株)情報通信総合研究所
相談役 平田正之

最近、ノートPCをはじめスマートフォン、タブレット端末などに無線LAN機能が広く搭載されるようになり、それに伴って改めて公衆無線LANに注目が集まっています。従来から、どこでもインターネットに接続できる利便性から、特に欧米ではノートPC普及の早い段階から無線LANが活用されてきましたが、数年前からスマートフォンやタブレット端末が広がるにつれて、我が国でも無線LANを用いてインターネットに接続する利用方法が一般化しつつあります。

その契機となったのは、モバイルによるデータ通信、なかでも映像通信トラフィックの急増であり、モバイル通信ネットワークへのトラフィック負荷を分散し軽減する方策としてオフロードがモバイル通信事業者によって積極的に実施されたことが大きく寄与しています。モバイル通信各社は公衆無線LANの整備を進め、数十万か所のアクセスポイントが短期間のうちに設置されました。技術サイドにおいても、最先端の方式や周波数の利用など高速化やセキュリティ面の努力も見られます。こうした施策は、モバイル・ユーザーの宅内への無線LAN設置の取り組みを含めて、ネットワークのオフロード方策であると同時に、ユーザーへの付加サービスとして利用者の囲い込み策となっているところです。そのため、モバイル通信事業者をまたがった共通的なサービスとはなっておらず、公衆無線LAN機能としては、誠に使い勝手の悪いものと言われざるを得ない実情にあります。

一方、世界を見てみると、広くスマートデバイスの主要な通信手段として公衆無線LANの活用が進んでいます。ノートPCやタブレット端末はもとよりスマートフォンでもインターネットにアクセスする手段として無線LANが多く使われています。これはモバイルの高速インフラネットワークがまだ発展途上にある地域が多いことや料金面からチャット等の音声サービスを利用するためと言われています。つまり、世界では、モバイル通信の付帯サービスではなく、公衆無線LANを用いたインターネット接続はもはや、プラットフォームとなって定着しているのです。従って、空港や駅、公共施設など人の集まる場所ばかりでなく、コンビニエンスストアやファーストフード店、カフェなどに公衆無線LANが設置されていますし、地域の自治体自ら公衆無線LANを道路や広場、地下街等に整備しています。

政府は観光立国日本を掲げて、訪日外国人2000万人を目指して、“おもてなし”や“クールジャパン”戦略を推進していますが、実際に来日した外国人観光客には日本の貧弱な公衆無線LANの通信事情に不満が断えないと指摘されています。ハイテク日本との認識が来日当初に崩れてしまうことは本当に残念なことです。いまやほとんどの外国人観光客はノートPCかタブレット端末を持って来日しますが、日本に着いていざインターネットで観光情報を検索しようとすると、公衆無線LANのアクセスポイントがなく、がっかりするという訳です。残念ながら、日本の都市、特に風光明媚な観光地や神社仏閣など歴史溢れる街には、公衆無線LANが十分に整備されているとは言えません。スーパーマーケットやショッピングモールなどには買い物やイベントのプラットフォームとして公衆無線LANは多く見られるものの、道路や広場などへの整備は遅れ気味です。もし、現状の整備水準のまま2020年の東京オリンピック/パラリンピックを迎えてしまうとなると、これは日本にとって大変不名誉なことになるでしょう。現在でさえ、街なかに公衆無線LANが整備されていない都市には、国際会議や国際的イベントは誘致できないと言われています。少し前までは、光ファイバー網やモバイルネットワークの完備が必須の条件でしたが、現状では、さらに公衆無線LANの存在感が大きくなっています。

公衆無線LANというと何か特別な非常に高度な技術を要するサービスのように誤解されがちですがそうではありません。例えて言えば、街なかにある街灯のようなものです。街に住む人や訪れる人達にその街の夜間の明るさが安心安全を、活気を、人の集まりをもたらし、社会・経済を明るく豊かにしてくれているのです。道路や広場の街灯は“公衆”のものです。街のお店やホテル・駅などの明るさは、それぞれ事業/営業のためです。この両者があって生活空間が成り立っています。公衆無線LANも同じことです。コンビニやスーパー、ホテル、駅だけではまだ事業や営業のためのプラットフォームの域を出ません。街中に道路や広場に公衆無線LANが整備されてこそ、新しい街作りの基礎となります。公衆無線LANのインフラ化こそ都市再生のポイントです。成長戦略の達成のためには、外国からの観光客に満足してもらえる水準を、また高齢者にもやさしい暮し易い街作りに適したレベルを早急に築き上げる必要があります。2020年、オリンピック/パラリンピックの東京開催は待ってくれません。

最後に、これまでそれぞれの主体がまったくばらばらに目的も方式も方法も個別に設置されてきたのが公衆無線LANでした。これは規制のない自由な周波数の利用なので、各主体の思惑が優先することになったため、当然のことでした。しかし、さすがに整備水準が上がってくると、利用者にとっては誠に使い勝手の悪いものとなっています。そこで最近12月8日に、NTTブロードバンドプラットフォーム(株)が、Androidアプリ「Japan Connected―freeWi-Fi」 の提供を開始すると発表しています。これは、代表的な空港ビルやJR東日本/JR東海、福岡市/沖縄市、三菱地所などの協力事業者の公衆無線LAN(Wi-Fi)エリアを探索・接続するアプリケーションで協力事業者間の連携支援を図るものです。訪日外国人にとって便利で自由にインターネットが利用できる朗報です。

残念ながら、今日まで公衆無線LANを用いて利用者から収益を上げるビジネスモデルは確立してはいません。世界を見ても、この種のサブスクリプションモデルは無理なようです。そうなると視点を変えて、場所を限定できる特性を活かした付加価値の提供手段として店舗やイベントなどに活用するか、利用者の行動に直結した位置情報のビッグデータ分析をマーケティングに利用するか、などいわゆる広告・マーケティングモデルとして収益を上げていく道筋を追求する方がよいのではないかと考えます。いわば、目にはみえませんが場所を限定した街中のICT広告塔とでもいうべきものです。こうした場合、道路や広場などの公共施設に設置された公衆無線LANを広告やマーケティングに民間利用することになるので、公共施設利用の新しいルール化や特例措置など規制緩和もまた必要になります。政策や政治の出番がありそうです。

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