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風見鶏―”オールド”リサーチャーの耳目
2014年11月5日掲載

光回線卸 ―光コラボで新しいパートナー関係を構築する―

(株)情報通信総合研究所
顧問 平田正之

先日、10月16日(木)に「つくばフォーラム2014」に行って来ました。その時に、オープニング後の基調講演(岡政秀 NTT東日本副社長)と特別講演(中山俊樹 NTTドコモ常務執行役員)を拝聴する機会を得ました。とても参考になる、今の2社の事業環境がよく理解できる貴重なお話でしたが、その中で特に耳に残るキーワードが“バリューパートナー”であり、“スマートライフのパートナー”でした。前者は光回線卸をベースにした光コラボレーションを意味していて自らをパートナーと位置づけるものであり、後者はNTTドコモが標榜するスマートライフで自らをお客に寄り添うパートナーとしているものです。両者とも自らを選ばれる存在としているところが印象に残りました。

バリューパートナーやコラボレーションという言葉はNTT持株から2年程前に発信されたと記憶していますが、光アクセスの「サービス卸」という提供形態がようやく登板したもので、NTTの説明のとおりB to CモデルからB to Bモデルへの大転換を追求する革新的な取り組みとなっています。パートナーという言い方は単なる言葉の使い方の変化でも歌い文句でもなく、本当に新しく生じている価値感の変化を体現したものと言うことができます。光回線の普及速度の逓減や音声収入の大幅な減少など需要構造の大転換を踏えた、これからの通信事業のあり方を示したものです。さすがに、卓越した言い方だなと感じています。パートナーばやりですが、ここで少しパートナーとは何か、パートナーであるための条件(意味合い)を考えてみますと、辞書的な意味では、(1)ダンス・競技などの、二人で一組となるときの相手、(2)仕事などを共同でするときの相手、(3)配偶者、となります。NTT東西もNTTドコモも、このうちの(2)を指している訳ですが、言葉の背景にはパートナーには特定者や特定な専属的関係の存在があることが分かります。さらに、今回の光コラボのケースを分析してみると、

  1. サービスブランドは取引先か―サービスの提供主体は契約相手、
  2. NTT東西は客先からは見えない黒子、つまりサービスの構成要素のひとつ、
  3. 通信会社相互のいわゆる「接続」ではない、
  4. 取引(契約)形態は相対型で多様な形となる、

など多くの観点から分析が可能です。例えば、サービス卸とは言っても、取引形態によって設備(在庫)リスクの負担の仕方によって固定的な価格設定からレベニューシェア型までさまざまな取引条件が可能です。従来から通信サービスは約款化されて提供されてきましたので、なかなか相対契約になじまない取引でしたが、ここに来てようやく相対型の多様な取引形態が発展しようとしています。この相対型による多様性の発揮こそ、新しいイノベーションを生み出すことに繋がりますし、いろいろな新しいサービスの源となるものです。日本では技術開発は盛んで種々の技術革新は進んでいるものの、サービス開発となると思うようには進展せず多くのICT絡みの新サービスが外国、特に米国発となってしまっているのも、この辺の事情に拠ると思います。ベンチャー型の新サービスは必ずや相対型の取引を前提とした多様性の中から生まれるものです。

今回提起されているバリューパートナーや光コラボの取り組みにおいては、通信事業者自身が自らのB to C型事業モデルに限界を感じていることが示されていますが、それが何故B to B to Cモデルへの変換となるのかを考えてみます。それは音声収入の継続的減少をデータ通信収入で補完するという構造変化が従来のB to Cモデルでは限界に達しているという事情にあるからでしょう。音声サービスは人の声を繋ぐという極めて特殊なサービス形態に基づくものであったので、なかなかデータ通信になじまず、肉声のもつ微妙なニュアンスのデジタル化が結構難しいものであったため、音声サービスの地位が低下するまでに長い期間を要しました。徐々に進展するだけに、その間にデータ通信収入の増加でカバーできるのではないかという取り組みが見られた訳ですが、結局、その音声サービスそのものがデータ通信化され、デジタル技術の中に取り込まれてしまい今日に到っています。音声サービスと違って、データ通信(パケット通信)サービスは、情報伝送そのもののサービスなので音声のように特別の具体的なサービスを意味しない、どのような個別のサービスにも適用可能な中立的な通信伝送を提供しているところが音声サービスと本質的に違っています。ここに各種の多様な個別のサービスが生まれる基盤があり、多採な需要に応じた種々のサービス開発が必要となる由縁があります。逆に、ネットワーク中立性の主張の根源も同じ点にあることはまた注目されます。

