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When the Music is over the Internet
2009年4月掲載

ムーアの法則も青ざめる1曲あたりのメモリー価格の急降下

 中学校高学年から洋楽ロックを聞き始め、その音楽の嗜好性がジャズやクラシックに成熟化することなく、飽きもせずに、「ボブ・ディランだ!ローリング・ストーンズだ!」と騒ぎ続けている、ロックおやじのコーナーを始めることにしました。音楽趣味を語りたいのは山々ですが、それは飲み会の席に譲るとして、本コーナーでは「音楽と通信の融合」に関して、最先端の動きを出来るだけ実体験に即して語っていきたいと考えています。

 最初のお題は、iPodに代表されるデジタル・オーディオ・プレイヤー(以下、DAP)のメモリー(思い出ではなく記憶容量)の話です。今や、DAPは音楽ファンで持っていない人は珍しいほど身近な存在になりました。また、DAP機能内蔵の携帯電話を含めると、外出中に気楽に音楽を楽しんでいる人は本当に多いことでしょう。しかし、「ポケットに入るサイズの端末で160枚のCDを持ち歩こう」といった宣伝が当たり前になった裏で、この4〜5年間に驚くほどの端末の価格破壊が起きていたのです。

 それに関する個人的な逸話を紹介しましょう。今、私の手元に色あせた2005年2月のDAPのレシートが残っています。記憶容量が256メガバイト(MB)の製品を15,540円で購入したという記録が印字されています。現在では、256MBの製品など探し出すのも困難であり、ケタ違いに大容量の20GB、30GB、80GBなどの製品が店頭に並んでいます。iPodでは、旧タイプであれば120GBで29,800円という破格の製品も発売中です。

 いったい、この4年間にDAP製品のお手ごろ感はどれほど向上したのでしょうか。ここでは、「1曲あたりのメモリー価格」という視点から検証をしてみたいと思います。少し変わった指標ですが、これは、国際電気通信連合(ITU)が2003年に発表したインターネット報告書(「ITU Internet Report 2003-Birth of Broadband」)の中で、「日本では下り速度が最高26Mbpsのブロードバンド(ADSL)が月額24.19ドル(購買力平価ベース)で提供されている。これは、100Kbps当たりの料金が0.09ドルに相当し、世界で最高速、最低廉のブロードバンドが提供されている」と指摘した手法にヒントを得たものです。余談ですが、その時の2位は韓国(0.25ドル)であり、米国(3.53ドル)や英国(6.37ドル)は、ブロードバンドでは遥かに遅れた存在でした。

 さて、DAPに話を戻すと、音楽ファイル1曲分の容量は圧縮率(ビットレート)によって異なりますが、シングル曲の標準的な長さを3分半とすると、中品質のビットレートの場合には約5MB/1曲になります。より具体的な例で計算をしてみましょう。私のパソコンに192Kbpsのビットレートでインポートした、ミック・ジャガー(ローリングストーンズ)の「God Gave Me Everything」(3分32秒)という曲が4.90MBの容量で蓄積されています。これらの数字を基礎にして、DAPの1曲あたりのメモリー単価を計算したのが下の表です。

デジタル・オーディオ・プレイヤー(DAP)の1曲あたりのメモリー価格の比較
(注)2009年の価格は、大手量販店のサイトに掲載されている代表的なメーカーの販売価格から引用。
DAPのメモリー容量 DAPの製品価格 収録可能なサイズ 1曲あたりの
メモリー価格
(1)or(2)÷(3)
(1)2005年 (2)2009年 (3)シングル
曲数
CD枚数
(20曲収録
で計算)
256MB 15,540円 52曲 2.6枚 298.8円(4)
2GB(=2,000MB) 7,980円 408曲 20枚 19.6円
8GB(=8,000MB) 16,360円 1,632曲 80枚 10.0円
16GB(=16,000MB) 22,800円 3,264曲 160枚 7.0円(5)

 この表のから分かる通り、4年前と比べると、1曲あたりのメモリー価格は1/43に低下した計算になります(4と5の対比)。1年間の平均では1/11(0.09)ずつの下落率です。これは、有名な「集積回路上のトランジスタ数は18カ月ごとに2倍になる」という、いわゆる「ムーアの法則」(彼自身はその発言を否定しているようですが)の年間下落率が3/4(0.75)ですから、実にその約8倍の速度で急降下したことが分かります。勿論、メモリーやハードディスク自体の値段は、全ての製品で急落しています。例えば、ある家電量販店のサイトによれば、USBフラッシュメモリは32GB(現行の最高容量)で9,800円、外付けのハードディスク・ドライブ(HDD)が250GBで8,800円といった具合です。ちなみに、現行の市販のHDDの最高容量は7.5テラバイト(7,500GB=7,500,000MB)であり、これはさすがに209,800円とお高くなっています。(ただし、シングル曲を153万曲、CDを7.7万枚格納可能であり、1曲のメモリー単価は何と0.14円!です)

 音楽ユーザーにとって、持ち歩ける楽曲が幾何級数的に増えるのは、一面ではこれほど有難い話はありません。しかし、他方で、個人的には「一曲の重みや有難味が薄くなったな」という印象も拭えません。The Doorsの曲に「When the music's over」という10分を超える大曲がありますが、その最後の余韻に浸ることなく、「長っがい曲だなぁ、飛ばそう!」(つまり、Before the music's over, turn round the click wheel.)では、少し味気ないではありませんか。ネット社会には、多くの場面でこのような利便性とある種の刹那感が混在しているような気がします。「刹那感を上回る利便性と快適性の追及の提言」、それも、本コーナー 「When the music is over the Internet」 のもう1つの追及テーマとしていきたいと思っています。

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