ホーム > 風見鶏―”オールド”リサーチャーの耳目 2014 >
風見鶏―”オールド”リサーチャーの耳目
2014年3月12日掲載

利害調整を越えた未来志向の政策論議に期待
−情報通信審議会特別部会が検討開始−

(株)情報通信総合研究所
相談役 平田正之

総務省の情報通信審議会は2月3日(月)に第31回総会を開催、総務大臣の諮問「2020年代に向けた情報通信政策の在り方―世界最高レベルの情報通信基盤のさらなる普及・発展に向けて―」を受けて、2020-ICT基盤政策特別部会(以下、特別部会といいます。)を設置して検討することを決定しました。さらに、この特別部会は第1回会合を2月26日(水)に開催して、部会長に山内弘隆一橋大学大学院商学研究科教授を選任し、特別部会の下に山内氏を主査とする基本政策委員会を設けて検討体制を整えました。検討スケジュールは、特別部会において5月に論点論議、7月に中間整理、9月に報告書案、11月に報告書取りまとめを行い、その後、情報通信審議会から総務大臣に答申する予定が示されています。調査・審議に関わる関係者が多く、さまざまな意見が出され多面的な検討、論議が進むものと期待しています。

今回の諮問のベースとして、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」に掲げられている“世界最高水準のIT社会の実現”を図ることがあり、アクションプランのひとつとして世界最高レベルの通信インフラの整備を実現するために必要な制度見直し等の方向性について2014年中に結論を得ることがあげられています。具体的な答申を希望とする項目としては、

  1. 2020年代に向けた情報通信の展望
  2. 情報通信基盤を利用する産業の競争力強化のための電気通信事業の在り方
  3. 情報通信基盤の利用機会の確保や安心・安全の確保のための電気通信事業の在り方
  4. その他必要と考えられる事項

が示されています。

この情通審への諮問内容や基本認識においては、これまでの電気通信に関わる制度を見直すことを検討テーマの中核に据えていますので、単純に現行制度の問題点や矛盾を解消する以上の大きな課題が設けられています。まさに、10年後を見据えた未来志向の政策論議が展開され得る仕掛けが作られたと感じられます。しかし、残念なことに具体的な答申項目の絞り込みにおいては、“電気通信事業の在り方”に検討領域が設定されてしまっていて、近年特に影響力を増しているプラットフォームサービス/ビジネスへの広がりがみられません。通信インフラを語るだけでは2020年代の情報通信基盤は不十分で、プラットフォームのあり様まで含めた基盤を考えておく必要があります。既にインフラを越えたプラットフォームが経済・社会・生活・産業のなかで誠に重要な役割を果していることは周知のものとなっているだけに避けて通る訳にはいきません。諮問と答申、審議会の運営などを考慮すると総務省の所管分野の問題はありますが、2020-ICT基盤政策を検討する特別部会を設置する以上、電気通信分野だけにとらわれず、また電気通信事業法とNTT法の領域にこだわることなく、現下の潮流と世界の動向に大きく眼を向けた論議となるよう願っています。

それはこれまで過去に幾度も電気通信事業のあり方がこうした審議会の下で論議されてきましたが、その都度私達の目の前で展開されてきたのは、利害関係者間の対立論争とその調整に終始する政策当局の姿でした。NTT法に定められた期限を付けた定期的な見直しが毎回の契機でしたので、NTTのあり方論をこの間20数年に渉り議論して、その都度、種々の妥協と合意が図られて現在のような詳細で複雑な諸規制が築き上げられてきたのです。しかしながら、国民・ユーザーの視点からは、このような掛け引きに満ちた論争はもはや十分なのです。2020年年代のICT基盤をどのように展望し、我が国の成長戦略にどのようにして繋げていくのか、この課題解決に向けた回答案を国民・ユーザーは求めています。例えば、現行の業法である電気通信事業法とNTT法はさまざまな変遷(法改正)を経つつも、基本原理は30年近くの運用実績があり既に制度疲労がみられるのではないかと感じています。何よりも現状の制度設計から四半世紀以上、またNTTの分割からも15年という長期間が経過して今日の市場構造を作り出しています。この間の制度のあり方をどう評価するのか、政策目標の単純な未達成とか過剰反応としてとらえるのではなく、政策手段や効果まで含めた判断が求められます。情報通信サービスの先進国である欧米や韓国ではさまざまな取り組みや変化があり今日に至っています。整理すると、(1)固定と携帯の統合運営-どちらかというと携帯中心のサービス展開、(2)料金や約款などの規制緩和・撤廃、(3)規制対称外にあるOTTプレイヤーの隆盛、(4)IT機器/OSプロバイダーの影響力増大に集約できます。

具体的には、第1にOTTプレイヤーによる世界的な(世界各国に展開する)プラットフォームに対する政策対応をどうするのか、第2は無線免許不要の無線LAN(Wi-Fi)をどのように通信インフラに取り入れていくのか、の2点がポイントになると考えます。この2点とも先に指摘した電気通信事業法とNTT法の枠外になりますので誠に扱いにくい問題です。既にプラットフォーム運営では外国資本や新規事業の参入が大きく進んでいますし、一方で公共的なWi-Fiの普及を求める声は日々大きくなっていて観光立国日本や2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けての公共事業の域にまで達している観を呈しています。さらに、電気通信事業分野を越えるICT全般の設備投資を産業競争力向上のためにどのように進めていくのか―特にICT投資の乗数効果は当社ICRによる最近のシュミレーションでは3年後には2.3に達して一般投資の乗数1.2の2倍近い高い数値となっています。すべての産業においてICT投資を進めることが我が国の成長戦略にとって重要な柱となります。日本のICT投資比率(設備投資全体に占めるICT投資の割合)は20%程度とまだまだ低いだけに、産業競争力強化のため“2020年代に向けた情報通信の展望”を描く重要性は極めて大きいものがあります。さらに、ICT投資の促進のためには利便性やセキュリティに加えて、個人情報の保護と利活用の両立などの幅広い領域の検討が必要となります。要するに従来から継続してきた電気通信事業分野だけの検討では過去と同様の既存事業者間の利害衝突のみがクローズアップされてしまい、本来議論されるべき多くの課題が遠のく危惧があります。正直のところ約3年前の“光の道”論争について現状どのように認識したらよいのか、ここは未来志向で考えておいてよいと思っています。整備水準を高めることよりも、サービスの普及促進はより厳しい難しい戦略課題なのですから。

今回始まった特別部会においては、産業競争力や利用機会、安心・安全を答申事項とする以上、現下のサービスや市場構造の中で大きな変化をもたらしているプラットフォームと無線LAN(Wi-Fi)についての推進方策が取り上げられることを望みたい。これはICTサービスの提供者の視点ではなく、ICTサービスの利用者の立場からする希望です。加えてこの2点が規制のない自由なサービス領域であるだけに、逆説的に政策当局の役割もこの際併せて整理しておく必要があると思っています。自由で規制のない分野であるからこそ、強力な外国資本が数多く存在していますので、日本の通信事業者においても規制を離れてプラットフォーム化を目指した活発な取り組みが進むことを期待しています。

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。