このように多様なサービス開発は、通信伝送提供者たる通信会社だけでは、当然、能力、稼働、経験、顧客接点などどれをみてもすべてに応ずることはできません。これこそB to Cモデルの限界なのです。この点では、普及やブロードバンド化の進展が早く起った固定通信サイドに強い認識がありますが、モバイル通信においても同様の流れにあり、概ね5年遅れというのがこれまでの経験値でした。結局、客先の需要に応えるサービス作りや販売・マーケティングは、どうしても得意領域を有する人達のパートナーとなって提供することが近道となります。発想的にはサービスの提供主体にパートナーとして選んでもらうということです。

今、NTTグループが打ち出していることのポイントはパートナー戦略の時代ということに尽きます。光アクセスの「サービス卸」やそれを踏えてのドコモによる光回線とモバイル回線のセット割引参入などに、まだまだ競合会社からは反対や取り扱い面の意見が数多く出されていますが、ブロードバンド化やオールデジタル化の流れの中、パートナー戦略こそが今後の日本の成長戦略、国際競争力強化に繋がるものと考えます。その場合、パートナーとなるには、収益配分、リスクの取り方を巡って、レベニューシェア、ロイヤルティ、価格の柔軟性を始め、資本(資金)や人的交流など多面的なパートナー戦略があり得ます。要は、どのサービスがどのようなパートナー方式に適しているのかを見極めることが大切です。残念ながら国内通信サービスではこうした事例に乏しく、通信事業者は不慣れですので、従来考えてこなかったこの種の問題に挑戦する姿勢が求められます。

誰とでも同じ価格・同じ条件での卸売ではパートナーとは言えません。専売的・排他的な販売や特定の条件を付した提携など、他に模倣が難しいケースこそ、その名に相応しいパートナーの取り組みではないでしょうか。今回の情報通信審議会特別部会の報告書では、この光アクセス「サービス卸」について、総務省に対し透明性と公平性の担保のあり方を定めるよう求めていますが、この新しい形のサービスを単純な回線卸サービスのひとつと割切ってしまうと、卸価格や卸条件の均一化になり具体的な市場競争は単純化されて価格競争だけに陥り易くなります。通信会社の相互「接続」をベースにしたモバイル回線利用のMVNOでは、もっぱら単純な価格競争だけが強調されていて、新しい形のサービスなど幅広いイノベーションが十分見られないのがその例でしょう。光コラボレーションでは、こうした単なる回線卸を越えた新しいサービスイノベーションを期待しています。例えば、テレビ放送と協調した映像配信サービス、特にVODサービス、光とモバイル回線を協調利用するクラウドと新しいデバイスの融合、高齢者・独居者向け見守りや検診、食材や食事配送サービス付の光・モバイル融合サービスなどが楽しみです。

光回線が新しい型でパートナー戦略として相対型契約(サービス)を創出するのに併せて、モバイル回線においても改めて「接続」形態によらず卸形態の相対契約の活用と普及が求められます。非対称規制の緩和が今回進められるとの特別部会報告書の内容なので、これによる単純な価格競争だけでない新しいサービスイノベーションが進むものと思います。IoTやクラウドを活用したサービスの多角化には相対契約型のサービス創出が不可欠だからです。

残された課題は、相対契約やパートナー型のサービスに透明性・公平性をどう担保していくのかということになります。相対関係であり、取引やサービス内容それ自体が相対で相互の依存関係(パートナーシップ)で成立している以上、単純に公表するには適しません(例えば、企業秘密が含まれています)ので、外形的に透明性・公平性をどう判断していくのか、市場支配力の行使や差別的取扱いをどのように監視していくのか、などの新しい課題が生じます。ただ、これまでと同様に監督当局の事前規制によって生まれる前に排除されてしまうと、新しいサービスイノベーションが阻害されてしまいかねません。今後の成長戦略や国際競争力強化のためにも、この新しい課題、即ち相対契約型の取引の透明性・公平性を産業政策的観点からどのように担保していくのか、これこそ今日の日本のICT政策の根幹だと思います。国内市場だけに囚われない国際的に整合した監督当局の監視の仕組み構築を期待しています。

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